1-4 フルプレートアーマーの中身は女の子


「……え?」


 威圧感たっぷりのまま、仰向けで倒れる破壊の神。

 戸惑う僕……と、二匹のウサギ。


「―――! ―――!」


 破壊神さんは仰向けにひっくり返ったまま、じたばたと暴れている。

 音声がくぐもってよく聞こえないが、何かを喋っているような……。


「あのぉ。破壊神さん?」


 おそるおそる一歩近づくと、視界右下に小さなメッセージが表示された。



【軽装薬Ⅲの効果が切れました】

【ステータス異常:重量オーバー500% 移動力100%↓ あらゆる動作ができません 装備が重すぎます 装備を外してください】



「あの……もしかして動けない、とか?」

「――! ――!?」


(いやそんなはずないか。幾ら初心者でも、いきなりこんな重装備して転がるようなことはないと思うし……)


 とすると、この転倒は……そうか。

 罠だ!

 転倒は敵を誘うトラップ。その実、ウサギが調子に乗って突撃してきたところに「かかったな馬鹿め!」と起き上がり素早く反撃を決めるための前準備に違いない。


 一見するとこの、ひっくり返ったまま動けず、無様に足をばたつかせながら藻掻いてるカブトムシみたいな格好も……

 彼の、狡猾な演技なのだ!


 成程、とすべてを察した僕の前で、ウサギ達がハッと我に返った。

 「きゅううーっ!」と可愛い声をあげ、それが罠とも知らず破壊神さんに飛びかかり――



 どすっ!

 と、思いっきり鎧の脇腹ににツノを突き立てた。




「破壊神さん??」

「―――!? !?!?!?」


 ドスドスドス!

 何度も脇腹を角でつつかれる破壊の神。


 さらに調子に乗ったウサギが破壊神さんの腕にとびかかり、がぶり! と思いっきり噛みついた。

 そのまま前歯でがぶがぶ噛みつき、背中をまるめ。


 げしげしげし!

 と、バタ足キックコンボを決めまくるウサギさん。


 んほおおお、と悶絶する破壊の神。

 って……あれ?


(罠じゃない? なんか普通にボコられてません?)


 ていうか、明らかに苦しそうなんだけど!?

 何か地面タップして、ヘルプ求めてるし!


(ま、まずい。助けないと!)


 ゲームとはいえ、ボコボコに蹴られてる人を放っておく訳にはいかない。

 とはいえ僕はまだゲーム開始直後で、アイテムとか何もないし……

 いや。でも先生が、破壊神さんと冒険する代わりに、アイテムと成績に色をつける、と――


 チュートリアルに従い、アイテム画面を開く。

 幾つかの回復薬らしき薬瓶と、黄色い玉がある。

 その玉に【閃光弾】と書かれているのを見つけ、画面より引っ張り出すようにアイテムを掴んだ。


「破壊神さん、目を閉じて!」


 地面に叩きつける。

 強烈なフラッシュが一面を覆い、瞼の裏を焼くような閃光がフィールドを突き抜ける。

 【閃光弾】。

 敵味方を問わず、目を開いていたものを一定時間気絶させるアイテムだ。


 もちろん瞼を閉じていた僕に効果はなく、閃光消失後に目を開くと――


 ウサギ達がひっくり返り、ぽてん、とお腹をみせていた。

 頭の上には気絶エフェクトの表示なのか、星形マークがくるくると回転している。


「効いた……今のうちに!」


 とにかく破壊神さんを助けて、この場から逃げなきゃ――と彼の身体を抱えようとして、


「重っ!?」


 背負うどころか、引き上げることすら出来ない。

 っていうか装備品が重すぎる!


「破壊神さん、これ脱いで! とりあえず全裸でいいから脱いでください!」

「う~……」


 っていうか破壊神さんも【閃光弾】で気絶してる!?


(まずい。他人の装備解除とか、出来るんだろうか)


 ウサギが目を覚ます前に離脱しないと。

 彼の鎧に触れつつ、表示されるウィンドウを片っ端から探していく。


(ええと、装備解除、装備解除……あった!)


 気絶してる相手のアイテムウィンドウを開き、装備マークがついていた漆黒の鎧と剣を解除。

 直後、いかつい漆黒の全身鎧が、ぱっと消失して――


「……え」


 びくっと手を止めてしまった。


 僕が勝手に大男だと決めつけていた、全員鎧の下にあったもの。

 気絶エフェクトを出したまま、ぐるぐると目を回していたのは――


 さらりとした黒髪の、おそらく僕と同い年ぐらいと思われる、可愛らしい女の子だった。


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