第一回二者面談①

 それは、突然やってきた。

 中学一年生になって、約三か月。

 三か月しか経ってないとは思えないくらい、色々なことがあった。

 悩みに悩んで入部した部活を辞めて、帰宅部になった。

 友達ができず、教室で一人ぼっち。

 勉強ができるわけでもないから、テストの点数もよくない。

 そんな中でやってきた、生徒と担任の先生による『二者面談』。

 テストの点数が悪い、とか、また部活に入りなさい、とか。

 そういうことを言われるんだろうか。

 だとしたら嫌だな、もう部活は入りたくない。

 でも、勉強も頑張れる気がしない。

 だけどそれじゃ、私に何が残るだろう。


 前の人の面談が終わるのを廊下に並べられた椅子に座って、待つ。

 ガラッ、と教室のドアが開いて、前の人が出てくる。

 ああ、終わったんだ。次は、私の番だ。

 そう思っていると、教室の中から声がかけられる。


「桜庭さん、桜庭玲さん、どうぞ」


 まるで病院で呼ばれる時みたいに、フルネームで呼ばれる。

 

「……はい」


 多分、教室の中にいる先生には聞こえないくらいの小さな声。

 それを絞り出すようにして、私は席から立ちあがった。

 そして、教室の中に入る。


 教室に入ると、先生が笑って自分の座っている席の向かい側を指さす。

「どうぞ」

 そう言われて、先生の向かい側の席に座る。

 先生の机の上には、今日のホームルームの時間に書かされた紙がある。

 質問内容が変わっていたけれど、多分、先生の趣味なんだろう。


「桜庭玲さん」

「はい」

「……キミ、異世界に行きたいんだね?」

「はい?」


 いきなりそう尋ねられて、私は思わず聞き返してしまった。

 すると、先生は私が書いた質問用紙を振ってみせながら言う。


「今日書いてもらったこの質問用紙に、異世界に行きたいと答えたよね?」

「それは……はい」


 そう、先生が今朝、私たちに書かせた質問用紙には、三つの質問があった。


 第一に、異世界に行きたいかどうか。

 第二に、異世界に行きたい場合、何がしたいか。

 第三に……、今の生活を捨ててでも、新しい中学校生活を始めてみたいかどうか。


 この質問用紙が配られた時、教室は明らかにざわついた。

 たいていのクラスメートたちが、笑って鉛筆を走らせていたのを覚えてる。

 私も、心理テストか何かかと思っていた。

 ……だけど、一応真面目に答えたつもり。


 第一の質問には、『はい』と答えた。

 第二の質問には、『勇者になって人に認めれたい』と書いた。

 第三の質問には……。

 第三の質問には、ちょっと悩んだけれど、やっぱり『はい』と答えた。


 先生は、ふっと微笑むと私の目をまっすぐ見つめて、言った。


「それじゃ、キミを『咲坂中学校異世界科』に推薦しようと思う」

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咲坂中学校☆異世界科(仮) 工藤 流優空 @ruku_sousaku

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