第2話

 蓮宮が掴んだ情報から、狼男伝説のある村へ向かった。電車に揺られ辿り着いた無人駅に三人は降り立った。

「なんだか、のどかな田舎ですね。人は住んでいるんでしょうか?」

「電車が止まったんだ。住民はいるだろう。行くぞ」

 駅から出た先は、農村だった。

「まるで、タイムスリップしたみたい。電線もないし、舗装された道路もないわね」

 違和感はそれだけではなかった。畑仕事をしている人々の服装が、まるで時代劇で見る農民のようだ。

 蓮宮は一人の老婆に話しかけた。

「すみません。私たち、旅行をしていて、この無人駅に降りてみたのですが、少しお話しを伺ってもいいでしょうか?」

 今回、蓮宮、五十嵐、須藤の三人は、怪しまれないようにラフな服装で、旅行者を装っていた。しかし、五十嵐たち刑事の物を探るような鋭い眼光、蓮宮の好奇心に満ちた瞳は隠せてはいなかった。

「おや、珍しい。旅のお方、お疲れでしょう」

 老婆は柔らかい表情で、彼らを快く迎え入れた。家の土間にはかまど水瓶みずがめがあり、近代的な物は何一つなかった。座敷へ上がると、老婆は、

「何もないけぇ、湯でも沸かすかのぉ」

 と言ったが、

「いえ、お構いなく。それより、お話しをお聞かせください。ここは何というところでしょうか?」

 蓮宮が老婆に聞いた。

「ここの土地の名前ですかねぇ? 大神おおがみ村ですけぇ。それがどうかなされたかのぉ?」

 老婆が答えた時、突然、若い男が入って来た。

「ばあちゃん! だめじゃ。知らん人を家に入れては。あんたら、はよ、出てってくれんか。困るんじゃ。もうすぐ電車が来るけぇ、それに乗って帰ってくれ。もう、来んでくれ。あの電車に乗れんかったら、帰れんけぇ、はよ、行きんさい」

 なんだか、すごい剣幕で追い返され、三人はそれに違和感を覚えた。


 急かされて無人駅へ行くと、電車が止まっていた。まるで、彼らを待っていたかのようだった。それに乗って、三駅目で彼らは降りた。向かった先は市役所だった。

「すみません」

 蓮宮が市民課の窓口で声をかけると、三十代くらいの男性が対応に出た。

「はい。どんな御用件でしょうか?」

「ある村についてお聞きしたいのですが、大神村というのは、どんなところでしょうか?」

 蓮宮がそう聞くと、男性職員は、左眉をわずかにピクリと動かした。動揺しているのだと、蓮宮は感じた。

「知りませんね。そんな村はありませんよ」

 男性職員が答えた。

「でも、名前のない無人駅で電車を降りて、住民に聞いたところ、ここは大神村だと教えてもらいましたよ」

 蓮宮が言うと、

「キツネに化かされたんでしょう」

 と男性職員は笑い飛ばし、

「すみません。次の方がお待ちなので、もう宜しいでしょうか?」

 そう言って、次で待っている市民の対応を始めた。

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