第3話母は歓喜する

 魔力が発現したときの母は怖いくらいに歓喜していた。

 

 自分の子孫は魔力はないのだと思っていたから。

 自分の代で魔法道具の類

 もおしまいと思っていたようだ。


「まぁ、あなた。力があったのね」

 踊りだしそうなほど喜んでくれている。

 こんなにも期待をしてくれていたのだから。


 幼児期に発現しなかったことで、

 悲嘆にくれたことは容易に想像ができてしまって

 申し訳なさがある。

「ウレシソウダネ」


 いっそ発現しなければ、普通の教育を受けて、

 恋愛したりバイトしたりして

 ただの人間としての生活が待っていたのに。


「私、あまりうれしくはないわね」

「あらあら、いいじゃない。魔女の世界へようこそ」


「これで母さんの道具も継承できるわ」

「そんなに重要なことなの?」

「もちろん」

 先代のものも先々代からのものも

 継承しているアイテムがあるそうだ。


「ウチにある書物は使っていいし、

 魔法の専門の図書館への道も教えてあげるわね」

 紙に書いてくれる。

「アリガトウ」


 母は続けて説明し続ける。

「魔王様は大変な美形だといわれているわ。

 私は魔力の少なかったから候補にもならなったけれど、

 あなたが魔女になるなんて本当にうれしいわ」


 ある程度、魔力がないと魔王と大魔女にも会えないし、

 お世話係にもなれないらしい。

「お母さんは魔女でしょ」


「大魔女なんてなれる可能性はないの。

 血筋で決まることも多いけれど、

 何十年かに一人は血統関係なく大魔女が出てくるのよ」


「ふーーん」

「これはすごく名誉なことなのよ」

「かあさんにとってはね」


「あなたにとってもうれしいことがあるわよ」

「うれしいことはまだないわね」

「一定の魔力があれば不老になれるのよ。

 うらやましいわ。10代で大魔女なんて史上初なのではないかしら」


「うげぇ、じゃあずっとこのままなの」


「そうね。基本的にはそうなるかしら。

 意図的に老けるのはできるかもしれないわ。

 私はあまり魔法が得意ではなかったから方法まではわからないの。

 とにかく図書館でしらべてきなさいな」


「はーい」

 ☆☆☆


 図書館の場所を教えてもらった紙を握りしめながら

 翌日尋ねてみることにする。

 

 先代大魔女たちはどうだか知らないが、

 新人大魔女の仕事は山のようにあった。


 魔もの専用の図書館へ出向くとゴブリンが案内してくれる。

 ここが魔女関係の本があるはずだ。


「ほこりっぽい」

 案内役のゴブリンは言う。

「しかたないだ。

 だれも出入りしないから換気しても

 ほこりっぽさがぬけないだ。

 ここから司書のいる場所までは遠いから

 道に迷わないようにしてくれ」

「はい」



 魔女は人間と妖怪の橋渡し役だ。


 人間の治療もするし、妖に効く薬も調合する。


 何代も色ボケしていたものだから、

 女性魔女の治癒方法が伝わっていないのだ。


「何世代前の字なのよ。読めるわけないでしょ」


 文字が変わるほど、魔女は記録を更新していない。


「恋どころじゃないわよ」


 昔の文字の辞書を探して、照らし合わせながら見る。

「読める魔法はないものかしら」

 試しにやってみる。

「えい」

 文字が1つ前のものまでは読めた。

 それでもまだまだ読めない背表紙がある。


 種族が違うからというよりも古くて読めない。


「……そこまで昔ということね。

 そりゃ、魔王もあきれてパーティーに来ないわけね」


 魔法で必要な記載を転記しながらこれからの日程を考える。


 1日で終わる量ではない。

 何度も図書館へ行くことが確定のようだ。

「3か月くらいで終わればいいけれど、どうなるかしら」

 当たり前だが、懸想する時間などない。




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