32
――スキヤキ率いる調査隊とディスケ·ガウデーレの戦いは、さらに激しさを増していた。
まだ死人が出ていないのがおかしいくらいで、すでにかなりの時間を戦い続けているというのに、どちらの人間も動きが鈍ることなく暴れている。
その乱戦の中、突然スキヤキが味方と敵両方に向かって叫んだ。
「全員今すぐこの場から離れろッ!」
老人の声に、調査隊のメンバーたちはすぐに従おうと動き出したが、当然ディスケ·ガウデーレの面々は逃げ出そうとはしなかった。
この場から離れろという敵のボスの指示に、自分たちが入っているとは思ってもいない。
刃が緩やかなS字形を描くサーベル――ヤタガンを掲げて、現在この場を仕切っていたソドが、スキヤキに声あげ返すように言う。
「敵は敗走を始めたぞ! 我々ディスケ·ガウデーレの勝利だ!」
ソドが味方に向かって鬨の声を上げると、彼らや調査隊のメンバーがいた遺跡内の広がった空間に、大勢の人影が現れた。
干からびた人間や動物の群れだ。
この遺跡に保管されていたミイラか何かが、大群となってそこら中から出てくる。
「な、なんだこいつらは……?」
ソドは突然現れた化け物たちに面を喰らっていると、彼の仲間たちがミイラに襲われ始めた。
そのあまりの数と、現実にはあり得ない化け物の出現で、ディスケ·ガウデーレの面々は完全に浮足立ってしまっていた。
不安や恐れは人間から冷静さを奪う。
今のソドたちは、とてもじゃないが普段の力を発揮できず、ただ化け物たちに怯えているだけだった。
「うわぁぁぁッ!?」
「シルドッ!?」
ミイラに囲まれた黒人の女シルドが今にも大量のミイラに噛みつかれそうになったとき、ソドは彼女を助けようと駆けた。
だが、彼女とは距離があり過ぎて間に合わない。
このまま食い殺されるかと思われたが、そこへ飛び込んできた日本人の女――ユリが棍を振り回してミイラたちを吹き飛ばし、彼女を救った。
ユリは倒れたシルドに手を掴んで強引に立たせると、ソドたちディスケ·ガウデーレの面々に向かって叫ぶ。
「力を合わせないとみんなやられちゃうよッ! 手を貸して! みんなで協力して戦うんだッ!」
「ふざけるな! オレたちは世界最強の暗殺組織ディスケ·ガウデーレだ! 敵の力など借りるかッ!」
ソドがユリのことを拒否したが、ミイラたちはさらにその場に現れてもはや絶体絶命。
彼の味方も次々に噛みつかれ、その光景を見てシルドは恐怖で顔が真っ青になっていた。
ソドが表情を歪めていると、この場を去ろうとしていたスキヤキとツナミ――調査隊のメンバーらが戻ってくる。
「ユリの言う通りだ。全員が生き残るにはお前たちの力がいる。今は敵だ味方だなどどと言っている場合ではないぞ」
スキヤキがソドに声をかけると、彼は呻きながらもその提案を受け入れた。
ディスケ·ガウデーレの面々に指示を出し、先ほどまで殺し合っていた調査隊のメンバーたちと共に、化け物らと戦い始める。
「ひぃぃぃッ! 来るな来るなッ! あたしなんて食べてもおいしくないよッ!」
シルドを救ったユリは、彼女を庇いながらも追い詰められていた。
そこへツナミが突進し、直突きから逆打ちを駒のように回転しながら放ちミイラらを一掃、彼女たちの逃げる道を作る。
「ツナミさんッ! ありがとうッ!」
「全く、自分から仕掛けるなと言っただろう」
「で、でも、危ないって感じだったし……」
「まあ、お前がいてよかった……。早くこの場から逃げるぞ」
「うん。あなた、戦える?」
ユリがシルドに声をかけると、彼女は怯えていた表情をキリッとしたものへと変えて答える。
「当然でしょ。アタシはクレオ·パンクハーストの双翼を担う女。こんな化け物ごときに後れを取らないわ」
「そう、ならよかったよぉ。正直あたしは自信ないし」
「あんたって強いのか弱いのかよくわかんないね……」
ヘナヘナと表情を緩ませたユリを見て、シルドは呆れながらも微笑んでいた。
それからソドの言葉もあり、ディスケ·ガウデーレの面々は冷静さを取り戻した。
調査隊と連携を取りながら、囲んでいるミイラを打ち倒し、遺跡内からの逃げ道を確保していく。
傷ついた人間たちは両方の者らが手を貸して運び、誰一人欠けることなく、出口へと向かう。
そんな状況の中で、ユリはツナミと覇気が戻ったシルドと共に、スキヤキ、ソドと合流。
彼女はスキヤキを見た途端に訊ねる。
「先生ッ! レミとレミのお母さんはどうするのッ!? それとこの化け物が出てきたってことは、まさかアルバスティってのの封印が解かれちゃったのッ!?」
「わしにもわからん。だが、もし封印が解かれたのなら、アルバスティ自身が出てきそうなものだが……」
「えッ!? じゃあレミたちはッ!?」
「今はできること、皆が生き残ることだけを考えろ。あの親子にはインパクト·チェーンがある。ここはあの子たちがアルバスティを倒すのを期待するしかない」
スキヤキの言葉に聞き、ソドも口を挟む。
「ボスは最初からそのつもりでここへ来たんだ。あの人が負けるはずがない」
「そう……だよね……」
ユリは弱々しくだが、二人の意見に同意した。
だが、その内心ではやはりレミの心配は消えていなかった。
ギリシャでは母を殺すとまで言っていた彼女が、クレオと協力してアルバスティと戦えるのかと。
それでも信じるしかない。
スキヤキの言う通り、今は皆と協力してこの場から誰一人欠けることなく脱出することだと、ユリは迷いを振り払う。
「死なないでね、レミ……。あたしたちも絶対に生き残るから……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます