第5話 対決

ある日、沙織は意を決し、美代子に会って決着を付けることにした。

昭太郎は、その動きを察知していた。

しかし、知らぬふりをしていつも通り出社した。


この後、自分の犯した罪の報いを受けることになるだろう。

自分が蒔いた罪の種を、刈り取ることになるだろう。

昭太郎は、そう覚悟していた。



沙織は、入念に化粧をし、凛とした着物姿で家を出た。

そして、駅のホームで汽車を待っていた。


前日、眠れなかったせいか、ホームの長椅子に座った沙織を睡魔が襲う。

夢の中で女の声が聞こえた。



「ユルサナイ……」



美代子の声なのだろうか。

そんなことより、

汽車に乗らなくては……


汽笛と、汽車の煙の臭いに目を覚ました沙織は、

乗り遅れまいと立ち上がり、ふらつく足でホームを歩いた。


汽車に乗り遅れる……


目の前の光景が歪んでいく……


汽車に乗らなきゃ……


沙織はホームから転落し、その体の上に汽車が停車した。

駅は騒然となった。


沙織の死は新聞に載り、会社の皆に知られることとなった。


沙織の葬儀が執り行われた。

昭太郎に近しい者たちは、奥さんは汽車でどこに行こうとしていたのですか?

と遠慮なく聞いてくる。


昭太郎は、沙織がどこに行こうとしていたのか、気付いていた。

美代子と会おうとしていたに違いない。


自分が美代子と浮気などしなければ……

そう悔いていた。

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