第3話 俺たちは文化的生活を捨てられない
「いいですか、皆さん。皆さんはもう、戦ってどうこうできるレベルを超えてしまっているのです。規格外の力を持っているのです」
淡々としながらもトンデモ持論を主張しはじめたオーリーの姿に、俺は後ろに控えてくれていたウルスラとイヴァンを振り返る。
——もしかして今、強すぎるって苦情受けてる……のか?
戸惑っているのは二人も同じだった。
養成機関では、勇者は強くて当たり前。その仲間も強くて当たり前、という前提と認識で訓練がなされていた。
そうやって、勇者としての力と心とを、身体と精神に叩き込まれた。
そんな養成機関で繰り返し教えられたことがある。
勇者
魔王城へ乗り込む前に各地に点在する魔王軍の拠点を潰し、地域に平和と平穏をもたらすこともまた使命だ。
勇者は民と平和に奉仕する存在であるのだ。
ということ。
そもそも俺たちは、資金稼ぎをしながら旅せよ、なんて教えられてない。
だから俺たちは気にせず、いつもの演習通りに群がる
「まあ……強くなきゃ勇者になれないですし」
至極当然の話をする俺に、イヴァンとウルスラが同意するように続く。
「そうですね。そうじゃなきゃ僕ら、アレクさんに同行できませんし」
「なにを当たり前のことを言っとるか。魔物は殲滅してナンボだろうが」
「ええ、そうです。皆様の実力と考えは、商業都市プラナにたどり着くまでに充分わかりました。ですから、考えました。どうしたら路銀を稼げるのか、と」
目深に被ったフードの隙間から見えたオーリーの目が、キラリと光った。ように感じた。
旅立つ前に、当代きっての
はじめにオーリーの話に食いついたのは、ウルスラだ。
「お。なにかいい策でもあるのか? それなら早く言え」
「オーリーさん、俺たちはどうしたらいいんですか。教えてください!」
前のめりの姿勢で催促するウルスラと俺の前で、オーリーはビッと二本指を立てて目の前に突き出した。
思わずゴクリと唾を飲む。
「選択肢は二つあります」
「えっ、二つもあんの!? さっすが、オーリー!」
——マジかよさすが有能
と、ベタ褒めしようと続けた俺を止めたのは、オーリーの深い深いため息だった。
「褒めないでください。知恵を絞っても二つしか案を出せなかった自分の力不足が身に染みて痛いので」
凍てつく息吹のように冷たいオーリーの声に、俺は思わず謝った。
「あっ……すみません……」
俺の謝罪にオーリーの返答はなく、ただ気を取り直すかのように小さく頷いただけ。
フードの奥の顔が、マスクで隠した表情が、どのようだったかはわからない。
けれど、背筋がゾゾゾと冷えたから、ニコリと笑って許してくれたわけではなさそうだった。
そうしてオーリーは立てていた二本指のうち一本を折り畳み、人差し指を立てて言った。
「まずは一つ目。皆さま、文化的生活をお捨てになる覚悟はありますか?」
「ないです」
「あり得ない」
「無理じゃろ、無理だ」
俺たちは即答だった。
文明社会に生きているのに、路銀がないから文化的生活を捨てるだなんて、無理がある。
——道中、宿がなくて野営すんのと、自ら文化的生活を捨てんのは違う!
そんな野蛮なことはできない、ノーセンキューだ、と俺もイヴァンもウルスラも一斉に首を振る。
縦じゃない、横へだ。
「ですよね。でしたら、残る一つしかありません」
勇者の感か、それとも経験則か。
顔が見えないはずのオーリーが、ニコリと深く笑ったような気配がした。
本日何度目かの背筋ゾゾゾである。
——まさか……勇者である俺が、オーリーに恐怖を感じている……?
しかし、俺の懸念はすぐに晴れた。斜め上の方向目指して飛んでいっただけだけれど。
ニッコリと笑っているであろうオーリーが、少し興奮気味の早口でこう告げたのだ。
「アレク様、皆さま。あなた方には『アイドル』になっていただきます……!」
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