超短編③ 「七夕」



 男は獲物を求めて街の図書館に来たが、収穫は見込めなかった。

 男が肩を落として出口へ向かい、児童本コーナーの前を通った時だった。

カラフルな短冊に着飾られた、自分くらいの背丈の七夕竹が目に止まった。

男の眉が、わずかに歪む。

 この手のものが、男は大嫌いだった。“願いごと“という名前で個人の

私利私欲を書かせ、それを誰でも見られるような状態に掲示するという

無神経さに心底呆れる。故に、“将来の夢作文“なんかも総じて嫌いだった。

 男は竹に近づいて、願いの綴られた短冊に目を通す。

「〇〇になれますように」

「家ぞくが元気でいれますように」

いかにも小学生らしい単純な願い事ばかりで、退屈を欠伸として吐き出した。

そして、最後に1つだけ読もうと、裏返っていた水色の短冊を表に返した。


「あの子の消しゴムに、ぼくの名まえが書いてありますように」


男は目を丸くした。字のバランスの悪さから、書いたのは小学校低学年の子

だろうと予想できた。しかし、子供にしては知性的すぎるこの表現は、どこ

で手に入れたのだろう。自分と相手の名前を書いていないあたりも、彼の気

恥ずかしさを感じられて、興奮する。

「この子だな。」

男は呟いて、早足で図書館を出た。

 早速、獲物について調査をするようだ。

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