文化

「母親」の亡霊——「サマーゴースト」の精神分析的「余白

はじめに

 深夜2時の河原町通り沿いを走っていると、イチョウの黄色くなった葉が側道を埋め尽くしているのが目に入ってくる。その光景を見ながら、秋はおろか、夏さえもが既に遠く過去の光景のように思えてしまう。とはいえ、まだ数カ月しか経っていない今年の夏をまるで「過去の思い出」と言い切るのは、私にとって違和感でしかない。今年の夏は紛れもない過去ではあるのだが、まだ完全な過去ではない。そんな繊細な距離感とともに、私は夏を想起する。


 すでに季節は冬になっているはずなのに、私の心情はずっと夏だった。先日「LOCUST」にて公開されたカゲプロ論の骨格が形成されたのは、ちょうど8月ごろだ。そこから12月の最終公開に向けての日々は、本年度で大学を修了する予定の自分にとって、文字通り「今年の夏休み」である。そんな夏が終わり、じきに秋も終わろうとしているなか、私は「夏」という言葉をタイトルに掲げた一本の短編映画を見た。loundraw監督によるアニメーション映画「サマーゴーズト」だ。もはや2分台ですら「短い」といわれなくなってきているボカロの楽曲をはじめ、動画投稿サイトの短いインスタント動画に慣れてしまった自分にとってはせいぜい20~30分程度でも「長い」と感じることがある。いつのまにか2時間超の長い映画を見ることができないほど堕落した自分にとって、わずか40分というこの短い上映時間はとても親切に思えた。「短いし、だったら見に行くか…。」そう思い、私は某日夕方18時ごろ、自転車に乗り近所の映画館に向かったのであった。

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