第2話 魔物は素材が……採れません!

 ——遡ること数時間前。

 王都ゼランから商業都市プラナを結ぶノクタリア街道およびノクタリア草原。


「うぉりゃぁぁぁぁああああ!」


 イヴァンが振るう大剣が、獣型魔物モンスターを無惨にも切り裂いた。

 縦横に振るわれる剣筋は魔物を散り散りにし、草木生い茂る草原を真緑色の血で染める。


「雑魚どもめ、蹴散らしてくれる」


 ウルスラが放つ魔法が小型妖獣モンスターをまとめて葬った。天才魔法使いが放つ初級魔法は、無詠唱にもかかわらず、まるで上級魔法のような威力を持っている。

 飛び散る体液の中に割れた魔核コアが沈み、やがて大地に染み込んで消えていった。


「邪魔だ、群がるな!」


 普段は温厚であるアレクは、まるで人が変わったかのような猛々しさで魔法を纏わせた剣を振るう。


 三日前。勇者の洗礼を受けたアレクの目は、闘志と興奮とで銀色に淡く輝いていた。


 元の目の色は黒色だったらしいが、洗礼を受けた後のアレクにしか会ったことのないオーリーは、どのような色合いの黒だったのかまでは、わからない。


 オーリーの視線の先で、アレクは黒く短い髪を汗で濡らしながら、勇者の行手を阻まんと群がっていた飛龍型魔獣モンスターをたったひとぎで消滅させて、活路を開いていた。


 さすが選ばれし勇者一行である。


 しかし、しかしである。


 オーリーは勇者一行パーティの無慈悲な戦闘行為を目の当たりにして、樹上で頭を抱えていた。


(強すぎる……強すぎて魔物から素材を剥ぎ取れない……! いや、剥ぐなんてレベルを超えている……!)


 オーリーは勇者一行パーティ管理支援官マネージャーである。


 オーリーの仕事は主に道中の金策と金銭管理。


 一般常識お金の計算があやふやな彼らの旅を影で支える事務官だ。

 事務官なので、戦闘スキルは一切持たない。


 そんなオーリーが勇者一行の同行を許されたのは、熟練度レベルがカンストしている気配遮断スキルと隠密スキルのおかげ。


 勇者たちの戦闘を邪魔しないよう、ほどよく遠いところから彼らを観察し、出番があるとすれば戦闘終了後。

 オーリーは傷の手当てや街や都市への案内、宿や食事の手配などの雑用で力を発揮する。


 だから文字通り、こうして高みの見物をしている訳だけれど。


(あ、ああ……もの凄い勢いで魔物が群がり……それをもの凄い勢いで殲滅してゆく……)


 スキルを駆使して安全を確保したオーリーが、勇者に群がる魔物の群れに憐れみの視線を向ける。


(あ、ああ……倒す魔物がズタボロすぎて、換金対象にすらならない……)


 冒険者にとって魔物は旅費を稼ぐ恰好の獲物だ。売れば金になる素材の宝庫だ。


 皮や牙、爪は武器や武具の素材になるし、魔核コアは魔道具の材料になる。飛龍型の魔物の心臓は魔法薬にだってなる。


 換金すれば銀貨はもちろんのこと、金貨だってザックザク。そのはずだった。


(なんてこと……このままでは一銅貨も稼げない……?)


 魔物殲滅特化型決戦兵器と化したアレクたちは、貴重な財源モンスターをことごとく斬り裂き、粉砕し、消滅させてゆく。

 現在進行形で素材金のなる木を台無しにしているのである。


 その強大な力ゆえに。

 勇者とその仲間たちとしての実力を持つがために。


 加減ができない訳じゃない。加減をしてもまるで意味がないのだ。


(ああああああああ……彼らの力がここまでとは……これでは……このままでは……道中の路銀を稼げず飢えて、魔王城まで辿り着けない……!)


 そう、主に金銭面的な理由で、勇者一行は工程三日目にして究極のピンチを迎えていたのであった。





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