09
スキヤキに声をかけられたレミは出されたお茶を一気に飲み干すと、彼に詰め寄った。
それを無礼に思ったのか、ツナミの顔が歪んだが、レミは気にせずに返事をする。
「そうなんですよ。だから先生たちも危ないと思って……。あと先生なら何か知ってるかなって思って……」
「ふん、相変わらずだな、レミ。お前は自分で考える頭もないのか? 困れば先生に頼ってばかりで。少しは自分で解決することを覚えたらどうだ?」
「うぐぐ、それはごもっともだけど……。でも、そんな言い方しなくったっていいじゃん……」
ツナミの当たりの強い言葉に、何も言い返せないレミ。
彼女はしおらしくしていながらも、ツナミの言い方に少し苛立っているようだった。
その様子を見ていたユリは、また殴り合いが始まらないかと心配していたが、スキヤキが会話に入ってくる。
「ディスケ·ガウデーレの動きはわしの耳にも入っている。おそらくだが、奴らの狙いは、お前を連れ戻すこと。それとそのチェーンだな」
スキヤキはそう言いながら、レミの右手に巻いてある金のチェーンブレスレットを指さした。
一見何の変哲もないアクセサリーにしか見えないとユリは思っていたが、続けて話すスキヤキの言葉を聞いてその意味に驚かされる。
「お前の母、クレオ·パンクハーストも持っているヤツだ。奴らはそれをインパクト·チェーンと呼んでいる」
それからスキヤキは、インパクト·チェーンについて話し始めた。
この黄金のチェーンブレスレットは、レミの亡き父であるヤイバ·ムラマサが、トルコの南東部にある遺跡で発見された鉱物から造り出した。
加工されたこのチェーンは、定められた持ち主に強力な超能力、戦闘能力を与える。
さらにブレスレットは伸縮自在であり、攻撃と防御に相手の拘束、さらには使い方次第では空も飛べるようになると。
「はぁッ!? 空まで飛べるって、そんなの現実的にありえるのッ!?」
「わしは事実を言っているまでだ。だが、誰でもインパクト·チェーンの力を使えるわけではない。先ほど言ったように定められた持ち主……。この世界ではクレオ·パンクハーストとレミだけらしい。ヤイバ·ムラマサは、妻と娘にとんでもないものを残してくれた」
「でも、レミがその力を使ってるところなんて見たことないよ!? 横浜で襲われたときだって使ってなかったし! そんな力があれば簡単に倒せるでしょ!? どうなのレミ!?」
ユリが声を張り上げて訊ねたが、レミは何も答えなかった。
戸惑っているというよりは、なんと返事をしてしたらいいかわからないといった様子だ。
そんな彼女を見て、スキヤキが言う。
「レミには使えないのだ。わしにも理由はわからんが、どうやらインパクト·チェーンの力を使うにはコツがいるようだからな。そうだろう、レミ?」
スキヤキに訊ねられ、ユリに見つめられたレミだったが。
やはりというべきか、自分でもよくわかっていないようだった。
なぜならば、彼女は自分が身に付けているこのチェーンブレスレットが、母と同じものだと思っていなかったからだ。
母からは亡くなった父の形見としか聞いていなかったのもあって、おぼろげだが、優しかった父を慕っていたレミは肌身離さず身に付けていただけだったようだ。
「そうか、お前は知らなかったのか。そのチェーンブレスレットの力を」
「う、うん……。母さんのチェーンに凄い力があることは知ってたけど、まさか僕のも同じだったなんて……」
レミが呟くように言うと、部屋に複数の男たちが駆け込んできた。
「先生! スキヤキ先生ッ! いきなり黒ずくめの集団が襲って来ましたッ!」
ツナミやスキヤキと同じく道着のような服を着た男たちが慌ててそう言うと、部屋の中にいた誰もが察した。
ディスケ·ガウデーレがここを嗅ぎつけたのだと。
ツナミはすぐに部屋を出て行き、報告に来た男たちも彼の後を追っていった。
あわわと慌てふためいたユリは、レミに声をかける。
「レミッ早く逃げなきゃッ! ここにいたら捕まっちゃうよ!」
「……先生たちはどうするんですか?」
レミがスキヤキに声をかけると、老人は椅子から腰を上げて部屋を出て行こうとした。
その背中にレミがもう一度声をかけると、スキヤキは振り返って微笑んだ。
「お前たちは逃げろ。わしらで時間を稼ぐ」
「でも、僕のせいでこうなったのに……」
「いいから行け。なぁに、そう簡単にはやられんよ。相手の数はわからんが、ある程度したらわしらも逃げる」
「先生……。ありがとうございます」
スキヤキは部屋を出る前に、この地下にある出入り口をレミたちに伝えた。
レミたちが入ってきた――今はディスケ·ガウデーレが侵入してきたものとは違う出入り口のことだ。
それからレミとユリも部屋を出て、その出入り口へと駆けていく。
狭い通路を走りながらレミは思う。
母であるクレオ·パンクハーストは、自分とインパクト·チェーンを手に入れて何をするつもりなのかと。
「どうせ人殺しのために使うんだろうけど……」
「なにッ? 今なにか言った? ブツブツ言わないでちゃんと話してよ! もうあんたとあたしは一蓮托生なんだからね!」
息を切らしながら、鼻息荒く言ったユリ。
レミはこんなことに彼女を巻き込んでしまって申し訳なさで胸が痛んだが、その言葉を聞いて嬉しく思っていた。
ユリは何があろうが、いつも他人の力になりたがるのだ。
彼女本人にその自覚はないだろうが、レミはそんなユリだからこそ、いつまでもあの安アパートに住んでしまっていた。
初めて仲良くなれた同年代の人が彼女でよかった。
レミはそう思ったから微笑んでしまっていたのだ。
「ユリ、ありがとうね」
「なんでお礼なんて言うのこんなときに!? あたし、なにもしてないけどッ!?」
走っているせいで、返事をするのも億劫そうなユリに、レミは言う。
「なにがあっても、ユリは僕が守るから」
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