第15話:新人はまとも過ぎる!


「ぷっはぁぁぁ......」


「.......慣れるの早過ぎじゃない?」


 ひとしきり愚痴を吐き終わると、木製の容器になみなみと注がれたビールを一気に飲み干すと、アノさんに若干引かれつつもそんな事を言われた。


「そんな、なれまひたかね?」


「もう呂律回らなくなってるじゃない.....ちゃんと水飲んでね。じゃないと.....あんな風になるわよ?」


 アノさんが指を指す方を見ると、肩を組みながら歌っている、私達以外のメンバーが居た。


 何をやっているんだろう.......


「あれは酔っ払い過ぎて、ハイテンションになって歌っているアンポンタンよ。あぁなりたく無いなら、ちゃんと配分を考えなさい」


「はい....ゴクゴクゴク.....ってちょっと待ってくださいよ!」


「ん?どうしたの?」


「なんで聖女のレルラさんも一緒になって騒いでるんですか!?」


 私の問いに、アノさんは“今更何言ってるんだろう”と、言いたげな表情をすると、説明をし始めてくれた。


「確かにレルラは確かに聖女だけど、誠実・純粋・純潔では無いからね。お酒も飲むしギャンブルもやるよ。髪色ほどのクリーミーさもまろやかさも無いよ。」


 そう言われた私は、再び肩を組んで騒いでいる3人の方に目を向ける。

 先程と変わらないどころか、更に赤くなった顔と、幸せそうな顔を見ると、普通の冒険者とあまり変わらないように見える。


「まぁ、聖女とはいえ娯楽はしますよね....」


「そうそう。それに、“聖女だからって酒も遊びも無かったら生きる喜びが無いし、教会とかに毒やらなんやら治療に来る人は、大体私じゃなくて神に感謝するし、どうなってんだよ!感謝してくれるの子供くらいだぞ!大人が神なんて不確定なもんに頼り切ってんじゃ無いよ!もう少し目の前の人に感謝しろよ!”ってめちゃめちゃ愚痴ってたからね。レルラには絶対に言わない方が良いよ。」


「なるほど.....確かに聖女はイメージ維持が大変そうですしね.....こういう時くらいは確かに....」


「そうそう。」


 私が納得して、おつまみに手を伸ばそうとした時


「おっほっほ!地べたに這いつくばりなさい愚民ども!今なら聖女のわたくしが踏みつけて差し上げてますわよ!もしかしたらパンツが見えるかもしれませんわよ!」


(......ん?あれ?おかしい.....聖女だよね....?あれ?......聞き間違い?)


「パンツと言ってもズボンの方ですけれどもねぇぇぇぇ」


「ちくしょう!騙された!」


「聞き間違いじゃなかった.....」


 どうしよう.....今日だけで私のこの人達への尊敬が強さだけになりそうだ.....


 私の視線にハッとしたのか、アノさんが理解したような表情を見せる。


「そういえば、カノンはみんなで飲むのは初めてだったね。どおりで。」


「アレは本当に聖女なんですか?商売性女の間違いじゃ無いんですか?」


「まさかまさか。アレでも酒を飲まなければ真っ当な聖女.....ん?真っ当?うん真っ当!」


「そこはハッキリと言って欲しいです!というか.....こんなめちゃくちゃなパーティで、性格のせいで追い出されたアルロさんって何者.....」


 私がふと思った疑問を口に出すと、懐かしむ様な顔で話し始めた。


「別にアルロはそんな悪い奴じゃなかったわよ?ただ、ゴブリンやらなんやらの生肉をそのまま食べたり、朝は極端に機嫌が悪かったりするだけで。あと、なんか.....あっ、“冒険者を命懸けで日銭を稼ぐ馬鹿”みたいな事も言ってたわね。」


 なんだろう.....常識を持った悪食という印象しかない.....


「あと、魔物相手だとあんまり強くなかったけど、対人性能はこのパーティーで1番強かったよ。しかも問題は起こさなかったし、なんなら止める側だったし。それに、卑屈だけど、それ故付き合いもそれなりに良かったし。」


 私の中の評価が凄い勢いで上がっていく。なんだろう.....まともだ!

 少なくとも、今パンツ関係でトラブルになっている状況を見ると、尚更そう思う。


「え、なんでそんなまともな人を追い出したんですか!?もっとまとも枠増やしましょうよ!なんなら連れ戻しましょうよ!」


「う〜ん.....本人が冒険者をやりたく無いって言ってたし、今頃はのんびりスローライフでもしてるんじゃない?」


「やりたくないなら、別にやらないでその辺に家でも買って引き篭もってれば良いじゃないですか。Sランクだしお金は持ってますよね?」


「いや、アルロの場合雑費やらに金かけ過ぎてるからそんな持ってないわよ?だから領地開拓に参加したのよ?」


「意味わかりませんよ!大体」


 私が言及しようとしたその時、


「おいアノさん!アインが酔って暴れ出した!助けてくれ!」


「あっははっ!僕にてひはいにゃいぜ!」


 騒いでいる方を見ると、アインさんと他の冒険者が取っ組み合っていた。


「はぁ.....しょうがないわね.....カノン、他の人に被害が出ない様に結界魔法でも張っておいて。」


「......わかりました.....」


 なんだろう.....言いたいことは沢山あるけど、これだけは言わせて欲しい。


「“私のアルロさんの代わり以上になるぞ”という決意を返して欲しい。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る