第6話手紙を出した

 新人の大魔女は悩んでいた。

 思い切って魔王に手紙を出してみた。

 この文面でいいのか悩みに悩んでいた。

 失礼ではないだろうか。

 考えて何度も何度も書き直す。

 敬語のおかしな場所はないか、手紙の書き方に不備はないか慎重に確認をする。

 文字がきれいに書けるように何度も何度も書き直す。

 何度も何度も


 見飽きるくらいに推敲して

 

「文字って自信ないのよね」

 字が上手だったなら本当に良かったのだが、見苦しいものだ。

「まただわ。書き直し!」

 何週間もかけてようやく完成した。

「出来た」

 ヘロヘロになりながら手紙に封をする。

「これで良しっと」

 郵便役のカラスに頼む。


「お願いね」


 また図書館へ通い詰める日課が戻ってきそうだ。

 

 ☆☆☆

 魔王の城が構築されている。

 長年、その座についているからできた功績といえる。

 実際、彼に従う魔の種族は大勢いる。


 「手紙か。捨てておけ」

 魔王は魔女と会う気はない。

 カラスのくちばしから手紙が落ちる時に、彼の手の甲に紙が触れた。

 魔王ピクリと反応したときに声が聞こえる。

「ごきげんよう。魔王様、お名前は何というのでしょうか?  ご返信お持ちしておりますわ」


「ッチ。魔法か」


 魔王は綺麗な声なので、相手にあうと惚れられる可能性が高い。


 声だけならばと思い、大魔女に関わったこともある。

 しかし、声にすら惚れてきた大魔女もいたなとは思う。

 魔法にかかったことは大魔女には知られているだろう。

 返信しないのも非礼になる。

 ため息をついて自室の紙を取り出す。


 すらすらと宛名を書いて魔法をかける。


「俺にかまうな。近づき過ぎれば身を亡ぼすぞ」

 なるべく低い声で、怒気を含んだ声音。

 これならば惚れられることはないだろう。


 これだけ生きていても腕輪でないと魔力の確認をできないのは不自由なものだ。


 自分の腕輪には51の文字が浮かぶ。


「どこまで耐えられるかな」


 前の大魔女は声をきいたら魔力の均衡が崩れた。


 その前は顔を合わせてからおかしくなった。


 さて、今回の大魔女はどうだろうか。

 真っ先に会いに来こない部分に興味がわいた。


 歴代の大魔女たちは会いに行かなくとも、

 頬を染めて吾輩に会うためこの城に足を運んできたのだから。

「色恋に重きを置かない魔女は久々かもな」

 呟きを聞いたものは誰もいない。


 ☆☆☆

 魔王から返信が届いた。

 触れた途端に声がしたものだから驚いた。


 怒気を纏っているが、低く美しい声だ。


(確かに美声だわ。これで大抵の人はメロメロになるわけね)

 筆跡を見ると美麗な筆跡だった。

 大魔女たちは恋に落ちたらしいが、生憎そんなには恋愛脳になれない。

 魔法を使ってなお読めない文献は山のようにある。

「私の鍛錬の差で変わるのかもしれないけれど」

 まだ大魔女を始めて5か月なのだ。圧倒的に知識も経験も足りない。

「やはり会えないか。さぁ、どうしましょう」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔女と魔王の支配関係 朝香るか @kouhi-sairin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ