第3話 修羅場

───バシン!


丁度小気味良い音が聞こえてくる。

察しはついていた。

取り敢えず覗くと、案の定ヒロがゆりに叩かれていた。


「……え? 」


まだ何も知らないのか、叩かれた左頬を抑えてビックリしている。


「……私、酒井くんが斎藤さんと付き合ってるなんて知らなかった。斎藤さんが怒るのは間違ってないけど、私が叩かれるのはおかしいよ。だから酒井くんに返したよ」


間違ってはいない、が。


「ちょっと! あんたが悪いのになんでヒロ叩くのよ! 」


タイミング悪く、修羅場と化した。

うん、予想はしていたよ。

お互いヒロの彼女だからヒロの所に泣きつきに行くと思うだろうし。


「知らないで受けた私も悪いかもしれないけど、言わなかった酒井くんがいちばん悪い」

「無知が罪でしょ! ふざけないで! 」


噛み合っていないし、斎藤さんの語彙は微妙に間違っている。

ビックリしてゆりの発言の時には固まっていたヒロも、斎藤さんの登場とゆりの腫れた左頬で事態を理解し、青ざめている。


「……お、俺は沙代と……別れたかったけど言っても……別れてくれないだろうから……」


しどろもどろで発端を口にする。

あの性格じゃ聞かないだろうが、言っていれば事態は全く違っていた。


「おい、拓馬! 久留米さんのほっぺた赤いじゃん! なんで怒らねぇんだよ? 」

「は? 怒るのは彼氏の仕事であって幼馴染がすることじゃない」

「いや、おまえ何言ってんの? 」


友人の佐々木ささき斗真とうまが呆れている。

ヤツが言いたいのは、現状二股している為にゆりの為にヒロが斎藤さんを怒れないから代わりに怒るやつが必要だと。

いちばん身近な俺以外適任はいないと。


「ゆりはそれを望まないし、俺もそれが必要だとは思わない」

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