心変わりの代償

神楽堂

第1話 幼なじみのために

美代子みよこと結婚するか、沙織さおりと結婚するか。

昭太郎しょうたろうは人生の分岐路に立っていた。


美代子は幼馴染だ。

昭太郎は無医村に生まれ、小学生時代をそこで過ごした。

無医村は当然、不便だ。医者にかかるためには遠く離れた町まで行かないといけない。

そこで、村人たちは病気にかかると、村の祈祷師の元を訪れ、

怪しい呪術で病気を治してもらっていた。


昭太郎の家の向かいが、その祈祷師の家だった。

代々、その家系の娘には生まれながらに霊能力が宿っており、その力で祈祷を行い、病を治癒していた。

昭太郎は、その祈祷師の娘である、美代子と幼馴染であった。


家が近かったこともあり、幼いころから一緒に遊んでいた。

昭太郎たちは高学年となり、お互いを異性として意識するようになっていた。

昭太郎は、美代子の家業が何であるのかを理解していた。しかし、時代は進んできている。

いつまでも、そんな前時代的な医療が通じるはずもない。

美代子の母が祈祷を行っても、病気が治らないばかりか、そのまま進行して死んでしまうことも多かった。


昔であれば、祈祷師は村にとって重要な存在であり、依頼人が亡くなっても、それは信心が足りなかったからだ、徳が足りなかったからだ、などと言ってうやむやにされてきた。


しかし、時代は進んだ。

新聞を取る家、ラジオを置いている家も増えてきた。

村人は、祈祷師を敬うことを辞め、逆にインチキ扱いをするようになった。


学校で、美代子がいじめられるようになった。

「お前のところ、インチキだろ! じいちゃん、死んだじゃないか! どうしてくれるんだ!」


そんなことを小学生の美代子に言っても仕方のないことだ。

しかし、人は不幸になると、誰かを責めたくなるもの。

昭太郎は、必死で美代子をかばっていたが、結局、少年である昭太郎には何もできなかった。

家族を失った村人の怒りを収めさせるだけの力は、昭太郎にはなかったのだ。


昭太郎は、猛勉強をした。

学歴を手に入れ、社会的地位を手に入れる。

そして、美代子を守ってやるんだ。

そう決意した。


昭太郎は尋常小学校を卒業し、中学校へと進学を果たした。

村から中学校に進学する者は珍しい。

村人からの寄付金をたくさんもらい、昭太郎は村を出て、町の中学校に入った。


中学でも、昭太郎はわき目も振らず、猛勉強を続けた。

時代遅れで医療のない村、そんな故郷を俺が救う。

美代子には祈祷師になんて、なってもらいたくなかった。

現代科学の力で医療を行えばいい。

そうすれば、美代子はいじめられなくなるはず。

昭太郎は、尋常小学校の卒業アルバムの美代子を見返すたびに、決意を新たにしていた。


昭太郎は高等学校に進学した。いわゆる、ナンバースクールである。

医者になりたかったが、田舎出身の昭太郎には壁が厚かった。

浪人する余裕がなかった昭太郎は、化学を専攻する研究室に入った。

卒業後、昭太郎は大手の製薬会社に就職し、新薬の研究開発を行うことになった。

薬の力で病気を治す!

もう、時代遅れの祈祷になんて頼らなくていい!


昭太郎は、会社でも成果を上げていき、出世頭となった。

これで、村人も馬鹿にすることはないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る