第38話

「なんなんすか、アンタの息子……」


医務室にて、ウカノが処置をされてる間。

ライドとアエリカは、医務室前の通路にある椅子に座り、処置が終わるのを待っていた。


「んー、なんなんだろうねぇ?」


「あの人、確かに強いし基本なんでもできますけど。

あんな生き方してたら、早々に死にますよ?」


「……そうなんだよねぇ。

まだ幼い家族の未来が見たいっていいながら、なんか生き急いでるというか焦ってるんだよねぇ。

まぁ、それが若さなんだろうけど」


「……なんで、助けてやらないんですか??

世界のこととか、貴方達やウカノさんの事情は聞きました。

全部理解出来てるとはおもってない。

でも、これだけは言える。

なんで、ウカノさんと一緒に敵を倒そうとしないんですか??

なんでもウカノさん一人に任せてる。

あの人、大人ぶってはいるけど大人じゃないでしょ」


「大人じゃない……か。そうかもねぇ。

うん。確かにその通りだ。

彼は大人の皮を被らされた子供だよ。

彼はね、世界がこんなことになる前から大人と同列に扱われてきたんだ。

年子の弟が生まれてから今まで、ずっとね。

先に生まれると、どうしても後に生まれた子と比べられる。

で、極端な話、もう大人なんだから、お兄ちゃんなんだからって言われて扱われて育つ。

だから結局、早く大人にならざるをえない。

大人の皮を生まれて数年で被らざるをえなかった。

そして、弟や妹が多いと、仮にその子たちが喧嘩したりして怪我をするとなんで見てないんだって、お兄ちゃんである彼が厳しく叱責される。

親からの責任転嫁は常習化してたと思うよ。

ましてや彼の実家は、昔ながらの家だったみたいだし。

責任は押し付けられ、でも怪我をしても唾をつけておけば治ると放って置かれてきた。

それを十数年経験したわけだ。

まぁ、そんな扱いが普通になってたから、今回みたいなことになっちゃうんだけどさ。

死にそうな大怪我しても、様子見しようってね。

基本、怪我をしない子だけど、それでもそれは絶対じゃない。

極々たまに熱をだしたりしても、軽い怪我をしても親は忙しくて彼を放っておいたって話だ。

まぁ、先祖返りの体質で怪我や病気をしにくかったってのもあるんだろうけど」


「…………」


「それとクリーチャー退治についてだけど。

……俺たちが出ていくと、世界が壊れるから。

俺たちはここ、いま、この世界にいて暴れるならその心配はない。

でも、君たちの世界はダメなんだ。

君たちの世界だけじゃない。

ほかの世界も、俺達が手を出して暴れたら今度は本当に壊れかねない。

そして、俺たちが壊した世界は元に戻らないんだ」


「…………」


「それはそうと、君はなんでウカノと一緒に暮らしてるの??

いや、責めてるんじゃなくて。

君の場合、コバンザメタイプって言えばそうなんだけどさぁ。

なんていうか、強い者にただ巻かれに行くタイプのはずなのに、そうじゃないでしょ?

なんで、一緒にいるの??

今回だって、逃げ出せたはずだよ。

俺は君を無理やりここに連れてきたつもりはない。

君は君の意思でここにきた。

何で??」


「いや、あの人危なっかしいんですもん!!

たしかに指名手配された盗賊は倒せるくらい強いですよ。

でも、あの人放っておくてその辺で倒れて死にそうなんですもん。

なんていうか、嫌じゃないですかそんなの」


ライドの返答に、アエリカは嬉しそうに笑った。

笑いながら、


「いい子だねぇ、君は」


なんて言う。

続けて、


「こりゃ、武器の開発を急いだ方が良さそうだ」


そんな事を口にした。

直後、ウカノが医務室から出てきた。

入れ替わりに、アエリカが医務室へ入る。

すれ違いざま、ウカノへ、


「とりあえず、学校には休むことを連絡しておいたから。

今日はのんびり過ごしなさい」


そう言ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る