Chapter.12 打診


私はその後一時間程してひどい頭痛で目を覚ました。上履きを履きカーテンを開けると富田先生と保健医の葉梨先生がいた。そして富田先生が言った。


『一時間後に児童相談所とケースワーカーが来る。俺からも粗方の話はしたけど辛いかもしれないがもう一度その人達に俺にしてくれた話をしてくれないか?後お母さんを呼ぶ事は絶対しないからお父さんを呼ぶことはいいか?』


そう私に打診した。あぁやっぱり私の家は普通じゃないんだ、おかしいんだ。と自らの口から話した事が今のこの状況なのにこの時になっても受け入れられていなかった。どうして私なんだろう。どうして。


『うん』


先生は何故か私にありがとう、と言った。お礼を言うのは私の方だったろうに。でもこれで私は解放されるんだろうか。残された妹の実紗と弟の拓也はどうなるんだろう。そして父は何て言うんだろう。母は一体どうするんだろう。


色んな事を一瞬で考えた。でもまとまらなかった。この恐怖政治から抜け出す事など今はまだ先の事だと若しくは一生付き纏っていくと覚悟していたからだ。


なんでか 左腕はシクシク痛んだ。



程なくしてケースワーカー達が到着し私達は校長室に呼ばれる。女性2人だった。校長室などくる機会がなかった私はその空気感に少し萎縮したが富田先生はそんな私を察してか『頑張ろう、一緒に。』そう言って励ましてくれた。


そして生い立ちの話をゆっくりと述べる。たった一言を間違えれば意識が朦朧とするほど殴られる様な生活を送っていた私は順序立てて話す事が苦手で上手く話せているかが気になってしまうのと急に離人症状が出てしまうのもあって詰まってしまう事も多々あったがケースワーカーと児童相談所の方はうん、うん…とメモを取りながら話を聞いてくれた。そして現在の状況、出ている症状があるかなど事細やかに聞かれた。初めて本当の意味で自分の事を打ち明けた。大体の話が終わった頃に


『…お父さんは後どれくらいで到着されます?』


児童相談所の職員の方が神妙な顔つきで富田先生に問う。


『一応聞いた時間だともうすぐかと思います。』


あ、本当にお父さん来るんだ。率直にそう思った。授業参観も体育祭も一度も来た事がない父が学校に来る。それだけ重大な事なんだ。この時改めて実感する。それと同時に目を伏せたくなるような気持ちになった。父が何を思い今向かっていてなんて言われるんだろう。私が耐えれば 黙っていればこんな事にはならなかったのに、と申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


しばらくの沈黙の後、児童相談所の方が私に問う。


『彩花ちゃんはどうしたいって思う?』


『……。』


どうしたいなんて考えた事がなかったから分からなかった。どうすべきなのか、とどうしたいのかはまた別だとも思った。現実的な話をしているのか、理想の話をしているのか。そもそも理想だったらどうなりたいんだ?現実的だったら?


『…分かんないです。どうしたいのかは…』


丁度それを口にした時ノック音がし父が入ってきた。そして私の顔を見て少し眉を顰めながら



『どうした…?』



と言い、私の頭を優しく撫でた。



その瞬間何をどっから話していいのか分からずに涙が出た。安堵だったのか。悲しかったのか。情けなかったのか。あの時何故涙が溢れてしまったのか?その意味は何だったのか今となっても分からないのだ。



『じゃあ彩花ちゃん、一回私達でお父さんとお話するから

ちょっと待っててくれるかな?』


そう言われ私と富田先生は保健室へ戻った。何か色々話した気もするが父親が気がかりであまり頭に入ってこなかった。私はどうなるんだろうか。


救われたいと願いながらも救いとは何なのか。

そんな事をずっと考えていた。




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