国民血起、動乱開始——


ここは機械仕掛け街

ボクはそれを上から眺めている


眼下に広がるのは


鉄の匂い

金属が擦れる音

誰かが怒鳴り散らす声


誰かがそれを茶化して

大勢がドッと笑っている


大きな荷物を運んでる人

家族連れで沢山の紙袋を

両手に抱えている人達


街並みと言えば


色んなパイプやらが

壁の至る所から突き出していて

だというのに、公害は欠片も起きてない


工場の隣に家が建ってても

騒音どころか悪臭1つ

気にならないと言う


どこを見ても人が居て

どこを見ても建造物だ


と言っても


なんの設備なのかとか

どんな理屈で建ってるのかとか


全くもって意味不明だ


「……なんなんだ?これは」


これは完全に予想外だった

まさかこんなに発展してるとは


「こんな国の王様がねぇ」


何が待ち受けているか

手駒が居ないボクでは

事前のリサーチも限界がある


経験と憶測と推理

あとは応用力


で、だ


経験から察するに

下手に小細工をするよりも

直接殴り込んだ方が早いはずだ


そもそもこの街は

あまりにも技術力が高すぎて

必ず何処かで行き詰まるだろう


なるべく住民には

関わらない方が良い

情報戦など仕掛けるべきじゃない


だとすれば


ボクがとる行動はひとつだ。


ボクは立ち上がる

そしてしゃがむ姿勢を取る


足場を壊さないように

細かく力の調整をしてから


ゆっくり


ゆっくりと力を溜めて

一気に、解き放った


それは


まるで水底から突然

引き上げられたかのよう


瞬間的に

別世界に移動したかのような

人智を超えた跳躍を見せた。


飛来


接近、認識、把握


王の根城は向こうにある

このまま突っ込んでやる


建物の8割でも消し飛ばせば

どこに居ようとも王の居場所は分かる


もし城に居ないとしたら

また別の方法で探すだけだが


……多分それは無いだろう

反撃の隙は微塵も与えない


吸血種はお互いの存在を

察知することが出来るが


それは血の力を

使っている時のみ


ボクのように

吸血種が持つ本来の

肉体的な力のみを行使する

存在には、鼻が働かないのだ。


いくら強い生命と言えど

第六感的な知覚は持ってない


故に、こんなあからさまに

攻撃を仕掛けるつもりでも


気配に気を付ければ

感知されることはない


何もさせずに殺す

建物が崩壊した瞬間

崩れ落ちる瓦礫の中から


標的を探し出し

速やかに心臓を砕く


目標まで、あと


3秒……


……2秒


……そして


城の全貌を把握するよりも前に

ガチャガチャと音を立てている

歯車とパイプにまみれたその城壁に


渾身の爪を叩きつけた



それは



あまりの衝撃


あまりの威力


王の城はこの国が有する

最も耐久力が高い素材で

作られている


それが


まるで水風船のように

またはちり紙の類のように


容易く、激烈に苛烈に

ただの爪のひと振りにて



8割?いいや、それどころじゃない


城ごと

なんの跡形も抵抗もなく

完膚無きまでに爆散した


瓦礫を通り越して

粉塵の山と化した王城


外圧に耐えきれずに

中にいた人間も粉に変わった


粉だ


血しぶきですらない

存在の余韻すら残さない


そんな、中で


もはやコンマ数秒という世界の中

ボクの、吸血種としての動体視力は


唯一、あの中で


`かろうじて`形を保っている

異常な存在を知覚した


「——居た」


発見と攻撃は同時だった

空中で直角に軌道を変えて

ボクはアイツの所に飛び込む


まるで雷鳴の如き

天からの垂直落下


距離は一瞬で縮まる


爪の一撃によって

体の大部分を失った`彼女`は

再生に忙しくて体勢を立て直せない


血の力を展開しようにも

今からでは間に合わない


ボクは


彼女の胸に


右腕を突き刺し


心臓を握り潰そうとして


`ソレ`に気が付いた


——無い!心臓が、無い!



「……くも」


何かが、聞こえた

背筋をなぞられたような

薄ら寒い感覚が全身を這う


「……よくも」



「よくもアタシの家族達を!!!!」


気が付いた時には、彼女は

人の形をしていなかった


異形、異形だ

影のように広く

闇夜のように深い


空間に突如として空いた穴

絵画にナイフを突き立てた傷のように


そこだけぽっかりと

時空が崩れたかのような


そんな姿だった


彼女は暗闇のような顔で

何かを発した、それは——










「殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺

殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺

殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺



         殺!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



彼女の言葉はもう

生き物が発する物では無かった

音が……いや、もはや言語ですらあるまい


けれど、感情だけは

読み取ることが出来た


とても単純で

原始的な感情が、だ


そんな彼女にボクは

軽蔑の言葉を投げる


「お前、呑まれたな!」


なるほど、そういうことか

吸血種が国王だなんて

変だと思ったんだ


どう考えても不可能だからだ

だから、その方法が気掛かりだった


けれど、この有様を見て

ボクは全てを察した


彼女はさっき`家族`と言った


吸血種にとって

その単語が表すものは

人間達と違って1つしかない


生き物の血を吸い付くし

その後で血を分け与えると


吸血種は眷属を作る事ができる


分からなかったんだ

力が発現して居なかったから

感知することが出来なかった


でも嫌な予感だけはしていた

`人に関わるのはやめておこう`


その勘は正しかった!


彼女にはもう力は残ってない!

心臓が無かった理由も分かった!


「お前、この国全体を眷属にしたなッ!!!」


つまりこれは、国民全体が

彼女の心臓という事なのだ!

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