滅びと再生のサイクルを巡る物語

滅びゆく古い森から使者として送り出された老人、大荒野のそこかしこに点在する廃墟、人々が奴隷として売られていく町、そこで蔓延する流行り病…。
荒廃しゆるやかに滅びゆくかのように描かれる世界で、ひときわ死を身近に暮らす墓守の少年少女たちが希望となり、いのちある森を受け継いでいく、滅びと再生のサイクルを厳しくも丁寧に描き出す、そんな物語だったように思います。

細かい部分を見ていけば、例えばテオとセラナの関係を明確にボーイミーツガール的な淡い関係に描き出したり、シベールとの対立ももう少し勇ましい呪術バトル的に派手に描写したうえで子供たちの逃避行をもっとサスペンスフルに盛り立てる、等などもう少し娯楽色の強い作劇に寄せていく余地はあったようにも思います。
しかしながら、そもそもが流行りのテンプレかどうか以前にRPGやアニメ・コミックをルーツとするようないわゆるライトノベル的な剣と魔法のファンタジーとは根本的に一線を画する物語で、細やかに描写を重ねることでオンリーワンの独自な物語世界を練り上げていく、本当の意味でのハイファンタジー、本格ファンタジーと呼べる一作であると感じました。
紡がれている文章の一言一句がまさにこの物語世界を精緻に構築するためにあるようで、むしろ小手先でエンタメに目配せするような事をして作品の空気感が損われてしまう方が勿体ないのではという風に思いました。

結果的に、読み手の側もある種の心構えを持って読み解いていく必要があるような、やや取っ付きにくさのある作品になってしまっているのは否めませんが、それも含めて大変に濃密な読書体験の得られる作品だったと思います。
こういう作品こそ紙で読みたい、と思える良作でした。

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