主人公っぽい立ち位置に転生したけれどあまりにも弱かった件

紅の熊

第1話 主人公

俺は普通の高校生だったはずだ、そして普通に登校して、普通に友達と今日は階段の下からパンツ見えたわとか、クソ可愛い子いたわとかくだらないことを喋っていた。その時突然現れたトラックに引かれてそれで·····


「いやー信じられねぇ」

「んーどうしたの、アルちゃん」

「いやこの状況があまり飲み込めなくて·····」

目の前に広がるはコンクリートで舗装された道などではなく、木材でできた所々腐っているオンボロと言うにふさわしい壁、あまりにも硬いベッド、そしてそんなボロボロの部屋に似つかわしくない栗色の髪に綺麗な赤色の目をした美女(加えて巨乳)が俺の目の前にいた。


「ここどこよ·····」

「もう寝ぼけてるの?ここはあなたの家、そして今日は冒険者試験の日でしょ」

むっとした表情をした美女を見て俺は戦慄する。てことはこの美女が俺のママというわけか!あ、ありえないだろ!俺の母さんはデブでせんべいばっか食ってるけど料理はクソ上手い母性溢れる人だったはずだ!こんなスタイル抜群の絶世の美女のはずがない!


それに冒険者?そんなのラノベの中でしか·····まさかとは思うが·····


「ママ、ひとつ聞きたいんだけど、俺が住んでる国の名前ってわかる?」

「ひ、ひどい寝ぼけ方ね、ここはグルターシャ、世界唯一のダンジョンを保有する国よ、思い出した?」

まじかーこりゃ確定だ。俺はどうやら異世界というものに転生してしまったらしい。



異世界に転生したということを実感してからは自分の近辺とこの世界について家族に聞くことにした、本の文字は理解できなかったからな。そして分かったのが俺の年齢が14歳ということ、名前がアルということ、そして母と父、そして姉の三人家族だということ、ちなみに皆美男美女、もちろん俺もだぜ!


次にわかったのはこの世界が魔獣や魔法が存在する世界だと言うことだ。基本的に魔法が使えるのは才能があるやつだけらしい、俺には無いと言われた。


そんでもって一番大事なのがダンジョンという存在だ。ダンジョンには多くの魔獣が存在しており、現在1層から32層まで攻略されておりさらに下の階層に挑み続けているという。ダンジョンからは豊富な資源があふれてくる、それは下の階層になればなるほどレアなものが出てくる。


そんな資源豊富な場所、ダンジョンを統括するのが冒険者協会であり、ダンジョンを探索するためには冒険者協会に入らなければならない、そして入るためには試験があり、その試験の日が丁度今日というのだ。俺が成り代わる前のこの体の主人には冒険者になるという夢があったらしく至る所に冒険者についての紙が貼ってあった。ならばこの俺も前の主人のためにも冒険者になる他あるまい。


「なるほどねぇ」

「何がなるほどなの?」

食パンをかじりながら姉にそう返された。というかやっぱ姉すごい美人だな!ママよりかはおっパイは劣っちまうけどスレンダーな体に似合った少し童顔な顔、うーん最高だ。


「いやまさかこの俺が冒険者になる日が来るとはなー」

「まだなってないでしょ」

「いたっ」

姉に殴られた。だが美女からのゲンコツ、むしろご褒美である。


「ほら早く行ってきなさい」

そう言って姉に背中を押された。

「俺·····受かるかな?」

やばい少し不安になってきた。冒険者試験は基本安全だと聞くし死の危険性はないと言うけれど、やはりゼロではない。


「そんなの私には分かんないわよ、受かるかもしれないし受かんないかもしれない、けど少なくとも私はあんたを応援してる、頑張れアル」

「姉ちゃん·····」

くそっこんなにも優しい姉が存在していたなんて!姉ちゃん、俺は眩しすぎてあんたを直視できねぇよ。


「アルぅ、頑張って来てねぇー」

「かはっ」

急に母親が俺を抱きしめてきた、なんだこの弾力は!?すごい!沈めば沈むほど跳ね返されるようだ、だが跳ね返されそうになったところを母の剛腕が止める、つまり息ができん!


「アルちゃんならきっと大丈夫よ!頑張ってねぇ!」

「あ、あ··········」

さらに強く抱きしめられ息をするのが困難になった。


ん?だがなんだ、この暖かさはいやこれは母性、圧倒的包容力による安心感、あぁ俺はもうここで死んでもいい、あれ?向こう岸にいるのは現世にいたばあちゃん?久しぶりだなぁ、あーなんか気が遠くなってきたなー。


「ちょっとママぁ締めすぎだって、試験に行く前に死んでしまうじゃないか」

「あらそうだった、ごめんねぇアルちゃん」

「かはっ!はぁはぁはぁはぁ」

危なかった、本当に死ぬところだった。パパが止めてくれなかったら俺は確実に死んでいた。


「大丈夫かい?」

パパにそう言われ少し落ち着いた。

「う、うん」

「じゃあ行ってらっしゃい」

「うん、行ってきます」

「頑張ってねぇ」「頑張れよアル」

家族の激励を背に俺は歩を進めた。やべぇなんか今更ながらワクワクしてきたな、冒険者かー、楽しみだ!



ここは冒険者協会本部の裏庭、今日冒険者試験を行う場所である。この場所は広大で半径5キロメートルの円状に作られている。この場所に普段ならスライムを解放させておき指定の数のスライムを倒せた者だけ合格となる。もちろん外に出ないようにこの裏庭にはただし今日に限っては少し様子が違ったようだった。


「どうだ?今日の冒険者試験で使うスライムの準備は」

「いえ、それが·····」

「んどうした?」

上官らしき人物が下っ端の者に聞くと下っ端の者は何やら俯いて言う。


「研究用にとっていたガーゴイルを放ってしまいました」

「なんっ、だと」

「すいませんすいませんすいません!」

下っ端の者が何回も何回も頭を下げて謝る。


「クソっ下がれ!」

「はっ!」

怒気を含んだその声に怯えながら下っ端の者は去っていった。


「まさかガーゴイルが脱走するとはな、試験の時間までもうすぐだ、この時間では捕まえることなどできない、試験の時間を遅らせるか、たくっなぜ今日に限ってこんなことが起こるんだ」

上官の男は深いため息をついた。


そしてここに一人、バカな者がいた、その者の名前はアル

「いやー、迷っちゃったなー」

迷ったレベルでは無いのだがこの男の思考回路では迷っているということになっているのだろう。

何食わぬ顔で冒険者本部の裏庭に侵入するアル、この男はこの世界の文字が理解できないため立ち入り禁止の札が分からなかったのだ。


「いやー、ここどこよ俺は本部に来たはずなんだけど·····」

目の前に広がるは広大な平原、そこにアルは立っていた。


これは主人公体質が強すぎる少年の物語、トラブルに巻き込まれる、災難な少年の物語である。



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