第1幕 1マッチョ、2マッチョ、ちびマッチョ!

 夏の太陽が照りつける午前10時。


 番所ばんしょ蝶介ちょうすけ海原かいばら秀雄ひでおはTシャツに短パンというラフな服装で夢見丘ゆめみがおか商店街を歩いていた。

 

 金髪のオールバックに緑色のカチューシャ、その顔を一目見ただけて誰もが震え上がる強面の男子高校生(だけど本当はみんなと仲良くなりたい心優しい男の子)が番所ばんしょ蝶介ちょうすけ

 一方、黒髪のおかっぱ頭に丸メガネ。いかにもインテリ、勉強しかできません的な印象の男子が、海原かいばら秀雄ひでお

 

 一見すると不良が気弱なメガネ男子を連れまわしているようにも思えるが、二人は筋肉を介した友情で深く繋がっているマッとも(ズッ友みたいに言うな)なのである。


 今は夏休みの真っ最中。二人は朝から待ち合わせをしてジムに向かう途中だった。


「アニキ、昨日の『筋肉少年マッスル☆ビルダーズ』観ましたか?」

「おお、すごかったな。敵の筋肉」

「ですよね、やっぱり昨日の見所はそこですよね! 特に上腕三頭筋が……」


 二人は他の人が聞いてもさっぱりな会話を続けながら、笑顔で歩いていく。そんな中、向かいから三人のかわいらしい女の子たちがやってきた。


 一人は黒髪のショートボブに黒縁メガネが印象的な、いかにも委員長といった感じの女の子。名前は城ヶ崎じょうがさき悠花ゆうかといった。その隣には金髪の長い髪に、芸能人と言われてもおかしくない美しい顔立ちの夢野ゆめの李紗りさ。さらには李紗の妹、黒髪の美少女夢野真弥まや。夏らしいノースリーブのワンピースを身に纏った三人が揃って街を歩くだけで、道ゆく人は振り返り、あまりの美しさ、可愛らしさにため息を漏らす。


 チャラそうな学生が三人に声をかけようと近づくが、その背後にいる金髪強面ゴリマッチョの睨み(本人は睨んでいるつもりは毛頭ない)に気づくと、そそくさとその場を後にした。


「あら、蝶介と秀雄じゃない。こんな時間にどちらまで?」


 目の前を歩く筋肉少年二人に気づき、お姫様のような丁寧な言葉遣いで李紗が尋ねる。実際、李紗と妹の真弥はマジカル王国という、人間界とは別の世界に住むお姫様なのである。今は訳あって人間界で暮らしているのだが、劇場版ではそこらへんの設定についてあまり深く触れないのである。

 

 李紗の問いに対して、メガネの縁をきらりと光らせて、おかっぱ眼鏡マッチョの秀雄が答える。

「今からアニキと二人でトレーニングに行こうと思って! 姫たちは?」


「私たちは三人でパフェを食べに行くところなの。悠花がおいしいお店を知ってるんですって。ねぇ、悠花」

「ええ、最近できたって情報誌に載っていて、二人を誘ってみたの。そうしたら二人がぜひって……」

 そうなんです! 私、パフェというものを食べたことがなくて……楽しみなんです! と真弥が笑顔を見せた。


「……パフェはうまいが脂質が高い。気をつけろ」

 ぼそっと蝶介が呟いたが、だれも反応してくれなかった。


「っていうかさ、あなたたちいっつも筋トレ筋トレって、そんなに筋肉が大事なの?」


 李紗のその言葉で、蝶介の額にピキッと血管が浮かび上がり、眉間にシワがよった。やばい! アニキが筋肉に反応した! 秀雄がそう身構えたときだった。


「助けてくれ!」


 突然五人の頭上にビリビリっと小さな電気のようなものが走り、青白く輝くワームホールが出現した。――異空間魔法。幸い、街を歩く他の人々には見えていないようだった。見えているのは蝶介たち五人だけ。なぜなのかは後々わかるので気にしないでほしい。


 そこから慌てふためいた様子の一人のマッチョが飛び出してきた。そして勢いそのままに悠花の収まった。


 それはマッチョというよりは、小さめのといった感じだった。見た感じはただの子供。しかし、筋肉はしっかりと発達しており、胸筋はパンパン。腹筋も見事に六つに割れており、子供ながらに相当鍛えていることがわかった。


「ちょ、ちょっとマッチョ! じゃない、待って! だ、誰、あなた!」


 悠花は抱えたちびマッチョに驚きながらも、ゆっくりと地面に下ろす。はあはあと息を切らすちびマッチョに対して、「ほら、これ飲んで落ち着け」と蝶介がどこから取り出したのかプロテインドリンクを差し出す。


 一瞬、ちびマッチョはためらったものの、プロテインドリンクに口をつけると、目を見開いてそれを一気に飲み干した。


「すごい! こんなプロテイン初めて飲んだ!」

「はっはっは、タンパク質が15gも入っているからな!」

「へぇ、そりゃ濃いわけだ!」

「だろう? 最近コンビニにもたくさん売ってるんだぜ、おすすめはな……」


 ちびマッチョと蝶介がここから筋肉談義に入ろうとするのを遮って、李紗が尋ねた。

「で、あなたは一体何者なの? どうして異空間魔法を使ってここへ?」


 そうだった! という顔をしてちびマッチョは真剣な顔をして言った。


「お願いです、マッスルキングダムを救ってください!」


 ☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆


<ここで、魔法少女マジカル☆ドリーマーズ 主題歌が流れる>


 夢を守って! マジカル☆ドリーマーズ 〜劇場版アレンジヴァージョン〜

 歌:Mミオ and Wウルフ


 どんなにつらいときでも 夢は逃げださないから

 あきらめないで そんなときは 助けに行くよ マジカル☆ドリーマーズ

 朝日が眩しい 今日も素敵な一日 始まる気がするよ 

 楽しい出来事が 私たちを待っている

 

<ミオとウルフのラップ>

 いつの間にか忘れかけていた 空見上げれば虹かかっていた

 夢は叶えるためにあるんだよ 雨は必ずいつかやむんだよ

 夢を夢のままで 終わらせないで

 君は君のままで 変わらないで


 あと一歩先に広がる未来 勇気の魔法かけてあげるよ

 どんなに涙流れても 夢は離れないから

 忘れないで そんなときは 思い出してね マジカル☆ドリーマーズ

 忘れないで どんなときも 君の味方 マジカル☆ドリーマーズ


<五人で声を揃えて>

「劇場版 魔法少女マジカル☆ドリーマーズ 〜マッスルキングダムが大ピンチ! 筋肉魔法が世界を救う?〜」


 ☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆


 ちびマッチョの突然のお願いに、真弥が反応した。

「マッスルキングダム? ちびマッチョさん、どういうことですか?」

「実は……」

 ちびマッチョは自分のことをちびマッチョと呼ばれても、それがごく当たり前かのように、普通に話し始めた。

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