第16話

さて…どうしよう。

玄哉さんは立場的にそんなに時間も取れないだろうし、取り合えず風魔法を習得するに至った経緯を説明するとしよう。


先日の事を伝えると玄哉さんは顔をしかめていた。


「昇太君…また無理したんだね。」


思わず目を逸らすと、玄哉さんはため息を吐いた。


「風魔法を習得できたのは良かったかもしれないけれど…はぁ…これからは無理しないでね。」


「はい、分かりました…。」


そう言うと、玄哉さんは頷いて席を立った。


「よし!難しい話はここまで、それじゃあ、魔法を教える為に場所を変えよう。」


そう言う玄哉さんの後を追って、先程使ったエレベータで地下まで下りる。


着いたところは冒険者協会にある修練場に似たような場所だった。

広さは体育館3つ分程だろうか、かなりの広さがあった。


「ここは家のギルドが持つ、トレーニングルームだ。それで、えー…ここか…?」


玄哉さんが壁に立てかけてあるタブレット端末を一つ手に取り、何か操作している。

すると、突然いろんな場所から駆動音が鳴り、案山子の様な物が20個程出て来た。


「よし、それじゃあ昇太君、君は魔法についてどこまで知っているのかな?」


「…魔法は使用者の技量に大きく左右される物だと聞いたことがあります。」


そう言うと玄哉さんは頷いた。


「そうだね、けれど、それだけじゃない。魔法って言うのは何よりも想像力イメージが大切なんだ。」


想像力イメージ?何でそんなものが?

頭を悩ませていると玄哉さんはこちらを見て笑みを浮かべていた。


「その様子を見る限りピンと来てないようだね…じゃあ、昇太君、君は風魔法と聞いてどんなものを思い浮かべる?」


「…風の刃とか…突風とかですかね…」


そう言うと玄哉さんはさらに笑みを深めながら頷いている。


「うんうん、俺もそうだったよ…それじゃあ、もっと細かく鮮明に思い浮かべてごらん。」


辺りを静寂が包み込む。

…もっと研ぎ澄まされていて、速くて、堅いくて、芯の通った刃。

…何でも吹き飛ばされる凄まじい突風…。


「それじゃあ思い浮かべたイメージを俺に伝えて欲しい。」


深く考え込んでいた僕に玄哉さんはそう言った。

僕が思い浮かべたイメージを何とか言語化しつつ玄哉さんに伝えた。


「成程…そこまで思い浮かべられるなら大丈夫そうだ。」


そう言って、玄哉さんは腰に差してある刀に触れた。


「それじゃあ、俺が魔法を使ってみるから見ててね。」


風断かぜたち


玄哉さんがそう言うのと同時に凄まじい突風と共に辺りに轟音が鳴り響いた。


目を開ける事すら困難になる程の突風、風が収まり、目を開くと。


「なんだ…これ…。」


まず目についたのは地面にできた大きな断裂、それが3つ、それがそれぞれ案山子に進んでいき、案山子に着く直前で3つだった断裂が数え切れぬ程存在している。


「これが俺の魔法、風断・枝だよ。」


簡単そうに玄哉さんは言う、だけど、20は存在していた案山子を全て跡形もなく消すほどの魔法をいとも簡単に打つなんて…。


「昇太君ならこれ以上の事が出来るようになる。」


自信満々そうに言う玄哉さんに思わず疑いの目を向けてしまいそうになるが何とか堪える。


「けど、僕まだ風すら起こせませんよ?」


「…あ…忘れてたよ、それじゃあ基礎的なこともやろうか。」


…やっぱり教官に聞いた方が良かったかもしれない…。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



あれから30分、玄哉さんが言っていた体内の魔力の流れを掴むという行為、それが全く分からない。

血液の様に魔力は体内を巡っていて、それらの流れを操作するとのことだが、そもそも魔力と言うのが良く分からない。


「うーん…ここまで来たら少し荒っぽいけどやってみるか…。」


なんか不穏な事を玄哉さんが呟いている。


「昇太君、手を出してくれないか?」


不安感は拭えないが言われた通りに左手を差しだしてみる。


「ここから、俺の魔力をゆっくり流すから、これで感覚を掴めるかもしれない。」


すると左手が何だか熱を帯びて来た。

そして、その熱が心臓にもあることに僕は気付いた。

その熱は腕を通って心臓に溜まっていく、段々熱が強くなり、心臓が熱くなる。

熱を何とかして逃がそうと、右腕の方に流れて来る熱をそのまま持っていき外に出そうとする。

しかし、熱は体から出る事なく右腕に溜まっていく。


「イメージするんだ昇太君。」


玄哉さんの言う通り、先程考えていたことを再度頭に浮かべる。

研ぎ澄まされた風の刃、さっき見た『風断』みたいな…。


すると、右腕に溜まっていた熱は失われ、強い風が吹いた。


「で、出来た…?」


「まだまだ、発展途上だけどね。」


そう言って玄哉さんは僕の左手を離した。


「これ以上は辞めておこう、流石に疲れたろうしね。」


「あ、ありがとうございました。」


僕がそう言うと玄哉さんは笑って言った。


「別に構わないよ、昇太君は俺の息子みたいなもんだしね。」


僕は出口まで送ってもらった後、また別の場所へと向かうのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



次に来たのはダンジョンデパートだ。

此処へはボロボロになった装備を新調しに来た。


しかし、以前の装備を買おうと思ったが前より値段が上がっている。

横に並べられている装備は値段は安い物の前よりも凄く重い。


ステータスの関係であんまり思い装備は嫌だしな…。


その時、僕の目に留まったのは〈大特価、夏の大セール〉と言う文字。

9月4日まで行われるこのセール、並べられている商品はかなり数が減っていた。


そこにあるのはブラックタイガーと言う銀級中位のダンジョンの王の毛皮を用いた装備が以前の装備よりほんの少し高い値段で置かれていた。


その装備へと僕の手が伸びて……――


否、駄目だ駄目だ!何しようとしてるんだ僕は、確かに安かったけれど…。

あれは上下で12万円だぞ?我が家にそんな余裕は無い。


けど…ここでお金を惜しんでいいのか?


商品の前で悩むこと10分、僕は以前よりも価値の高い装備の入った紙袋を持ってお店を出た後、いっぱい稼ぐ事を決意したのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

補足コーナー


・魔法…イメージと技術力が必要な結構難しい必殺技。

因みに技名を叫んだりするのは、体が覚えているため声に出すだけで直ぐ頭にイメージが湧き、魔法が使えるからである。


・二条玄哉について…教えることに関してはやはり本職の水無瀬には勝てない模様。

強さに関してはやはり世界2位ということもあって頭一つとびぬけている。


・風断・枝…まず、単発の風の刃を出すのが風断、その風の刃を枝の様に幾つにも分かれて相手を襲うことからこの名前になった。


・ブラックタイガー…銀級中位のダンジョンの王、魔法を使わず魔物自体が持つフィジカルで勝負してくるため、小手先の技が通じない。

冒険者が挫折するポイントの一つ。


デネブのトレーニングルーム…広い、高性能、堅いの三拍子そろった凄い場所。

いざと言うときに避難場所になる。


・明星高校…以前説明するのを忘れていた超名門校。

星巳日葵が冒険者推薦で行った高校であり、その際、学費や通学費は全額負担してもらった。

他にもスポーツや学業、芸術にも秀でているため倍率はとんでもない事になっている。

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