第4話 再会

そんなある日、再び親からの手紙を受け取り、昭太郎は村のことを思い出した。

美代子は、今でも昭太郎のことを好いており、いつかお父さんは帰ってくるからと、娘の亜寿未あすみに言い聞かせて、村で寂しく過ごしているという。


昭太郎は、美代子に会いたくなった。

そして、まだ見ぬ自分の娘、亜寿未にも会いたいと思った。


村に帰るわけにはいかない昭太郎は、美代子に手紙で連絡を取った。


今さら合わせる顔がないのを重々承知の上で、

「もう一度会いたい。娘の亜寿未にも会いたい」

と筆をしたためた。


すると、美代子から返事が来た。

私も昭太郎に会いたい、娘の亜寿未にも会わせたいとのこと。


昭太郎は現金書留で美代子に交通費を送り、町外れの洋食屋で落ち合うこととなった。

沙織には内緒である。


昭太郎は、尾行されていないことを確認すると、郊外の洋食屋に入った。

そこには、歳を重ねてはいたが、昔の面影を湛えた美代子と、かわいい少女がかしこまって座っていた。



「すまなかった……」

昭太郎が紡ぐ、どんな言葉も赦しを得ることはできない。


それでも、昭太郎は謝罪の言葉を重ねた。


ひとしきり昭太郎の謝罪を聞いた美代子は、自分の身の上話を始めた。


美代子の母は最近、亡くなった。

死ぬ間際まで、祈祷師の位を美代子に継いでもらいたいと言っていたらしい。


しかし、都会の華やかな暮らしを経験したことのある美代子には、もう家業を継ぐ意志はなかったのだ。


昭太郎と一緒に生活することは叶わないが、昭太郎の近くで都会暮らしをしたい。美代子はそう言った。


昭太郎は心が揺らいだ。


沙織という申し分のない妻と、松吉という申し分のない息子がいる。

今の暮らしで十分に幸せなはず。


しかし、人間は手に入れた幸せの価値を見失ってしまうもの。


昭太郎は、美代子への慕情を再燃させてしまうのだった。


その後、昭太郎は密かに美代子や亜寿未と逢うようになった。


当然、隠しきれるものではない。

沙織は昭太郎の浮気に気付いていたが、

それを表には出さず、じっと堪えていた。


沙織の父は会社役員であったが、数年前に他界してしまっている。

沙織は、昭太郎と離縁して孤独になる勇気がなかったのだ。


とは言っても、沙織は浮気をしている昭太郎を許せない思いでいっぱいであった。

同時に、浮気相手である女、美代子に対しても許せぬ思いを抱いていた。


一方、美代子は美代子で、沙織さえいなければ妻の座は私であったはず、

という思いにいつまでも囚われていた。


沙織は美代子を呪い、

美代子は沙織を呪った。


時代はすでに昭和になったというのに、

二人は昔ながらの呪いの儀式を行い、

お互い、相手を呪い殺そうとしていた。

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