図書館の氷姫

花矢倉

序 氷姫

 麗しき王国ヘルリッヒの宝石、ラテーヌの都よ

 

 と、詠われる都、ラテーヌ。



 春の花々が芽吹く頃、王宮前には人々が集まっていた。これから春の式典が行われ、長い冬があけた事を祝う祭事が行われる。


 普段よりも人が多いのには理由があった。例年、式典では王立大学の首席卒業者が表彰され勲章をもらう。しかし今年は王国が始まって以来初めての、女が首席卒業だという。国1番の優れた頭脳の娘を見ようと、野次馬たちが広場に集まっていた。


「リアリナ・アンファング!」


 名を呼ばれ広場の中央に進み出たのは、小柄な娘。長い銀に近い髪色が陽の光を反射させる。遠目からでも、綺麗な顔立ちとわかる。ところが、奇妙なことにその娘は雨用のコートを羽織り、手には傘を持っていた。空は晴天。チグハグな出立ちに、衆人はざわつく。それ以外は滞りなく式典が進み、高官から勲章が授与される。


 その時、暗雲が突如立ち込め、陽の光を遮った。そして天から降り注いだのは…


「雹だ!!」


 氷のつぶてが人々の頭上に降り注ぐ。王の近習たち、貴族や役人たちも右往左往する。その混乱の中、ただ一人フードを被り傘をさした娘だけが、広場の真ん中に残っていた。


 ただ一人、雹が降るのを知っていた娘。表情一つ変えず、悠然と佇んでいる。


 式典の出来事は都中の噂になり、いつしかその娘のことを『氷姫』と呼ぶようになった。

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