1976年の華奢な彼女 🎸

上月くるを

1976年の華奢な彼女 🎸





 だれかこの軽薄男の口を止めてよ! いますぐに。"(-""-)"

 YouTubeから流出する憐みと蔑みの口が疎ましい。(*ノωノ)


 1976年のラジオ番組の録画だというから、まだバブルには入っていないころ。

 東海のラジオ局に出演した、当時は一部のファンにしか知られていなかった彼女。


 派手な柄のセーターをプロデューサー巻きにしたチャラい男性アナが目に浮かぶ。

 生来、身体が弱く、したがって声も小さいゲストに苛立つ女性アナも同じ穴の狢。


 高校を中退してこんな暗い歌ばかり創っている、その訳を聞かせてください。💦 

 ってあんた、無礼だろうが、その踏みこんだ質問! あきらかに上から目線だし。


 カマキリに苛められるウスバカゲロウみたいに痛々しくて、聞いてられないよ~。

 と思っていたら、プツン、いきなり再生終了。もっとひどいのか、この後は……。




      🦗




 たまたま健康に恵まれた人は、病気の人に思いをいたす心を持ち合わせていない。

 家族や親友であっても、ふいにおそう疼痛に怯える気持ち、本当には分からない。


 極度の偏頭痛に苦しむ友だちに「わたし、どうすればいい?」と訊いて「ごめん、放っておいてもらうのがいちばん楽なの。本当にごめんね」と言われたことがある。


 辛い体調で長時間の移動に耐え、地方のラジオ局で歌いながら弾いたうえ、非礼なインタビューにも堪えねばならなかったシンガーソングライターの華奢な彼女……。




      🌹




 朝から沈んだ気持ちでいつものカフェへ車を走らせると、駐車場の前の植栽に淡い紅色の薔薇が一輪、初々しい蕾をぽちっと結んでいた。冬が来るのに、何と健気な。


 店の扉を押す前に、枯れた花だらけのところに生まれ出た新しい命に話しかける。

 こんな季節に咲こうと一所懸命なんだね、オバサン、いつも応援しているよ。💚


 しゃがみこんだ背中を温めてくれる冬日ざし、少しでも薔薇の蕾に当ててあげて。

 有名な繁華街のイルミネーションの道を帰る、1976年の華奢な彼女にも。🌃

 




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1976年の華奢な彼女 🎸 上月くるを @kurutan

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