第5話 行き倒れ2

 シルフィーとの旅が始まった。

 今のシルフィーは、〈変化〉の術で耳の形を変形させて、黒目黒髪の外見となる。

 ちなみに、説明すると、認識阻害の術だ。物理的に変化はさせていない。何時でも戻れる。


 私は、どこぞのマッドサイエンティストみたいに、翼を得るために化物の外見にしたりはしない。

 三面八臂となった者は、この術がないと戦場以外で生きて行けないとも言っていたな。

 私は、そこまで外道ではない。しかも、救う方だ。


 シルフィーは、まだ傷が癒えないので、馬に乗せる。

 私は、徒歩だ。


「ねえ、ヘーキチ……」


 シルフィーを見る。


「どうした、傷口が開いたか? 腹が減ったか? それとも、寒いか?」


「その……、聞いておかなければならないことがあって。わたしの毒と呪いはどうしたの?」


 そのことか。


「私の術で呪符に封印した。心配しなくてもいい。私の〈収納〉に一生封印しておこう」


「何ですって?」


 む? 問題があったのか?


「もしかして、望んで受けていたのか? ……マゾ?」


「そんな訳ないでしょう! わたしを奴隷にしようとして来た奴がいて、不意打ちで受けたのよ。普通はね、〈解呪〉すると術者に跳ね返るモノだから……。気になっただけ!」


 ほう……。下界の常識が知れたな。

 状態異常を〈解呪〉すると、跳ね返るのか。リスクがある術だ。未熟としか言わざるを得ない。


「シルフィーが望むなら、返してみるか? 恨みがあるのだろう?」


 シルフィーが、ため息を吐いた。


「……いいわ。死んだことにさせて」


 ふむ。恨みを晴らそうとはしないのだな。

 優しいの性格みたいだ。だが、ヒステリーなのが玉に瑕だ。


「それと、わたしの服は?」


「ああ、〈収納〉に入れてある」


 服を取り出すが、穴だらけで血まみれだった。


「ああ……。高かったのにな~。それに異世界の物質だから高く売れたかもしれないのに……」


 今、シルフィーは私の予備の服を着ている。正直、ぶかぶかだ。


「糸にするか?」


「いいわ。そのままにしておいて。それにしても、ヘーキチは、〈ストレージ〉持ちなんだね。そっか~、異世界人にもいるんだな~」


 すとれーじ? 術の〈収納〉のことか?


「わたしも持っているのよ。宝石とか隠していて助かったわ」


 そう言うと、シルフィーが、空間を歪ませて指輪を出した。

 私の〈収納〉とは、似て異なる術だな。力の根源が分からない。


「これが、異世界人か……。生物として違うのだな」





 日が暮れた。独りであれば、休む必要もないのだが、今は馬とシルフィーがいる。特に馬だ。休ませてやらないと、潰れてしまうだろう。

 シルフィーも今だ傷が癒えたとは言えない状況だ。

 あれ? そうなると、無理して移動していた意味がなくないか?

 自分の中の矛盾に疑問を抱きながら、野営の準備をしている時だった。


「むっ? なにか来る!」


 私の〈索敵〉になにかが引っかかった。


「どうしたの?」


 水を汲んで来たシルフィーが反応した。


「西からなにかが、近づいている。これは……、土遁の術だな。仙人の可能性がある。しかし、何で今更……」


 私が、追われる理由などない……、と思う。崑崙山とは縁を切ったし、金鰲島も誘っては来なかった。陳桐の口を割らせる前に倒してしまったのが悔やまれる。


 考えている間にも、西から近づいて来ていた。

 このスピードでは、馬とシルフィーを担いで逃げることは可能だろうが、追いかけて来られると後々面倒だ。

 最悪……、いや確実に戦闘だ。後顧の憂いを断つ。

 私は、戦闘態勢に入った。ファイティングポーズをとる。

 数秒後、その人物が現れた。フワッと着地を行う。


「警戒せんで良いぞ。儂は、そちらの娘に用がある」


 現れた仙人からの一言だった。服装や霊力から、間違いなく仙人だ。

 だか、聞く理由もない。

 私は、ハイキックを見舞った。


 ――ブオン


「うお!? なにをするんじゃ!?」


 ちっ、躱しやがったか。なかなかにできるじゃないか。


「問答無用! 仙人ならは、まず力を示せ!」


「待て、儂は戦闘できんの……」


 相手の話を聞く理由がなかった。

 私の拳が、仙人の顔面にめり込んで、その口が止まった。





 今は、捕縛した仙人と火を囲んでいる。

 シルフィーは、私の隣に座っている。怯える様に私の袖を掴んで離さない。

 馬は、草を食んでいる。


「さあ、聞こうか……」


「話を聞く前に攻撃して来て、それか?」


 私は、仙人界と縁を切ったのだ。

 関わる気などない。

 この仙人は、分っているのだろうか? 私がその気なら、倒されていたというのに。


「話がないのであれば、お引き取り願おう。もしくは、ここで功夫クンフーを失うか? それが目的だというのであれば、介錯してやろう」


 仙人は、黙ってしまった。

 私の不快感も、伝わったようだ。


「儂は、月合仙翁……。人の縁を司る仙人じゃ。崑崙山や金鰲島には、度々出向いておる」


 む? 西方の賢人だったかな? 崑崙山とは関係ないのか?


「西方の賢人だったのか。そうと言えば、話を聞いたのに……」


「うおい!」


 爺が、そうキレるな。

 シルフィーが怯えているぞ。

 それと、馬は、草を食んでいる。





 月合仙翁……西方の賢人の一人。鄧蝉玉と竜吉公主の結婚を纏めた仙人。

 土遁の術……移動系の術。遅いかもしれない。

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