覚悟の最後のピースが埋まる時



あの戦いのあとボクは

その辺に倒れている人間達を

一人一人、迅速に確かめて歩いた。


その結果が、今出た


「……見事に皆殺し、だね」


生存者の1人どころか

息のある者すら居なかった

誰も彼もが皆、即死していた


一撃だ

一撃で絶命させられている


雪の地面の冷たさを

味わう間も無かっただろう

あるいは死の恐怖さえも


「キミが、無闇に人を襲う

凶暴な奴じゃないことは


街の様子から気付いていた

誰も、噂してなかったからね


一般人の被害者など

出さなかったんだろう」


ということは


あの男が引き起こした

一見、残虐極まる殺戮は


つまり


「……慈悲だとでも言うつもりかい?


痛みも恐れも感じる間もなく

命を奪うことが、せめてもの


償いの気持ちであると?」


慈しむから殺さない

のではなく


だからこそ、殺すと

キミはそう言いたいのか?


いや、違う、そんな訳ない

ボクらはそんなに優しくないさ


もし、吸血種に

本当にそんな心があるなら

こんな場所に引っ込むことなく

人の群れの中で暮らしてるハズだ


「……あぁ、そうか分かったぞ」


疑問が解けた


ボクが不思議に思ったのは

何が腑に落ちなかったのか


その正体が見えた

そうか、キミは


「死にたかったんだな

そうなんだろう?」


たった1人孤独に

無意味に生き続けて

こんな所に引きこもって


殺して欲しかったんだ

だから人間と戦ったんだ


生き残りたいんなら

逃げたら良かったんだ


今の今まで生き残ってきたんだ

逃げるなんてプライドが許さない

なんて事も、今更ないだろう


じゃあなんで

人を殺し尽くしたか


その答えは簡単だ


「優しいから、苦しまないように

殺してあげたのではなく、キミは


失望したんだな

この程度の力しかない

自分を殺せない人間に対して」


きっと

あの戦士が自分に

迫ってきたあの時


死んでもいいと

思ったに違いない


……あの封印の光を見るまでは


ヤツは

自分が死ねないことを悟った

やはり人間では殺せないのだと


隠れたのは封印が怖いから

逃げなかったのは死にたいから

戦いに勝ったのは殺してくれないから


片や人間は


自分の死をも厭わずに

種の存続のために戦った

あらゆる犠牲を払いながらも


片腕が無くなっても

背後で仲間が死んでも


未来に繋げるために

人間は戦ったんだ


……だというのに


「ダメじゃないか、やっぱり」


冷酷な吹雪が荒れ狂う中

ボクは空を見上げて呟いた


元から

決して揺らぐ事の無い

固い固い決意だったけれど


それが今、真の意味で定まった。


「滅ぶべきだよ、吸血種は」


あれはいつだったか


人間がボクらを封じる

手段を見つけ、実際に

倒される者が出始めた頃


ボクはいち早く

人の輪の中に紛れ

追っ手を逃れて生きていた


そして目の当たりにした

人間という種族の偉大さを


あの発展し尽くした街並み

どこを見ても人、人、人


見たことも無い道具

絵や音楽、伝統、武芸


愕然としたよ

ここまで差があるのかと


今まで見えていなかった

人を襲い血を吸い己の欲を満たし

好き放題生きてきた、それまでは


あの、人間達が築き上げた

素晴らしい世界が見えてなかった


感性が違う

才能が違う

生き物としての格が違う


1人で全てが事足りるだって?

何を馬鹿なことを、あれはもう


太刀打ち出来ないじゃないか


ボクらみたいな

生まれつきの体質で

偶然生き残ったような


なんの努力も発展もしない

時代遅れの生き物が


荒らしていいモノじゃない

滅ぼそう、吸血種を全て


人間を守る為にじゃない

これ以上恥を晒さない為にだ


誰かがやらなくちゃいけない


そして、それをするのは

人間ではダメなんだ


ボクが

吸血種が


自分で、自分達で

終わらせなくてはならない

ボクはその為に戦うんだ。



ゴウッと

強烈な風が吹いた

視界が真っ白に染まり


ほっぺたに当たって溶ける

雪の結晶の感覚を思い出す



「……つい考え込んでしまった

あぁ、早く移動しなくちゃね


次の標的の居場所は分かってるんだ

さっさと始末しないとね」


そう言い残して

惨劇の雪原に背を向けた


この辺り一帯に染み込んだ血は

回収しない事にした


このまま大地に溶けてもらおう


吸血種の血は特別だが

ひとたび心臓を失えば

それも失われる


次の目的地を目指そう

向かうは、機械仕掛けの街


この地上で最も

繁栄を極めている場所

その、国王の間に……


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


この時


ボクは気が付いて居なかった

ひとつ、とても大きな勘違いを


していることを


その間違いはとても

致命的である事を


ボクはまだ

知らなかった。



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