閑話1――中間テストのご褒美は?


「どうだ、これがオレの今の実力だ!」


 本日全教科のテスト用紙が返ってきたので、今日も部活後に我が家に来ていたイチの前にズラズラと並べて見せた。


 1時間ぐらいしか居られないくせに、なんでわざわざウチに来るのかね。まぁ確かに学校では異性の先輩後輩なので接点がほとんどないし、なかなか話すことも難しいからちょっとでも話せてオレも気分転換にはなってるけど。でも部活で疲れてるんだから、さっさと家に帰ってゆっくりしたらいいのにと思わなくもない。


「おお、前に言ってたのは嘘じゃなかったのか。軒並み90点超えは確かにすげぇ」


「ヘヘ、びっくりしただろ?」


「したした、びっくりしたわ」


 確かにイチをびっくりさせてやる、という気持ちを原動力に頑張ったのだが、なんか反応が軽くて手応えが感じられない。もっと腰抜かすぐらい驚くと思ったのにな、それくらい男だった頃の成績はひどかった。イチも同じぐらいだったけど、こいつは推薦で入学してバスケで特待生待遇もらってるからな。


 成績が最底辺でも時々ある補習に出席してれば進級や卒業できるらしく、今のイチの成績は知らないけど多分変わってないんだろうな。


「しかしあの湊……もとい、ひなたがこれだけ勉強ができるようになっているとは。その教授さん達はどんな魔法を使ったんだか」


「いや、まぁ確かにオレの成績はひどかったけどさ。ぶっちゃけ病院にいても体はいたって健康体だっただろ、だからバスケサークルには参加させてもらってたけど他の時間はヒマだったんだよ」


 他にも診察とか研究に協力してた時間もあったけど、基本的に空き時間だったんだよな。そしたら教授達が勉強のやり方を教えてくれて、ゼミの生徒さん達にとっても学びになるからと彼らまで加わって勉強の方法を教わったんだよな。小学校高学年で勉強を投げ出したオレだったけど、そこまで戻ってやり直したらちゃんと理解できたんだよ。


 1年足らずでよくここまでレベルアップできたもんだ、と自分でも思う。今でも予習復習はやらないと気持ち悪いから、習慣としてしっかりと身についている。これを続けていれば、基礎学力は落ちずに伸びるだろう。三年生になってもし塾通いが必要になれば通えばいいし、それまでは自分で頑張るつもりだ。オレの懐具合だと、親に迷惑掛けなくても自分のお金で通うこともできるからな。


「本当に頑張ったな、そんなひなたにご褒美をやろう。何か欲しいもんはないか?」


 そんなことを考えていたら、突然イチがこちらに手を伸ばしてオレの頭を撫でながら意外な提案をした。別にオレとしては何かが欲しくてテストの結果を見せた訳ではないのだが……っていうか撫でるな、イチのデカい手に撫でられたら妙にムカつく。


 でもくれるっていうなら気持ちを無下にするのも何だし、もらっちゃおうかな。しかし欲しい物か、バッシュや部活中に着るシャツは入学前に出掛けた時に買っちゃったし。男だった頃はゲームとかもやっていたのだが、女になってからはなんか興味が向かなくなっちゃったしな。これと言ってほしい物がない、ウンウン悩んでみたけど思い当たらなかった。


「いや、欲しい物は特にないわ。だから……」


「じゃあオレが選んで買ってくるけど、いいか?」


 だからご褒美はいらない、と言おうとしたオレの言葉を遮るようにそう言った。まぁ、イチが選んだプレゼントならゲームとかの遊べるものだろう。この部屋にも一応現役のゲーム機本体があるから、それ対応のゲームとか? まぁ買ってきてくれたらお礼を言って、一緒に遊べばいいよな。


 その時のオレは、まさかイチがシルバーのネックレスなんかを買ってくるとは思いもよらなかった。三日月を模したペンダントトップがシンプルで可愛らしいのだろうが、元男のオレにこんなの贈ってどうするつもりなのか。まさかバカにしてるのか? とちょっとだけ思ったけど、オレが着けてみると本当に嬉しそうに笑っていたからその線はないだろう。


 イチの意図が全然わからなくて困惑するオレがきょときょとしているのを、まるで弟妹を見守るかのような温かい眼差しで見ているのが印象的だった。こいつはもしかして妹が欲しかったのだろうか。ひとりっ子だもんな、とようやく納得できる答えを導き出すことができて、ホッとするオレなのだった。


 妹扱いはめちゃくちゃシャクだけどな。

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