AーA’(漫画)

 萩尾望都のSF短編で「エー、エーダッシュ」と読みます。


 私が持っているのは小学館から出ている「萩尾望都作品集」の17巻で、4作掲載されているのですが、全部に、


「赤いたてがみの一角獣種」


 や、


「まぼろしの一角獣種」


 と呼ばれる、


「21世紀初頭に宇宙航行のため開発された遺伝変異種」


 の人物が出てきます。


 第一話の「A―A’」の主人公はその「一角獣種」のアデラド・リー、愛称をアディという人物なのですが、本体ではなくクローンです。


 「一角獣種」はその時代にはもう隔世遺伝でたまに現れる非常に珍しい種族なのですが、厳しい宇宙で過ごすために感情がほとんどない、とされています。

 合理的で感情に左右されない。宇宙開発のためにはもってこいの種族です。


 アディの本体は16歳の時に開発のためにある星に行き、19歳で死にました。

 宇宙開発では死亡率が50%を超えるために優先してクローンが作られています。本体が死んだアディもクローンが解凍され、保存してあった16歳の時の記憶を注入してもう一度その星に行くことになります。


 3年の間にアディには友人や恋人ができていますが、それはクローンのアディの記憶にはありません。

 迎え入れる人たちも戸惑いますが、中でも恋人のレグは目の前で失ったはずの恋人が戻ってきたことにどう対応していいのか分かりません。

 それでも共に時を重ねていくうちに、本体とクローンの共通点にまた心をひかれていくことになります。


 そんなある日、ある出来事からクローンのアディは自分の体にあったはずの傷がないことに気がつき愕然とします。


「生まれたあとの傷は遺伝子情報には組み込まれない」


 そう聞いて、


「クローンの再生とはそういうことなのか」


 とアディは衝撃を受けます。


 その傷とは、小さな時にかわいがっていたポニーと共にクレバスに落ちた時の傷です。


 その時の悲しい記憶と共にあったはずの傷がない。

 悲しみの記憶だけが残るクローンの自分。


 それは恋人であったレグもそうでした。

 アディの悲しい過去の話を聞いた時に触れたあの傷はもうない。


 もう一度アディを愛し始めたレグと、自分が話したことのない過去の話を知っているレグに戸惑うアディ。共にその星で過ごす時間はまだまだある、ゆっくり進めばいいというレグに、どうしてこの人は錯覚しているのだろうと思うアディ。


 そんな二人にある時事件が起きます。


 ある調査の時、氷漬けになったアディの本体を見つけます。

 体はしっかり保存されているものの、頭部を凍った槍のようなつららで貫かれ、再生は不可能。


「どうして形だけ真似て黄泉から戻ってくる!」

 

 レグは他の星への移動を希望し、遠い星へと行ってしまいます。


「落ち着いたらまた戻ってくる」

 

 仲間たちはそう言ってアディを慰めます。

 そして……


 結末は書きませんが、さすが萩尾望都! と思わせてくれる作品です。

 

 同じコミックスの他の2作(1作は前後編)に出てくる一角獣種はアディではなく、2人の個性の違う一角獣種と出会う超能力者「モリ」が主人公になります。

 こちらももちろん面白いのですが、私はやはり「A―A’」を一番におすすめします。

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