照らす流れ星

青空一星

輝跡

 黒い空を走る白い線。見えなくなってしまう前に三度願い事を言うと叶えてくれる希望の星。だから皆、流れ星を見たがるし愛している。そんなキラキラしたものを触ってみたら、嗅いでみたらどうだろう。きっと嬉しくなるに違いない。きっとドキドキするに違いない。


 そんな思いに駆られて、夜空の中流れ星を待った。早く早く現れないものかと胸を鳴らせて待った。暗闇は寂しくて泣きそうになったけど、流れ星を見られると思っていたから耐えられた。そしてとうとう見つけた。勢いよく進む光が眩しかったからすぐ分かった。


 僕は逸る気持ちを抑えて「やあ」と声をかけた。すると気付いてくれたようで、元の軌道のまま僕の所で止まってくれた。


「どうしたんだい?何か用かな」


流れ星が聞いてきた。流れ星が話しかけてくれた事が嬉しくて、ドキドキする!やっぱり思った通りだった。心細くさせてくる暗闇も、流れ星がいるこの周りだけは明るくて嘘になっている。流れ星はやっぱりすごい。そんな想いで見つめていると


「私に何か伝えたい事があったんじゃないのかな?」


そう聞かれた。そうは言っても伝えたい事なんて思い付かない。流れ星が僕を照らしてくれるだけで十分なんだから。


「特には無いんだ。ありがとう」


お礼は言わなきゃと思ってそう答えると


「そうか。うん、こちらこそありがとう。

じゃあまたね」


そう言って流れ星はもう行ってしまおうとする。僕はもっと流れ星といたいから


「待って」


と引き留めた。でも、言える事なんて無い


「ごめんね。私はもう行かなくちゃいけない。まだまだこの先を照らして行かなきゃいけないんだ。」


流れ星は僕に背を向ける。


「あ」


何か言いたいのに何も思い浮かばない。


 でも、


「もう僕を照らしてはくれないのかい」


情けない自分への悔しさと、自分を置いて行ってしまう流れ星への憎しみから絞り出した。


 流れ星は少し考えてから、僕の方へ向き直って真っ直ぐに僕を見た。


「君はもっと自分を見つめてみるべきだ。大丈夫、君はまだ行けるさ。また会った時にでも話をしようじゃないか」


そう言って流れ星は自分の軌道に乗って行ってしまった。辺りは大分暗くなってしまって冷たい。何もかも沈んでしまうような黒の中、独り、佇む。


 もう僕を照らしてくれる星はいない。いつもそうだ。大体、星というのは皆自分勝手すぎる。自分の周りだけ照らして、僕に見向きもしてくれない。すぐに遠くへ消えていく。先の見えない暗闇が、思考の逃げ道を塞いで惨めになる。こんな世界で独りなんて酷すぎる。体が上手く動かない、思考がずっと停止している。


 流れ星の言った事を思い出して、自分を見つめてみると、僕の体からは僅かな光が洩れ出ていた。暗闇を照らすための明かり。あまりにもか細くて、情けないものだから忘れていた。自分で、こうやって生きていくんだって決めたはずだったのに、いつしか嫌になったんだ。今更こんな明かりでどうしろっていうんだ。どうやったって上手くなんていかないって、僕はもう諦めていたのに――


 だけど、そうだ、どんな僕だって進まなきゃいけないんだ。悪雲で前もろくに見えないこの空をずっと。彼らは僕を見つけてくれるのだろうか。不安で不安で仕方が無い、燃え尽きてしまえば楽になれるなんて誘惑が後を絶たない。それでも、僕は僕の始まりを思い出してしまった。出発したあの時を良かったって思ったんだ。だから今夜も黒を照らそう。


 もう流れるままの星ではないのだから

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