氷みたく冷たい美少女にセクハラしたら、なぜか付き合えることになったんですが!?
みゃあ
1 当たって砕ける
それは彼女の持つ、二つの特徴から読み取ることができる。
まずひとつ目は、彼女の容姿だ。
鋭さを覚えてしまうほどの切れ長の目、滅多に上がらない口角、雪のように色白な肌は、冷たいという印象を植えつけることに一役買っている。
けどそれらは、彼女の容姿を構成するほんの一部で、美しく整った顔立ちとか、細く長い手足とか、出るとこは出て締まるところは締まってるスタイルとか、背中まで伸びるつやつやとした黒髪とかが見るものを惹きつけてやまない。ゆえに、彼女はモテた。それはそれはモテまくり、告白とかは日常茶飯事。
で、氷の女王と呼ばれるもうひとつの理由が、彼女の告白を受けたときの対応である。
ウチのクラスのイケメンくんが告白したときは、『私はあなたみたいなのには靡かないって決めてるの』とバッサリ切り捨てたらしいし、隣のクラスのチャラ男くんが告白したときは、『身の程を知りなさい、ミジンコ』と胸を抉られるような一言を貰ったらしい。
ほかの告白をした人たちも同じような感じらしく、みな立ち直れなくて学校を休んだり、仮に来れたとしても魂が抜けてたりした。
ちなみに友人もそんな感じだったので、なんかひどいことを言われたんだろうと察したりもした。
そんなこんなで今日日。僕――
海凪さんに、告白をしようと決めたのである。
いまの流れでなんでそうなるのかと疑問を持たれたと思うが、それはもっともだろう。きっと、僕がよほどのバカか、命知らずなだけだと思うかもしれない。
いやべつに、ぼくはそういうのじゃない。どこにでもいそうな、普通のやつだ。
けど、それは告白をしないでいい理由にはならない。というか僕は、彼女のことが好きなのだ。
――昔、いや去年の春頃のこと。
僕が落としたハンカチを彼女が拾ってくれたことがあって。
『これ、落としたわよ』
『あ、ありがとう、ございます』
『ふふ、モノは大切にしなきゃダメよ』
そういってほこりを払ってくれたハンカチを、手渡してくれた。
その時のかすかな笑みが忘れられなくて。全身をビリビリと電気のようなものが走って――。
気づいたら好きになってたのだ。
もうこのあふれそうな気持ちを、抑えられそうにない。
いますぐにでも伝えたい。そして叶うなら、お付き合いをしたい。
「でも、普通に告白してもなぁ……」
僕はため息を吐く。僕のような平々凡々のやつがアタックしたところで、フラれるのが目にみえてる。
伝えるという目的は達成されるけど、あとに残るのは彼女の冷気に触れて残るやけどの痕だけだ。それもたぶん、完治しないやつ。
「こういうときは、誰もやったことがなさそうなことを」
告白といえどもいろいろな形がある。どこかのテーマパークを貸し切りにして、告白とか、花束を持って告白とか。
けど僕にそんな財力はない。高校生だけど、バイトとかしてない。持ってるのはせいぜい、この身ひとつだけだ。
「いや、待てよ……」
この身ひとつあれば、できることもあるんじゃなかろうか?
それこそぶつかる……当たって砕ける……ダイレクトにアタック……。
「――ハッ!?」
僕は自分がとんでもないことを考えてたことに気づいて、かぶりを振った。それは諸刃の剣というか、下手したら通報案件だからだ。
……でも、どうせなら一矢報いてみたい。驚いたような顔のひとつぐらい見せてほしい。
「よし、やる。僕はやるぞ……!」
◇
「話って、なにかしら?」
放課後、僕は海凪さんを見つけて、一緒に屋上に来てもらった。
彼女はすでにうんざりしたような顔をしている。告白されすぎて、もはや察することぐらい簡単なのだろう。
それでも帰ったりしないのは彼女なりの優しさなのかもしれない。好き。
「…………」
夕日を背にした海凪さんの前に、僕は立った。緊張でガクガクと足が震えてるけど、今回だけは動いてもらわなきゃいけない。
見えない角度でペチペチ叩きつつ、彼女と目を合わせた。
「…………っ」
ごくりと生唾をのんで、僕は覚悟を決める。スタンディングスタートを始める体勢になり、足腰に力を入れる。
そんな様子に小首をかしげている海凪さんに向かって、僕は叫んだ。
「海凪さんっ、好きです――!!」
瞬間、僕は彼女に抱きついた。
むぎゅうっとおっぱいがつぶれる感触とか、腕を回した際の柔らかさとか、温もりとかが伝わってくる。それにすごくいい匂いがする。
彼女をギュッと抱きしめながら、僕は続けた。
「ずっとずっと好きでした! 僕と付き合ってください――っ!」
耳元に寄せていた口を引き戻し、僕は彼女の頬っぺたに口づけた。柔らかく、それでいてすべらかな感触が唇から全身へと広がってくる。
あぁ、なんだこれ……幸せ過ぎる……。
「いっ、いやぁぁぁぁ――っ!!」
「――ぶべらっ!?」
気持ちのいい時間が唐突に終わりを迎えた。
僕の顔面に鋭い痛みが走って、地面へと転がされたのだ。悶絶しながらも見上げると、海凪さんにビンタされたんだと気づいた。
「~~~~っっ!!」
彼女は自分の身体を抱きしめながら、色白な肌を真っ赤に染め上げている。潤んだまなざしで、僕のことを睨みつけてくる。
時間にして三秒とか、そのぐらいだろう。
それから、扉のある方へと走り去っていってしまった。
「……お、終わった。なにもかも」
僕は痛む顔をさすることすらせず、彼女が去っていった扉を見つめることしかできなかった。
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