第6話 憎たらしい男

 学年イチ、いや学園イチと言っても過言ではない美少女。


 それと2人きりで対面しているにも関わらず、俺はゲンナリしている。


「あなた、あなたね、竹本くん……おかげで、ひどい目に遭ったのだけど?」


「ひどい目、とは?」


「トボけないで。あなたのせいで、クラスの男子みんなに……」


「えっ、まさか……レ◯プされたのか?」


「人生で初めて人を殴っても良いかしら?」


「落ち着け、月島」


 俺はどうどう、となだめる。


「あなたがクラスの男子みんなに、私に告白するように仕向けたこと、知っているんだから」


「お前、もしかして、立ち聞きしていたの?」


「うっ、そ、そうよ」


「うわ~、ひくわ~」


「あなたの方が引くわよ! しかも、その……無害な女子にまで、その悪の手を染めて……」


「山崎のことか?」


「ええ、そうよ。本気で好きでもないのに、自分の利用価値の基準だけで告白するとか……最低よ」


「まあ、そうかもな。けど、あの女は……思った以上に、おもしろい」


「クズめ。あの子のためにも、関わらないであげたら?」


「何でお前にそこまで言われる筋合いがあるんだ?」


「いえ、それは……」


「お前、俺の彼女だっけ?」


「違います」


「否定が早いな……だったら、口出しする権利がないだろ?」


「そうかもしれないけど……」


「だから、俺が山崎とお遊びで付き合って、セ◯レになったとしても……お前には関係なくね?」


「…………」


「念のために聞くけど、お前はもしかして、俺のことが好き……」


「違います」


「早いな」


 俺はため息をこぼす。


「だったら、俺の女関係にいちいち口を出すな」


「別に、口出しするつもりなんて……」


「もし、あまりにもしつこいようだと……オカンて呼ぶぞ」


「ハァ~? 私の息子はもっとマジメで良い子に育ちます~!」


「ほう、もうそこまで将来設計が出来ているのか。さすがだな」


「うっ……うるさいわね」


 月島はモジモジとする。


「……そういえば、あなた。朝宮さんにも、ちょっかい出しているんでしょ?」


「いや、むしろ、あいつから来ているんだが?」


「しかも、その……カ、カラダで稼げばって……言ったんでしょ?」


「ああ、あいつは可愛くて巨乳だし、性格も明るくて良い奴だから、お前と違って」


「はぁ?」


「ああ、巨乳は共通か。てか、お前の方が大きいだろ?」


「変態」


「自分の持てる武器は使うべきだ。だから、俺はあくまでも1つの可能性として、カラダを使った商売……グラドルを提案しただけだ」


「…………」


「何だよ、その目は?」


「……私には、言わないの?」


「何を?」


「いえ、その……朝宮さんと、同じくらい……なのに……カ、カラダで稼げって……言わないのかなって」


「ん? だって、お前は頭が良いじゃん。きっと、良い大学に行くだろうし。知性路線で行った方が良いだろ」


「知性路線……」


「アナウンサーとかどうだ? 最近は、特にビジュアル重視だろうし」


「それは……」


「しかも、巨乳が注目されている」


「はっ?」


「清楚で高潔なイメージのアナウンサーが、実は巨乳ってのは、だいぶ興奮する。まあ、最近は盛り乳しているかしらんが、巨乳のアナウンサーが増えて、ちょっと食傷気味だが……大衆というのは単純だから。結局、美味なる物は延々と食すだろうし……」


「……つまり、私はお茶の間の食い物になるのがお似合いってこと?」


「だから、さっきも言ったように、自分の武器はちゃんと使って……」


 バチン!


「いたっ」


 俺はビンタされた頬を押さえる。


 月島は、吐息を荒げ、少し涙目になっていた。


「……最低、大嫌い、消えてちょうだい」


 くるっと踵を返した月島は、スタスタと歩き去って行く。


「あ、月島」


「……何ですか?」


「そういえば、お前への告白提案代として、男子から一律1,000円を集めて、そこそこ額が入ったんだけど」


「クズめ」


「今日の放課後、ヒマか?」


「えっ?」


「お詫びに、何かご馳走してやるよ」


「お、お詫び……ご馳走?」


 月島は、半分だけこちらに振り向いた状態で、何かモゴモゴとしている。


「……お、お断りします」


「え~、もったいな。タダメシが食えるのに」


「……きょ、今日のところは」


「んっ?」


「そ、その、せっかくだから……休日に改めてとか……どうかしら?」


「えっ? ああ……お前、今週末とかヒマなの?」


「え、ええ、まあ……たまたまね」


「ふぅ~ん……じゃあ、そうしようか」


「う、うん……」


「ていうか、もう1年くらいの付き合いなのに、お前と休日に遊ぶなんて、初めてだな」


「そ、そうね」


「んじゃ、とりあえず、楽しみにしているぜ」


 俺は適当に手を振って、月島と逆方向に歩いて行く。


「ちょっと、もうすぐ授業よ」


「トイレ。お前にビンタされたせいで、漏れそうなんだ」


「ご、ごめんなさい……って、元はあなたのせいでしょ!」


「はいはい。それよりも、優等生さまは早くいけよ」


 俺はシッシッと追い払う。


「本当に憎たらしい男ね」


「ありがとう、褒め言葉だよ」


 そう言うと、月島は唇を噛み締めて、ツンとそっぽを向く。


 そのまま、今度こそ、教室に戻って行った。


 その後ろ姿を見ていた俺は……


「……あいつ、ケツも良いなぁ」


 と、ゲスなことを考えてしまう。




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