1-9 毒はいつでも強ステータス異常です



「天上のスライム、襲ってくると思いますか?」

「……でも、こっちは透明なんだし、大丈夫じゃ……」

「試してみましょうか」


 一歩、透明のまま踏み出す。

 もぞりとスライムが動き、その身体からうにうにと触手みたいなものが伸びてきた。早い。


「視覚でなく、熱源や嗅覚に反応してるんでしょうか。……魔法攻撃、試してみますか?」


 一匹くらいなら倒せるかもしれない。

 幸い深瀬さんは魔法使いだし、スライムと言えば魔法に弱いのが定番だ。


 スライムから距離を取り、透明化を解除。

 彼女がおそるおそる前に出て、破壊の神らしく杖を構えた。

 ちなみに本ゲームの魔法は、魔法ウィンドウから指定魔法を指示するか、口頭で叫ぶことで発動できる。


「スニークファイア!」



【スニークファイア】

【炎魔法。もっとも近くにいる対象一体(自身とフレンド除く)に炎弾が自動的に攻撃する】



 杖から手の平サイズの炎が出現。

 蛇の尾をつけた炎はすぐに燃え上がり、ぐりん、と首をもたげるように回転し――直撃した。

 僕の顔面に。


「ごめん深瀬さん、ちょっと熱いかも……」

「ごごご、ごめんなさい! ちょ、なんで!?」


 ああ。夏場の海で直射日光を浴びてるような、ちりちりした痛みを感じる……。

 まあ近くの対象一体、って、モンスター指定はしてないよなぁ――



【チュートリアル:フレンドリーファイア】

【本ゲームでは敵味方を問わず、すべての攻撃がヒットした相手にダメージを与えます。ただしフレンド登録を行っている相手にはダメージが入りません。人間関係の第一歩は暴力ではなく対話です。いま攻撃した相手をフレンド登録し――】


「うるさいわよ! てかフレンドリーファイアした相手とその場で友達ってどう考えても気まずいでしょ開発者バカなの!?」



 深瀬さんがウィンドウを閉じた。

 そして炎に反応したのか、スライムの触手がこちらにひゅっと伸びてきた。


 僕は深瀬さんを庇いつつ後方に回避。

 先程まで彼女がいた床をスライムの触手が叩き、地面を抉るように溶かしてしまう。


「……つ、捕まったらエロVRみたいなことされそう……」

「政府公認ゲームでそれはないと思いますけど……他に攻撃魔法って、ありませんか?」

「た、試してみる……」


 それから彼女は幾つかの魔法を試し、スライムに命中したもののHPゲージに殆ど変化はなかった。

 もともと複数人仕様のゲームだから、敵HPが全体的に高いのだろうか?


「ほかに攻撃アイテムとかなかったかしら……?」


 僕も自分のアイテムを探す。

 一応【火炎弾】という攻撃アイテムがあったけど、深瀬さんの攻撃魔法とそう威力は変わらない。

 彼女もアイテム一覧を開いて確認するも、やはりポーションや防御用の御札や、きのこや……


 きのこ?


「ぅ。洞窟の隅とか、壁に張り付いてるのを、こっそり拾って……採取できそうなアイテムって、つい拾いたくなるわよね?」

「まあ確かに」

「このきのことか、いかにも体力回復しそうかなって……ほ、ほら! これなんか白くて細長くてきれいな傘があって、見た目が天使みたいでしょ? ザ・キノコって感じで」

「それがちで日本最強にヤバい毒きのこなんで捨ててくださ……」


 ん。待てよ?


「それ、頂いてもいいですか? 試したいことが出来ました」


 彼女からきのこを頂いた僕は、犬にフリスビーを投げる要領で、ぽいっ、とスライムに投擲してみた。

 反射的に触手を伸ばしたスライムが、きのこを掴み、体内に取り込み溶かしていく。


 意図を察した深瀬さんも、ぽいぽいと、きのこを投げはじめる。

 スライムは動くものに反応するらしく、次々と食い尽くし――


【ステータス異常:毒】


「「やったっ」」


 毒状態を示す毒々しい紫の泡エフェクトが、スライムに表示された。

 同時に――かなりの勢いで、HPゲージが減少し始める。


「有効みたいです。ありがとうございます、深瀬さん」

「い、いや、その……たまたま、よ。あたしが拾ったものの毒の効果に、あ、あなたが気付いてくれたから……」


 恥ずかしそうに照れる彼女。

 なんていうか、素直な子だなぁ。

 と頷いてると、彼女がくいと僕の袖を引いた。


「ねえ。今のうちに一旦戻って、きのこ集めない? もし毒が切れた時に、追撃できるといいと思うんだけど……卑怯かしら?」

「いい案ですね。あと僕、ここだけの話ですけど、勝つために手段は選ばない方なので大丈夫です」


 彼女の提案に従い、僕らは再び透明化してきのこ採取に戻りつつ――

 密かに、深瀬さんという人について考える。


 透明化しつつの採取なので姿は見えないけど、声が弾んでいるし、心なしか繋いだ手にも力が籠もっている。


 彼女はおそらく――ちょっと引っ込み事案だけれど、楽しいことに対しては、力が出る方なのだろう。

 そして結構なゲーム好き。

 脱出中についアイテムを拾ってしまうのは、ゲーム好きの性だと思う。


「……なに?」

「いえ。深瀬さんは頼りになるな、と思っただけです」

「そ、そんなこと……」


 見えないのが残念だけど、彼女はきっと照れてるんだろうなぁ。



 そうしてきのこを採取し、スライムの元へ戻って何度かきのこを投げていると――変化が起きた。


 天上に張り付いていたはずのスライムが、地面に落ちていたのだ。

 そのHP残量は既に20%を切り、瀕死の様相ではあるが……


 体内からぽこぽこと、淡い緑の光を発していた。


 あれは何だろう? と僕らが不思議に思っていると、やがて光が収束。

 ぴろん、と音がして――スライムのHPが回復した。


「「自動再生!?」」



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