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 基地で開かれた慰問コンサートでは、私は中尉とその仲間たちのために、心を込めて歌うことができました。彼らの誰ひとりとして欠けることなく、無事に祖国へ帰ってきて欲しいと、心の底から思えるようになったのは中尉のおかげです。

 私の歌を聴いてくれた兵士の中には、感激して涙を流している人もたくさんいました。中尉も瞳を潤ませて、「ありがとう」と言って握手してくれました。

 私も、自分の歌がこれほど人の心を動かしたさまを見たことがありませんでしたので、中尉の温かい手を握ったときには思わず涙が出ました。

 前線基地には四日間滞在する予定でした。帰途にも、ダーニアン小隊による護衛が付くはずでした。

 ところが滞在二日目の深夜、前線基地は敵方からの急襲を受けました。

 私は基地内の、階級が高い軍人のための個室を借りて泊まっていましたが、恐ろしい轟音と不快な揺れで目を覚ましました。

 中尉はすぐに私のもとへ駆けつけてくれました。

「あなたを連れて港へ向かうよう命令がありました。さあ早く!」

 私はダーニアン小隊に連れられて、慌ただしく祖国へ引き返すことになりました。行きは護衛の車が私の乗った車を挟んで前後についてくれていましたが、帰りは一台だけです。とても心細い気分でした。

 ――安全だと社長は言っていたのに、話が違うじゃないか。

 私の恐怖は、だんだん怒りへと変わっていきました。そうして一度は忘れていたはずの高慢な歌手、エディ・アースがむくむくと頭をもたげてきたのです。

「危険な目に遭わせて、本当に申し訳ない」

 彼自身は悪くないにもかかわらず、中尉は私に謝罪しました。私はむっつりと黙ってそれを無視してしまいました。

 私は誰とも口を聞きませんでした。私のせいで、車内は重苦しい沈黙に包まれていました。みな疲れているのに、誰も眠れずに神経を尖らせていました。

 夜が明ける頃、車は野原に出ました。ちょうど行きがけに車が故障したあたりです。

「危ない!」

 中尉が叫び、突然私を押し倒しました。

 その肩越しに、私は閃光の筋がいくつも車を貫くのを見ました。乾いた銃声が立て続けに鳴っていました。敵襲です。

 戦闘中、私はただ身を縮めてぶるぶる震えているだけでした。それに比べて、中隊の面々は何と勇敢だったことか! 彼らは素早く応戦し、私を守ってくれました。

「もう大丈夫ですよ」

 中尉の声を聞いて、私は心底ほっとしました。

 ところが、私が顔を上げると、中尉の脇腹が真っ赤に染まっていたのです。

「なあに、大したことはありませんよ」

 中尉は気丈に微笑みましたが、見るからに軽傷ではありませんでした。

 中尉の他にも、リエールという名の若い一等兵が一人負傷していました。肩の辺りを撃たれていて、中尉と同じくらい重傷に見えました。彼は痛い痛いと言ってひどく泣いていました。私はその声を聞かぬように耳を塞ぎました。

 さらに悪いことに、四方からの銃撃で車の給水ポンプに穴が空いてしまいました。蒸気で動く車ですから、水を失っては進めません。動力を失った車は、ここで足止めされることになってしまったのです。

「負傷者が出ています。下手に動くより、ここで助けを待つのが賢明でしょう」

 副隊長の下士官が、中尉の代わりに決定を下しました。

 ふたりの負傷者が手当をされている間、やはり私は何もできずに苛々しているだけでした。

「ご迷惑をおかけして、面目ないです」

 中尉は痛みに顔を歪めながらも、再び私に謝罪しました。

 迷惑だなんてとんでもないことでした。彼は私をかばったために撃たれたのです。内心私はそれに気づいていながら、認めることができませんでした。

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