閑話 一家団欒キャンプwith 二条家

「昇太―、起きなさーい…、って、聞こえないか…。あなた、昇太の事、起こしてきてあげて。」


灯は子供たちの支度をしながらそう言った。

それを聞いた将斗は作業の手を止め、昇太の部屋へ向かおうとする。


「ちょっと待った!その役目、私に任せて欲しい。」


ゆっくりと立ち上がった将斗の前に立ちはだかったのは、長女である日葵であった。

片方の手は今年で5歳になる夕夏の手を握っていた。


将斗は日葵から言いようもない圧を感じ、日葵に任せることにした。


「昇太…起きてるか…?」


物音を立てることなく昇太の部屋に侵入する日葵、部屋の中には本棚と勉強机、それとベットが配置されている。


日葵はそーっと昇太のベットに近付き、顔をのぞき込む。


「―――ん……ううん」


昇太はぐっすりと眠っている。

日葵は衝動を抑えきれず、昇太を思いきり抱き締める。


突然の抱擁に昇太は、目を白黒させて起きる。


「んぇ!…お姉ちゃん?何してるの?」


昇太は驚きはしたものの、抱き着いて来たのが姉だと分かると、特に抵抗せず、そのまま身を任せた。


「昇太、今日はキャンプだ、それも二条さん達と一緒だぞ。」


そう言うと昇太は、ハッとした顔をして、焦り始める。


「わ、忘れてた。お姉ちゃん、僕、急がないと……離して?」


日葵は、腕の中で慌てふためく昇太を気にすることなく抱きしめ続ける。

時折、「ああ」とか「そうだな」などぼんやりとした返事はするものの心ここに有らずと言った状態だ。


そしてそんな姉たちを見て、夕夏も日葵に抱き着いている。


日葵はこの時、ここで死んでいい、私にとっての理想郷は此処だったんだと心の底から思った。


しかし、そんな状況も長くは続かなかった。


「日葵…何やってるの…」


背後から感じる母の冷ややかな視線、しかし、日葵は止まらない、否、止まれない。


瞬く間の逡巡の後、日葵はまた理想郷へと戻った。


「あなたー、日葵を何とかしてー。」


その後、全力で抵抗した日葵だったが、将斗の手によって直ぐに引っぺがされた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



家族全員が車に乗り込み、キャンプ場へと向かう。


子供達は後ろで手を繋ぎ、そんな中で夕夏は爆睡している。


因みに、車は灯が運転している。


車に揺られること1時間、ようやくキャンプ場に着いた。


「お、来たね、こっちだよー」


星巳家を見つけた玄哉が遠くから手を振る。

将斗は小さく手を振り、荷物を担いで向かう。


「百合さん、今日はありがとうございます。」


「いえいえ、綾も昇太君に会いたがっていましたし、ね?」


「お母さん!」


母親たちが挨拶をし、流れ弾を食らった綾は顔を真っ赤にして否定する。


「もう!ショウ、こっちに来なさい!」


そうやって、手を握って昇太を連れて行く綾、そして、それに付いて行く日葵、そんな光景を見て母親たちは微笑ましそうに笑うのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「綾ちゃん…どこ行くの?」


僕がそう言うと綾ちゃんはニコニコしながらこっちを向いた。


「冒険よ!冒険、こんな大きな山があるんだからね、行ってみましょ!」


僕たちは二人で手を繋ぎながら山の方へと進んでいく。


少し後方では姉さんがこっそりついて来てるけど…こっちに来ないのかな…?


大きな滝があって、それを見ながら山を登っていく。

急勾配の坂の先にある森を抜けて、凄く綺麗な花畑に出た。


僕たちは花を潰さないようにその場に寝転んだ。

あったかい日差しを浴びてると、眠くなってきちゃった…。


綾ちゃんの手から暖かい体温が伝わってきて、段々瞼が重くなってきた…。


目の前を飛んでいく蝶々に視線を向けていると、空中に黒い穴があった。


綺麗な花畑に浮かぶ気味の悪い黒い穴。

そこから、何本も腕が伸びてきている。


―――……怖い。


綾ちゃんも気が付いたのか、僕の腕にくっついている。


兎に角、逃げなきゃ。


僕たちは、強く手を握って黒い穴から伸びる腕から逃げる。


逃げていた分かったが、あの腕は僕を狙ってる。

伸びてきている腕の大半がこっちを向いていた。


さっき通った森を縦横無尽に駆け巡りながら、逃げ続けた――けど…。


「い、行き止まり…。」


その声はどちらが呟いたのか分からなかった。

僕たちが逃げた先は崖だった。


目の前では滝が流れ続けている。

此処から落ちたら、無事では済まなさそうだ。


そうこうしている内に黒い穴は迫ってきている…。


「綾ちゃん…ごめん。」


僕は綾ちゃんを横の林に突き飛ばし、綾ちゃんとは逆方向に走り出す。


運が良い事に、腕は全部こっちに付いてきている。


僕は大きく息を吸って、崖から飛び降りた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



―――しょうがあぶない


脳裏に駆け巡る凄まじい悪寒。


滝を見つめてボーっとしていた私はすぐさま立ち上がり、辺りを見回す。


そこには、気持ちの悪い何かに襲われるショウの姿が。


綾ちゃんの姿がない事に一瞬気取られたが、ショウが崖から身を投げた瞬間、私の思考は一つに染まった。


〈星炎・纏〉


体中に輝く炎を纏って、ショウの方へ飛び込む。


ショウを優しく抱きしめ、こちらに向けられた無数の掌に視線を向ける。


間近で見て分かった。

これは今の炎じゃ消せない。


この魔法は、今の私よりもより強力な魔力で練られている。


だから…私は頭の中の意識を切り替える。

炎は輝きを放つ赤から神秘的な青色に。


体の中の魔力神経が急激に広がる感覚が私を襲う。


今の私には過ぎたる力。

それでも、ここで使わなくていつ使う!


〈彗せ…〈××の咆哮〉〉


―――!


別の魔法?誰が?

視線を向けた先には、お父さんの姿があった。


父の横に立つ青い龍、それの口がもう一度大きく輝き、凄まじい熱線が私たちの頭上を通り抜けた。


私たちが着地した時、お父さんは綾ちゃんを抱えて私たちの横に立っていた。


「少し…待っていなさい。」


そう呟いたお父さんは、綾ちゃんをその場に降ろし、何処かへと向かって行った。


「ショウ!ショウ!ごめっ!ごめんなさい!わ、私の、せいで!」


綾ちゃんは、ボロボロと涙を流しながらショウに抱き着いている。

ショウは、緊張が解けたのか、気を失っている。


―――兎に角…皆が無事で良かった…。


私は大きく息を吐いて、その場にへたり込んだ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

補足コーナー&キャラクターステータス(星巳家)


・星巳将斗について…主人公の父。無口、無表情のミステリアスなお父さん。

金級パーティーアルタイルの副リーダー。使用している魔法の詳細を知っている人はほとんどいない。

結構一般常識に疎い所があり、車の免許もそう言った所から、取れそうになさそうだったので灯か代わりに取った。


・謎の腕、黒い穴について…詳細不明。11歳の星巳日葵でも簡単には破壊できそうにない程の強度。


・星巳日葵について…以前、昇太を誘拐した冒険者をボコった事でステータスを手に入れ、尚且つ[調律]が出来る凄い人。

今の所、使いこなす事が出来ていない魔法が有るらしいが…?


・星巳昇太について…綾を守るために滝にダイブしたヤバい少年。本人曰く、あのままだと追いつかれて、綾に照準が向いてしまうから、仕方なかったなどと述べている。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 星巳 日葵  lv1 NEXT100pt  13歳


力 380 敏捷 320 耐久 260 器用 430 魔力 370 知力 290


〈スキル〉

・【武の心得】…lv5


・【模倣】…lv3


〈ユニークスキル〉

【××魔法】

・閲覧不能


【アイテムボックス・小】

・100㎥程の空間にアイテムを保管することが可能。


【××の××】

・閲覧不能


【×××】

・限定解放


【天賦の才】

・ステータス超上昇

・pt取得量超上昇。




 星巳 夕夏  lv0 NEXT  10歳


力 ― 敏捷 ― 耐久 ― 器用 ― 魔力 ― 知力 ― 


〈スキル〉


〈ユニークスキル〉

【×××】

・解放率60%




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


分かりにくいかもしれませんが、こちらは日葵がキャンプをしていた際のステータス。

夕夏はステータスを持っていないので、メイン時間軸のステータス(仮)です。

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