血を啜れない月夜の女吸血鬼 〜男の血なんてごめんだぜ〜

かなちょろ

短編

俺は元々日本の高校生だった。


 学校から帰って部屋でくつろいでいると、急に部屋が光出し、訳もわからず【魔界】とやらに召喚されてしまった。


 よくある異世界と言うやつだが、その異世界にある魔界に魔族として召喚されたのだ。


 ただ、この召喚のめちゃくちゃな所は、召喚した者を魔族に変えて召喚するようだが、よりにもよって男の俺が……。


 【女の吸血鬼】として召喚されるなんて!


「ここは……どこだ……?」

 俺が初めに気が付いた場所は、薄暗く、変な臭いがする石畳みの部屋だった。


「あんた達は……?」

 なんだろう……、声に違和感がある。


『成功ですが、これでよかったのですか?』

 声のする方を見ながら回りも確認すると顔の見えないフードを被った人が8人。

 話しをしている方向に1人誰かが座っている。


 何か体がスースーする。

 自分の手を見るといつもの俺の手じゃ無い。

 白くて小さい手だ。


 下を向くと何やら胸部がちょびっと膨らんでいる。

 そして全裸だった……。


「うわぁぁ!」

 思わず下を手で隠すが、いつもの感触は無い。


 もうよく分からず慌てていると、フードを被った1人が、1枚のフードを被せてくれた。


『では、こちらに……』

 そのフードの人に連れられて隣の部屋に入ると全身が映る鏡の前に立たされた。


 そこで自分の体の全身を見ると……。


 175㎝あった身長が150㎝程度に縮み、髪の毛はストレートの赤髪で腰まである。 胸はないが、肩幅は小さく、腕も細く、色白で華奢な女性になっていた……。


 もちろん大事に育てていた息子さんも亡くなっている。

 毛すら生えてない……。


『こちらもどうぞ』

 手渡して来たのは少し大きい手鏡で、顔をよく見る。

 細くなった眉毛、少し吊り上がってはいる瞳、長いまつ毛、耳は少し尖っている。


「これが……オレ?」


 めちゃめちゃ可愛い自分の顔に見惚れて口をポカーンと開けていると、牙の様な物が2本見える。


『こちらがお召し物です』


 差し出された服は、どう見ても女性物……。

 しかも露出高そうな服。

 でも裸よりはマシか。


 下着まで女性物だったが、なんとか着替えると、もう一度先程の場所まで連れて行かれた。


『準備出来たようだな』


 少し上の方で座っていた体のデカい人がこちらに降りてくる。

 よく見ると頭にツノ?らしき物もあるし、背中には翼が付いてる。


『……ふむ……まぁ、合格だ……』


 人の顔をジロジロと見るなり、フニッと胸を揉んできた。


『ちと、足らん気も……』

「触んなぁ!」

 思わずグーパンで顔面を殴ると、その男は錐揉み状態で吹き飛んだ。


『『魔王様!』』


 周りにいたフードを被った人達が一斉にフードを脱ぐと、魔王様と呼んだ者の所に駆け寄った。


 俺はその時ゾクッとした。

 フードを被ったいた人達もどう見ても人外。

 ツノがあったり、一つ目だったり、口が尖っていたり……。


 なんなんだ!ここは!


『ふっ、ふふ……、良いパンチだ……』


 魔王と呼ばれる物が頬を腫らして立ち上がると、一つ目の化物が説明を始めた。


『我々はこの世界では魔族と呼ばれ、恐れられている存在です。 人々を恐怖のどん底に落とし入れ、人間を殲滅して征服する予定なのです』


 魔族?

 人を殲滅?


「なにを言って……」


『私が魔族の長の魔王【ドゥルテイドウ】である』

 腰に手を当てドヤってくる。


『しかし、私ははっきり言って弱い。 恐らくこの世界に勇者が召喚されれば間違いなく瞬殺されるであろう』


 なんでこいつ魔王なんてやってんだ?


『だからお主を勇者がいるとされる世界より魔族の暗殺者として召喚させてもらったのだ』


「召喚って……。 俺は向こうでは、お・と・こ! だったんだぞ! なんで女にならないといけないんだ!」


『それは……ちょっとした手違いです……』

 一つ目の魔族が話す。

『勇者になりそうな存在を倒すなら、男勝りな性格が必要と考え、召喚したらあなただったのです』


「元には戻れるんだろうな?」

『無理ですね』


 …………。


 即答……。


『あ、でも、勇者となる者を倒せば元に戻れますよ。 ……タブン……』

「本当か! ならその勇者になる人ってのはどこにいる?」


『それは元の世界です』


 へ?


『あなたは元の世界で勇者になる者を殺して来てもらいます。 そのために女吸血鬼として召喚しました。 勇者を誘惑して血をガンガン吸い尽くしちゃって下さい』


「出来るかあぁぁ!!」

 俺のグーパンが魔王の顔面に当たる直前、光り輝き、気がつくと元の部屋に帰って来ていた。


 どうせ夢なんだろうと、体を調べると、夢じゃなかった……。 夢で欲しかったけど夢じゃ無かった……。


 これからどうすれば良いんだよ!

 この日本から勇者1人を探せってことか?

 いや、無理だろう。

 

 とりあえずこんな格好ではいられないので、いつもの服に着替えると、俺って大きかったんだなと思うほど服がダボダボになってた。


 トントン。

「お兄ちゃんご飯出来たってよ〜」


 やばい!

 妹にこんな格好を見られたら、死しか無い!


「い、今行くからちょっと待って」

「お兄ちゃん!?」


 しまったー! 声が女になっているの忘れてた!


 ガチャリとドアが開き、妹の夏が入ってくる。


「お兄ちゃん、今女の声がしたけど……」

「あっ!」


「あれ? 女の人いなかった?」

「え?」


「気のせいかな? まぁ、いいや、ご飯だから早く降りて来てよ」


 妹はそう言うと階段を降りて行った。


 俺はもう一度鏡を見て確かめるとそこにはいつもの俺がいた。

 もちろん息子さんも大丈夫だ。


「夢だったかーーーー」

 深いため息と共に、安堵した俺は夕飯を食べ終えると部屋に戻る。


 夕飯は食べた。

 けど、なんでか満たされない……。

 夜も23時を回ると凄く喉が渇く。

 水やジュースも飲むけど、いまいち喉が潤わない。


 全身が段々と熱くなってくると、着ていた服がダボダボになる。

 窓を閉めているのに、微かに良い匂いが漂ってくると、無性に喉が渇き始める。


 体を見るとまた、女吸血鬼の体になり、果実のような甘い匂いに誘われフラフラと外に連れ出された。


 匂いをたどって行くと、そこは家から数件先のアパートだ。

 ここから良い匂いが漂ってくる。


 俺は思考回路がうまく回っていないのか、意識も朦朧として、アパートの103号室前までフラフラとたどり着く。


 ドアノブに手を伸ばすと、簡単にガチャリとドアが開く。

 ドアを開けるとその匂いは一層強くなり、俺の思考がどんどん無くなって行った。


「だれだ!……キミだれ……?」


 部屋の中には1人の男性がいる。

 勝手に部屋に入ってきたんだから、そりゃびっくりはするよね。

 しかも俺の着ていたダボダボの男の服で虚ろな目をして入ってきたら、変質者だと思われても仕方ない。


「俺は……」


 ダメだ! 頭が回らない。 この匂いのせいなのか!?


「ちょっと!勝手に入って来ないでください! 鍵かかってたよね?」


 その人は見るからに脂が乗っているお腹、顔も全然イケメンではなく、むしろ俺の方がマシだと思った。

 でも、その首筋が凄く美味しそうに見えて仕方ない。


 どんな果実よりも美味しそう。


「な、なにするんですか!」


 ドサッ!


 俺は力でその人を押し倒すと、口を開き、牙をその首筋に

 近づける……。


「駄目だーー!!」


 俺は一瞬意識が戻って部屋を飛び出した。


「ハァハァ……、危なかった……」


 危うく誰かも知らない男の首筋にキスをしてしまう所だった……。


 俺は意識があるうちに家に戻ると、こっそりと部屋に戻り、布団を被ってシクシク泣いた……。


 次の日の朝、眠い目を擦りながら、駅まで向かうバスに乗り込むと、昨日の男性が駆け込み満員のバスに乗り込んできた。


 うわ、やばい。


 昨日の姿とは違うからわかるはずは無いけど、思わず顔をそらす。


 満員のバス。

 香水の匂いもする中、昨日の匂いが強く漂ってきた。


 ドクンッ!


 体が熱くなって来た。


 目を瞑ってその匂いに耐えているが、身体がモゾモゾし始める。 

 朝の通勤で運転の荒いバスが信号で急に止まった。

 その止まった勢いで、体制を崩し昨日の男性にぶつかってしまう。


「すいません……あれ?」

 男性の方から謝ってきた時、顔を見られた。


「キミは昨日の?」

「あ、いえ、人違いじゃ無いですか?」


 誤魔化して顔を背けるけど、満員のバスでは体が動かせない。

 次のバス停で降りる人が移動すると、さらに密着状態となる。


 この匂いはやばい……。


 昨日意識を失いかけた匂いが密着した事で、更に強く感じてしまい、意識を保つのが精一杯だ。


「あ、あの……」

 男性が声をかけてくる。


「なんですか?」

 こいつ、俺の可愛さに惚れたか?


「腕を……」

 そう言われて自分の体制に気がつく。

 意識とは裏腹に男性の腕を抱きしめ、口は男性の耳元で話をしていた。


 ひいっ!


 これには自分でも引いた……。


「すいません!」

 俺はいつもの降りるバス停より2つも前に降りてしまった……。

 男性の匂いがしなくなると、元の自分に戻っていた。


 ……ハァ〜……、勘弁してくれ……。

 トボトボと学校に行き、授業中も休み時間もずっと落ち込んだ……。


 家に帰宅、部屋に戻ると、一通の手紙が机の上に置いてあった。

 見た事もない字で書かれている手紙は何故か読む事が出来た。


『元気でやっておるかね? その後、勇者討伐の進行はどうかな? 少し説明不足と思って、手紙を出させてもらった。 君の体は勇者の匂いに反応して魔族の力が出るようになっておる。 吸血鬼としてのスキルで、勇者の居場所を匂いで感知できるのです。 勇者に近づいたらガブっとやっちゃって下さいね。 魔王』


 なんだこのメチャクチャな文面は……。

 で……、勇者の匂いに反応する? 勇者に近づくと魔族の吸血鬼になる?

 ……ふざけるなぁぁぁ!

 じゃあ、あの、脂ギッシュな男が勇者だと言うのか?

 アレの血を吸えと……?


 無理だーー!


 でも、どうにかしないとずっとこの身体のままになるのか……。

 そうか! あの男をナイフとかで殺せば……。


 ふふふ……。

 物騒な事を考え始めた時、もう一枚の手紙が落ちて来た。


『勇者は魔族の力で殺してください。 他の方法で死んでしまうと異世界転生してしまいます。し、元には戻れないですよ。 残念。 あ、勇者を護る者がそらちに召喚されたとの話しも聞くますので、くれぐれも気をつけてくださいーな。 ガンバ!』


 その場でへこみながら手紙を破いたのは言うまでもないだろう。


 そして、夜になるとまた匂いが強くなってくる。

 昨日よりは意識もハッキリとはしているが、また吸血鬼になると、昨日以上に体が熱い。

 体がメキメキと音を立てると、背中には翼が、頭には巻きツノが生えている。


 どんどん魔族化が進んでいるのか?

 か、覚悟を決めるしかない……。


 服を魔界で貰った物に着替えると、無意識に窓から飛び出し、翼を使ってなんなく飛ぶ事が出来た。


 このまま何処かに飛んで行きたいが、男性から離れて匂いが無くなると元に戻ってしまうので、あの男の近くじゃ無いと飛ぶ事もままならない。


 俺は飛んでアパートのベランダに降り立つと、勝手に鍵が開いた窓から部屋の中に入る。


「な!……またキミか! キミは一体誰なんだ?」


 ツノや翼を見てもそれほど驚く事はなく、むしろ勝手に侵入して来た事に驚いているようだ。

 そりゃそうだよね。


 俺は……。

「私は……」


 鳥羽 克樹とば かつきだ。

「ルービィです」


 く、口から出る言葉が勝手に変わる!

 ルービィってなんだー!?


「ど、何処から入ってきた?」

「窓の鍵が空いてたからそこからよ。 ちょっと覗いてみたら、美味しそうな人がいたから」


 心にも無い言葉が勝手に出て来る。


「私に血を吸われてみない?」

 体が勝手に動く。

 体を包んでいたマントを広げると、露出度の高い服で男性に近づく。


「やですよ!」

 後退りする男性のうでを取り、壁に押し込む。

 男性の首を目掛けて牙を突き立てようとした瞬間……。


「貧乳は嫌だぁぁぁ!」


 男性に突き飛ばされ、部屋から出て行ってしまった。


 ひん……にゅう……。


 へこんだ……。

 俺は男だし、へこむ理由なんて無いはずなのに、何故かへこんだ。

 へこんでいると部屋のドアが勢いよく開き、誰だか知らない女性が入ってきた。


「大丈夫ですか! ……あれ?」


 女性は辺りを見回し、俺しかいない所を見ると、腰から剣を取り出した。


「貴様が勇者殿を抹殺しようとしている魔族だな!?」

「ん?」


 何故だか負けた気持ちで泣いている顔を上げて女性を見ると、ちみっこいビキニアーマーに身を包んだ、12、13歳の金髪のツインテールな女の子がそこに立っていた。


「あ、な、何を泣いているのだ? 大丈夫か?」


 泣いていた俺の顔を見ると心配して声をかけてくれた。


「もう帰る……」

 俺がそう言って窓からベランダに出ると、女の子は「ちょっと待つのだ!」と言っていたけど、気にせず飛んで帰って来た。


 部屋に着くとすぐに元に戻ったので、男性が離れた事がわかった。


 布団の中で考えると、あの勝手に喋ったり、行動したりするのは吸血鬼と言う魔族の心が勝手にやっているのだろうと結論づけるしかなかった。


 次の日はバスもいつも以上に早く乗り、学校へ向かう。


 バスの窓から昨日見た子にそっくりなランドセルを背負った少女が見えたけど、他人のそら似だろうと思う事にしといた。


 毎晩、男性の家に勝手に行き、男性を力ずくで押し倒すが、避けられたり、逃げられたり、少女が邪魔しに来たりで、一向に血を吸う事が出来ずに、半年が過ぎた。


 俺も日にちが経つにつれて男性に近づいて匂いを嗅ぐ事が嫌では無くなってきてしまった……。


「最悪だ……」

 本心では最悪なはずなのに、魔族化の影響だと思う。


 そんな事を続けていたある夜、コンビニ帰りの男性を見つけると、すぐに変身した。

 最近は吸血鬼になるのも早い。


 交差点で信号待ちをしている男性の横に並び、チラチラと見たり、顔を下から覗き込んだりしてみる。

 これも魔族化の影響だから!


 青になった瞬間、男性は走って行ってしまったので、それを追いかけようと横断歩道へ出た瞬間、赤信号であるはずの道路からトラックが俺に向かって突っ込んできた。


 吸血鬼になっている時はトラックに轢かれる位では死ぬ事はない。


 「危ない!!」


 男性は走って来て私を突き飛ばすと、トラックに撥ねられた。


 「ちょ!」

 私は慌てて男性に駆け寄ると、片足と片手は逆に曲がって、頭からは血が沢山流れている。


 「何してんの!」

 「ゴホッ……大…丈夫だった……?」


 自分の方が重体なのにそんな事を聞いてくる男性に私は怒りをぶつける。


「なんでこんな事をしたの! 私は魔族なんだから死ぬわけないじゃん! あなたが死んじゃったら……」


 どうなるんだっけ……?


 異世界に勇者として転生するんだっけ?

 なら大丈夫かな?


 あ、そうだ、私が元に戻れなくなるんだったような……?


 男性は意識を失ったのか、そのままその場に倒れた。


 数日後、入院して命は助かったと聞いた俺は、見舞いに行ってみた。

 流石に庇ってもらって知らんぷりは後味が悪いからね。


 知り合いとして面会に入り、部屋の近くではいつもの男性の匂いがしてくる。

 部屋の近くにある男子トイレに入り、妹の服を勝手に持って来ていたので、吸血鬼の姿でも変に見えない服に着替え、ツノは帽子で隠し、病室の前まで行くと、バッタリと少女と出会った。


「何しに来た! そうか、トドメをさしに来たな! 魔族め!」

「違う違う、ここでは何もしないから」


 私がいつものように露出の多い格好では無く、花を持っている事を再確認した少女は、突きつけて来た花束を下ろす。


「わかりました。 今日はお見舞いという事にしておきます」

「ありがとう」


 少女後ろからひょこっと眼鏡をかけている同じ位の背丈の女の子が顔を出した。


「そちらは?」

「この子は私の仲間の魔法担当よ!」


 フフン!


 とドヤ顔してくるツインテールの女の子の袖を引っ張っている眼鏡で黒髪の三つ編みが2つある女の子。


「あ! しまった!」

 咄嗟に口元を押さえるけど遅いよ。


 仲間って事は今度からこの子も俺の邪魔を……?


 病室の前でワイワイ騒いでいたのが聞こえたのだろう、ドアが開き「どなた?」と聞いてくる。 男性の母だろう。


「私達はお見舞いに来ました」

「あら、本当、ありがとう」

 男性の母親は笑顔で部屋に招き入れてくれた。


「翔太、あなたにこんな可愛い子がお見舞いに来てくれたわよ!」

 母親大興奮だな。


「果物でも食べる? 今切るわね」

 母親は手際良く果物を切ると席を立ち上がり、花瓶を持つ。

「私はちょっと花瓶の水変えて来ますからね。 ゆっくりしていらして」

「「ありがとうございます」」

 3人でお辞儀をしてから、男性の方を見る。


「何しに来たの?」

 男性の前に立つとなんと声をかけたらいいかわからない。

「えと……お見舞いに……」

 男性の目の前にいて物凄く良い匂いがするのに血が欲しい気分にはならない。


「お見舞いありがとう。 でも、もう帰って良いよ」

「でも、その……、トラックから庇ってくれて、その、ありがとう……」

 とりあえずお礼だけはちゃんと言っておかないと思って言ってみたが、なんだか照れ臭いぞ……。


 金髪ツインテールの子と黒髪三つ編みの子は切ってもらった果物を食べている途中で、ツインテールは食べながら俺に向かって手に持っているフォークを突きつける。

「私達が見てるからお前はもう帰って良いのだ! お前から翔太を守るのが私達の役目だからな」

「……ちょっと君達に聞きたい事があるから屋上まで良いか?」


 私は少し疑問に思っている事を聞いてみたくて屋上までツインテールの子を誘ってみた。


「わかった、行ってやるのだ。 玲奈れいなはここで待つのだ」

「え、わ、私1人で?」

「翔太を守る者がいないとこまるからな」

「わ、わかった……」

 黒髪三つ編みの子は玲奈ちゃんと言うようだな。

 めっちゃ日本人の名前だが……。

 男性の名は翔太しょうたと言うのか。 半年以上部屋に行ってるのに知らなかった……。

 気にして無かったからな……。


 翔太に挨拶し、金髪ツインテールの子と屋上まで行くと屋上の風が気持ち良い。


「で、聞きたい事とはなんなのだ?」

「まずは君の名前を教えてくれないか?」

 俺に指を突き立ててくる金髪ツインテール少女の名前を俺はまだ知らない。


「私は……アイシャだ!」

 腰に手を当ててドヤ顔で名前を言ってきた。


「お前はなんで言うのだ?」

「私か?(俺か?)」

 ややこしいが、両方の名を名乗っておこう。


「私はルービィ、日本人としては鳥羽 克樹とば かつき17歳のだ」


 アイシャは俺の顔と体を眺めて両手を叩く。

「男……変態さん?」

「嫌、違う」

 違うぞ!断じて違う!


「だって翔太に擦り寄ってキ、キスしようとしてたじゃ無い!?」

 血を吸おうとしている所がキスをしようとしているように見えたか。

 俺はそんな趣味は無いぞ。


「違う違う。 あれは翔太の血を吸おうとしてただけだ」

 あれ? やっぱりなんか変な感じだ。

「やっぱり変態さんじゃない! キスだけじゃなくて翔太の血を吸って殺そうとしてるんでしょ?!」

 そう、そこが聞きたかった。


「その事だけど、俺は異世界に呼ばれた時に魔王とやらに魔族の力で殺せば翔太が勇者として異世界転生は無いと聞いた。 それ以外で死ぬと勇者として転生してしまうとも聞いたけど、君達はなんで翔太を殺さない?」

「……は? 普通殺すなんて出来ないでしょうが!」

 確かにそうだけど……。


「でも君達の世界が魔王に滅ぼされるのでは?」

「……あ、なるほど」

 アイシャは再び手を合わす。


「私達は異世界人では無いですよ。 地球人です。 私は日本に住んでますけどアメリカ人、レイナは日本人です。」

「え? そうなの?」


「ですです。 私達も異世界に召喚されたのです。 そこで勇者を魔族から守って欲しいと頼まれました。 力や装備は異世界に召喚された時に貰いましたよ」

「私と同じく召喚されたって事!?」

 なんで俺だけ魔族で、女になった……シクシク……。


「でも、君達みたいな小さい子がこんな危ない事しなくても良いんじゃ無い?」

「私達は翔太を守ってちゃんと異世界転生させれば、私達がいつかお婆ちゃんになって死んだ時に異世界に転生出来るって約束してもらったから」


「だから翔太は殺させない。 私達が守るからね!」


 俺とは偉い違いだ……。 元の男にちゃんと戻るために殺そうとしてるんだからな……。


 ドゴオ!!


 !!!


 下の病室から爆発音がしたぞ!


「レイナ! 翔太!」

「急げ!」


 俺とアイシャは翔太の病室までダッシュで駆けつける。

 病室のドアを勢いよく開けると、病室の壁には大きな穴が空いていて、ベッドの側には玲奈が倒れていた。


「レイナ!」

「大丈夫か!」

 ベッドを見ると翔太の姿は無い。


「おい! 翔太はどうした?!」

 アイシャに起こされている玲奈に近づき話を聞く。


「2人が屋上に行ってる時に……、窓から、別の魔族が、やってきて、私、守ろうとして……、だけど翔太さんを守れなくて……」

 今にも泣き出しそうな玲奈の頭を撫でて良くやったと褒めてあげる。


 この壁の穴は玲奈の魔法のようだが、これでも守れなかったのか……? しかも俺以外の魔族だと?


「玲奈、翔太はどっちに連れ去られた?」

「……この先の、ひだまり公園の先に……」

 公園の先は川がある。

 まさかそこに落として溺死させるつもりか?


「アイシャ! 玲奈を頼むぞ!」

「ルービィはどうするのよ?!」

「魔族の後を追う!」


 俺は壁に空いた穴から飛び出すと、勝手に借りてきた妹の服を突き破り、背中に翼を出す。

 まだ吸血鬼の姿だし、力も使えるならそう遠くには行って無いはずだ!


 全速力で公園の先にある川まで飛んで来ると……、いた!


「誰だお前は! 翔太を離せ!」

『おやおや、やっと来ましたね。 あなたが使えないから私がこうしてお手伝いをしに来てあげたのです』


「魔王の手の者か!?」

『そうですよ。 あなたと1度お会いしています』

 あのフードをかぶったやつの中にいたのか。


「翔太は私が殺す、此方に返してもらおう」

『もちろんです。 あなたで無いと転生してしまいますからね。 では』

 魔族は気絶している翔太を俺に投げつけてきた。


「危な!」

 翔太をなんとか受け止めると、魔族は俺の前まで飛んで来ると囁いた。

『今なら邪魔はいませんよ。 早く血を吸っちゃってください。 それとも出来ませんか? 出来なければあなたを殺して別の人に頼みます』

 魔族は俺の喉元に研ぎ澄ました爪を突きつける。


「や、め、ろ……」

「翔太!」

 気絶からめを覚まし唯一動く右手で魔族にパンチする。


『おや、目が覚めたようですね。 しかし私に汚い手で触れるとは……、いいでしょう。 手足をもいで差し上げます。 あなたもその方が血を吸いやすいのでは?』

「ふざけるな!」

 俺は地上に急いで降り、翔太をそっと地面に下ろすと、魔族はゆっくりと降りてきた。


『やれやれ人間は本当にめんどくさい生き物ですね。 仕方ありません、今回はここまでと致しましょう』

 魔族の手から魔法が打ち出されると俺は吹き飛ばされた。

「ぐっ!」

 だが、たいして痛みはない。


「アイシャクラーーッシュ!!」

 魔法を放った魔族に向かってアイシャはダッシュしてグーパンで殴りかかる。

 あっさり避けられてしまったが、そのまま翔太の前に立つ。


「玲奈は?」

「今くるわよ」


「待ってよ〜」

 ハァハァと息を切らしながら走ってきた、


『ぞろぞろとお出ましですね。 まぁ、私の仕事は終わりましたので、失礼させて頂きましょう』

 そう言うと魔族は足元の出現した魔法陣の中に消えていった。


 魔族に一撃入れた翔太はまた気絶してしまっていた。


「また、助けられたね」

 俺は翼を引っ込めると翔太をおぶり、病院へ戻るために歩き出す。

「アイシャも玲奈も頑張ったね」

「当然よ! だってアイシャは翔太を守るんだから!」

「私もです」

 アイシャも玲奈もいつもは邪魔ばっかりしてくるけど今回は頑張った。

「2人とも頑張ったご褒美に何か食べに行こうか?」

「やった!」

「ありがとうございます」

 2人共いい返事をしてくれる。


 ひだまり公園まで歩いていると、俺の体がなんだか変な感じだ。

 翔太をおぶったままその場に座り込んでしまった。


「大丈夫なのか?」

「大丈夫ですか?」

 2人とも心配してくれているようだけど、俺の耳には入ってこない。


 体がおかしい……。

 今まで以上に体が熱い。

 ここで今すぐ翔太の全身の血を吸い尽くしたい気分になる。

 やばい、ここにいるのはやばい。


 俺は2人に翔太を任せて、少しでも離れようと走った。

 どこまで来たかわからないけど、それでも翔太の血が飲みたくてたまらない。

 離れれば元に戻るはずなのに!


 妹の服を着て走っている男性がいたら通報者だが、どんなに走っても、距離をとっても吸血鬼から戻らない。

 

 「血、血が欲しい……」


 フラフラと何処をどうやって歩いて家に帰ったのか分からないが、そのままベッドの布団へと倒れ込む。

 その布団は翔太の匂いが、甘い果実の匂いがする。


 甘い果実の匂いを思いっきり吸い込むと、もう俺の意識は無くなっていた……。


 布団から目を覚ました私は翔太の匂いを求めて、翔太の部屋から飛び立つ。


 病院まで辿り着くと、病室の窓を魔法で開け、点滴や酸素マスクをして眠っている翔太の首に牙を突き立てた。


 首筋から香る翔太の芳醇な匂いが鼻腔を通り、皮膚は葡萄を噛んだようにプルっと牙が突き抜け、その血は今まで味わった事のない果実の甘い味、いくら飲んでも飲み足りない位の味わい。


「……う、やあ、……来てたのかい? 僕の血は美味しい?」


 !!!!

 バッ!!


 我に返った俺は急いで離れた。

「ご、ごめん、吸うつもりじゃ……」

「い、いさ……」

 そのまままた眠ってしまったようだ。


 なんて事をした!

 俺は今、何した!?

 血を吸った?

 殺そうとした?

 俺……本当の化物になっちまった……。

 目の前が真っ暗になっていく……。


 気がつくと本当の自分の部屋のベッドの中、元に戻った姿で目を覚ました。

 もう朝か……。


 ベッドから起き上がり部屋を見るとボロボロになった妹の服が散乱している。

 これはやばいな……、妹の美希みきに見られたら殺される。


 トントン

「お兄ちゃんいる〜?」

「ああ」

「入るよ」

 美希がドアを開ける瞬間、部屋が魔力で包まれ時が止まったようになる。


『如何でしたか? 勇者の血は? さぞ美味だったでしょう』

 部屋の中でこの間の魔族の声がする。


「何処にいる!」

『やれやれ、せっかちですねぇ』

 部屋の真ん中に魔法陣が浮かび上がると魔族が現れた。


『そう言えば自己紹介がまだでございましたね。 大変申し遅れました。 わたくし魔王様直属の八式魔弾はちしきまだんが1人、白魔びゃくまのアイビーと申します。 以後お見知りおきを』

 アイビーは静かにお辞儀をしてくる。

 

白魔のアイビー、確かに体は白く、黒い模様がある。

 2本のツノは先端が黒くなっており、細身だが筋骨隆々だ。


『さて、勇者の血は如何でしたか? 大変美味だったでしょう? 飲んだ後の高揚感、脳に痺れるような快楽、たまらなかったのではないでしょうか?』

「ふざけるな!」

 俺はアイビーに殴りかかると俺の拳はアイビーの頬を掠める。


『おっと、危ない危ない。 いやぁ、お強くなられました。 流石勇者の血と言う所でしょうか』

「なんだと!」

 アイビーは不敵に笑う。


『おや、ご存じない? あなたは勇者の血を吸った。 その血の力で元の姿に戻る事も出来ましたし、お力もだいぶ上がりました。 勇者の血を全て飲み干せば私達八式魔弾に近いお力を手に入れられるはずですよ。 その時は末席にでも入れて差し上げます』


 冗談じゃない!

「俺は俺だ! もうお前らの言う事なんて聞くつもりは無い!」


『それは残念。 使えない道具はここで壊しても良いですが、もう一働きして頂きましょう』

 アイビーの手から放たれた魔法は俺の腹に大きな穴を開けた。


「がはっ!!」

 腹が熱い、でも痛みは無い。

 俺はその場に崩れ落ちた。


『ではこれをどうぞ』

 アイビーが小瓶を取り出し、倒れている俺の口元に液体を流す。

 これは……、この匂いは……。

 匂いを嗅いだ瞬間俺の体は瞬時に変化する。


『勇者を拉致った時に血をとって置いて正解でしたね。 これが無かったらあなた死んでましたよ』


 変身した俺は今まで以上の喉の渇きを感じる。 むしろ喉が熱くて焼けそうな位だ。

「ぐっ、はっ……」


『おやおや、喉が乾いて仕方ないと言う顔をしていますね。 あなたは先程致命傷を負い、血を流しすぎた。 体が再生しても体が血をもとめているのですよ。 もう誰でも良いから血を吸いたいと思うほどにね』


 ハァハァ……。

 確かにアイビーの言う通りだ……、すぐそこに妹の美希がいる。

 このままでは美希を襲って血を吸い尽くしてしまうかも知れない。


『言っておきますが、あなたの渇きを潤せるのは勇者の血だけですよ』


 ガシャン!!


 それを聞いた俺にもう意識は無い。

 窓を突き破り、翔太の元へ羽ばたいた。

『人間とは愚かですねぇ……』


 病室に着いた時には克樹としての意識は無く、吸血鬼のルービィ

として病室の窓を魔法で破壊した。


「きゃあ!」

 病室にいた翔太の母親が私の魔法に巻き込まれたようで、倒れてしまっている。

 病室に医者や看護師が来る前に翔太を抱え、公園まで飛び立つ。


 すぐさま牙を突き立て血を吸おうとした時、翔太の意識が戻ったようだ。

「や、あ……。 今日……も、襲いに……来た、の?」

 あまり回らない口で翔太は私を見る。

 でも私には翔太の声が聞こえない。

 血を、血を吸いたくてたまらないのだ。


「アイシャキーーック!!」

 私の脇腹にアイシャの蹴りが炸裂し、私は吹き飛び翔太から離される。


「シャー!!」

 私は言葉すら話さずアイシャを威嚇している。


「止めるのだ!」

「ルービィさんを見かけたから追いかけてきて正解でしたね」


 アイシャと玲奈は翔太の病室に行こうとしてる途中で私を見かけたらしく、追いかけてきたようだ。


「ルービィは翔太の事が好きなんじゃ無かったのか?!」

「そうです! 血を吸ったら翔太さん死んじゃいます!」


 私は2人に襲いかかる。

 私の鋭い爪をアイシャが剣で受け止め力比べが始まる。

 でも私の方が強い。 アイシャを吹き飛ばすと玲奈が唱えた火炎魔法が私に直撃する。


「があああ!」

 少し焦げた位で大した傷では無い。

 すぐに再生した。


 アイシャと玲奈は翔太の前に立ち塞がると、こちらの様子をジッと見つめる。


 私は爪で引き裂くため、アイシャに突っ込んだ。


 ザシュ!


 私の方が力は強い。 だけど流石は勇者を守るために選ばれた2人、私の左腕は中を舞い切り落とされた。

 そこに間髪入れず玲奈の風魔法で全身と翼を切り刻まれる。


 傷つけば傷つくほど、血が欲しくなる欲求が大きくなる。


 私は魔法を地面に放ち土煙を上げると、ありったけの力で突進すし、反応しきれないアイシャを吹き飛ばし、玲奈も叩いて吹き飛ばす。


 翔太の近づくと急に足が重たくなる。

「や、やめるのだ」


 アイシャが足をしがみついている。

 私はアイシャを殴り引き剥がそうとした時、翔太がアイシャに覆いかぶさる。

「も、やめ……て、くれ」

 私は覆いかぶさっている翔太の背中から首元にかぶり付き血を吸った。

 体が癒されていくのを感じる。


 ドッ!


 急に腹に熱い物を感じる。

 腹を見ると剣の刃が刺さっている。


 「ごめん……」

 翔太はアイシャの持っていた剣を自分の腹ごと私を突き刺していた。


「な、何を」

 俺の意識はそこで戻ることが出来た。


「翔太!」

「翔太さん」

 アイシャと玲奈の2人は翔太に駆け寄り、声をかける。

 剣を引き抜いた俺の腹の傷はすぐに癒えるが、翔太からは血が流れている。


「なんで……?」

「こ、れで……、よ、かっ……」

 翔太はその場に力なく倒れた。


「ルービィ! よくも翔太を!」

 アイシャが俺に向かって剣を構える。

 2人と対峙しているとアイビーの声が聞こえて来る。


『やれやれ、本当に使えない人でしたね』

 魔法陣から姿を現したアイビーは一気に間合いを詰め、アイシャと玲奈をその鋭い爪で切り裂いた。

 2人は声を発する事もなく、倒れ、ピクリ共動かなくなった。


「きさまっ!!」

 俺はアイビーに向かうが、簡単に吹き飛ばされてしまう。

 俺の力では敵わない。


 俺は既にコト切れている翔太の元へ走り、残りの全ての血を啜った。

 力が湧いてくる。


 俺はさっきとは比べ物にもならない速度でアイビーに近づくと、拳で防御しているアイビーの腕をへし折った。


『いやいや、流石です。 初めから勇者の血を吸い尽くしておけば私も倒せたかも知れません。 しかし……、勇者を転生させてしまうとは……、クソ使えない人でしたね。 ……おっと、口が悪かったですね。 失礼致しました』

 アイビーの折れたはずの腕は既に治っている。

 俺では勝てない。


『使えない道具はこのままここここで壊しましょう。 私も早く戻って転生した勇者を殺さなくてはいけない仕事が出来ましたからね』

「勇者が転生したなら、お前らなんて軽く倒されるだろうよ!」


『それは如何でしょうかね? 言っておきますが、私達八式魔弾は今の魔王様より遥かに強いのですよ』

「魔王より?嘘だ!」

 魔王より強い部下なんて聞いたことないぞ!


『嘘ではありませんよ。 上に立つ者が強いとは限りませんからね。 強くなくても役に立つ事はいくらでもありますのでね。 今のあなたなら魔王様も倒せるお力はありますよ』


 魔王もこいつらのコマなのか?


『さて、それでは失礼致します』

 アイビーが一瞬で消えたと思ったら俺の心臓を貫いている。


「がはっ……」

 俺はその場に崩れ落ちた。

 心臓を貫かれた時、元の男に戻ったようだが、意識が薄れていく。


『それではまたいつか』

 アイビーはお辞儀をしたまま魔法陣へと消えていった。


 俺は意識が無くなり、俺も死ぬんだと覚悟した。


 ◇ ◇ ◇


「旦那様! お生まれになりました!」

「おお!そうか! 男か?女か? まぁ、どちらでも良い!」

「可愛い女の子でございます!」

「そうか、そうか」


 騒がしい声が聞こえる。

 生まれた? 誰が?

 目の前は真っ暗だ。

 ゆっくりと瞼を開く。

 眩しくも明るい光、男性、女性の笑顔が見える。

 声は……。

「おぎゃあ、おぎゃあ!」

 なんだこの声は?


「おお、元気な子だ! アリシア、よく頑張ったな」

「ええ、あなた」

 アリシア? 誰だ?

 体も動かせない。

 手だけ動いた。

 目の前に両手を持ってくると、なんともぷにっとした可愛らしい手が見える。

 これ……俺の手か?

「おぎゃあ!おぎゃあ!」


 どうやら俺は前世の記憶を持って生まれ変わったらしい。

 ここからまた俺の人生が始まるのか。


◇ ◇ ◇ ◇


―――――――15年後――――――――


「初めまして、僕はゼクス・シュナイダー、シュナと呼んでくれ」

「私はアイル・シャーミ、アイシャと呼んでください」

「私はレイ・バナック、男の子みたいな名前ですが、ちゃんとした女です。 皆んなからはレイナと呼ばれています」

 レイナは帽子を外すと黒い三つ編みの天辺から猫のような耳が見えた。


「おや? 獣人族を見るの初めて? アイシャは僕と同じ人族、レイナは獣人族なんだ。 でもレイナは如何言う訳か獣人族としての体力や力が無い代わりに魔力が物凄いのさ」

「可愛いでしょ? ヒゲが無いのが残念よね〜」

 アイシャはレイナに擦り寄っている。


「そして、君だ。 君が僕達の魔王軍討伐隊のメンバーになってくれると助かる」

「?」

「そのお腹にあるアザのような紋章が魔王討伐に選ばれし者の証なんだよ」

 アイシャが俺の腹にあるアザを指差す。

「僕はここに」

 首元には2つの小さいアザがあり、それを囲うように紋章がある。


「魔族だって世界を守りたいと思えばそれはもう勇者さ」

「私達は勇者様の仲間なんです」

 手を差し出された俺は見ず知らずの3人の手を取り、仲間に加わった。


 なんでだかこの3人は信用が出来る。

 前世の記憶のせいなのだろうか?

 成長するにつれて前世の記憶は無くなっていった為に今では殆ど覚えていない。


 でも俺はこの勇者が好き。

 一眼見た時にそう感じた。

 この勇者の為に俺は命をかけよう。

 俺って言い方はやっぱりダメかな? 私って治した方が良いかもしれない。 この言葉遣いは治らなかった。


「さあ、次の街へ冒険だ!」

 シュナの声で私達は魔王討伐の旅に出る。

 どんな困難があっても私達は負けないだろう。 そんな気がした。



『やっぱりきましたね。 お待ちしておりましたよ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

血を啜れない月夜の女吸血鬼 〜男の血なんてごめんだぜ〜 かなちょろ @kanatyoro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ