第7話 迷い

 結局のところ、高レベル冒険者パーティーが、救援に来てくれた。

 なんでも、ダンジョン下層で異変があったらしい。

 冒険者ギルドから、撤退命令が出たとのこと。

 俺達以外にも、数組のパーティーが戻って来ないので、彼らが派遣されたらしい。

 ちなみに、無料とのことだ。


 ダンジョン出口まで、送って貰う。


「ありがとうございました。助かりました」


 頭を下げる。本当に感謝しかない。


「一応聞くけど、パーティー名は? 二人じゃないんだよね?」


 ハンナが答える。


「パーティー名は、『銀狼の爪』になります。リーダーは、ゲイリーです」


「……もしかして、置き去りにされた?」


 後で絡まれても面倒だ。事実を伝えよう。


「いえ、俺が殿しんがりを買って出ました。ハンナが動けなかったので……」


「ふむ……。まあ、事情聴取の対象だな。覚えておくよ。私達は、まだ迷宮ダンジョンに潜る。君達は、暫く迷宮ダンジョンには入らないでくれ」


「「分かりました。ありがとうございました」」


 二人で頭を下げる。

 そして、俺達が生き残ったことが、確定した瞬間でもあった。

 高レベル冒険者パーティーは、また迷宮ダンジョンに戻って行った。凄い体力だな。それを見送る。

 それと……。


「そんで、これどうするの?」


 パンパンに膨らんだ、俺の背負っていたカバンを見る。


「うふふ。そんじゃ査定に行こうか」





 冒険者ギルドで、ゲイリーと鉢合わせをした。

 素材の要求をされるかもと思ったけど、なにも言って来なかった。これは意外だな。

 まあ、パーティーは二人共脱退したのだし、絡んでも来ないか。

 それよりも……だ。


「凄いじゃないですが、ハンナさん! 下層の魔物の素材を持ち帰るなんて!」


 俺の倒した魔物は、高評価だった。特にフロアボスクラスの魔物も混じっていたらしい。

 俺達は、とんでもない額を明示された。俺の年収の何十倍だよ……。

 一部だけ受け取り、残りはギルドに預ける。

 ギルド内もザワザワし始めた……。

 銀狼の爪は、睨んでもいる。


 俺は視線に耐えられなかったので、ハンナを連れて冒険者ギルドを後にした。


「これは、目を付けられたかな?」


「うん? 大丈夫だよ? 街では冒険者同士の喧嘩でさえ禁止されているからね。でも……、今日は奢った方が良かったかな~」


 ハンナは、ホクホク顔だ。

 職業、冒険者……。心臓に悪いな。迷宮ダンジョンでも、街中ででもだ。

 それと、本当に銀狼の爪は、手を出して来ないんだろうか?





 宿屋で二部屋借りて、一晩休んだ。

 暫くは、活動しなくてもいいはずだ。それだけの資金がある。ここが、物価の高い都会でもだ。

 それよりも、ハンナの考えを聞きたかった。

 朝となり、朝食を一緒に頂く。

 ここで聞いてみるか。まず、状況確認からだな。


「まず、怪我は大丈夫?」


「うん。"神様の祝福"の効果があるからね。私は数日休めば、全快するよ?」


 この言葉を聞いて、安心してしまった。


「それじゃあ、暫く休んでから、当分の間は二人で活動しようね。資金はあるんだし、なにか揃えよう。消耗品……、回復薬が必要なんだっけ?」


「……え?」


 ハンナの顔が赤くなる。そんなに意外な提案だったのかな?

 俺は、とにかく疲れていたので、今日はそこで分かれた。昨日の疲れが抜けていない。体力のなさと言うか、フィジカルの低さが、俺の致命的な欠点だな。使えるスキルであっても、今の俺に連戦はできない。


「スキルが、ハンナと逆なんだよな。ハンナの職業は、フィジカル寄りだし……」


 自分の部屋に移動して、ベッドで横になる。


「俺のスキル……。使い方かもしれないな。冒険者でもやっていけそうだ。だけど、命がいくつあっても足りない。昨日は幸運が重なっただけだ。どうにかして、ハンナを連れ戻さないと……」


 幼馴染を死なせたくなかった。

 しかも、満身創痍になっていたし。"神様の祝福"の効果があると言っても、十分な回復期間と準備がなければ、意味がない。

 それに薬品代で、赤字になるかもしれない。


「ハンナは、冒険者に向いていないよな。衛兵がいいとこだ」


 こんなことをハンナに言っても、聞いてくれないと思う。

 せめて、経験を積んで、武器防具が揃えば、活躍もできるのだろうけど……。

 後は、守護者ガーディアンのレベルかな……。ハンナは成長の可能性が残されている。なにが眠っているかは、誰も分からない。


「そういえば、アスランは元気かな……」


 狩人への師事だったけど、危険がないとは言い切れない。野生生物を狩る職業なんだ。

 ハンナみたいに無理をしていなければいいのだけど。


「確認に行きたいけど、まず自分の足元を固めないとな……。資金は得たのだし、シクラサ村に戻って郊外に畑と家を買うのが現実的だよな。ハンナには、村の治安を守って貰えればいいし。いや、冒険者の案内をして貰ってもいい。村の近くには、迷宮ダンジョンがあるんだし。ガイドだな」


 分かっている……。俺は農民になるのが一番堅実だと。ハンナも……安全に生きて貰いたい。こんなのは、俺の驕りであり、希望でしかない。ハンナに言ったら、絶縁されてしまうかもしれない。

 だけど……。俺は、脇差と本差に視線を移した。


「自分の可能性……。"神様の祝福"に依存しない生き方……か」


 俺は、静かに瞼を閉じた。

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