24――2日目のお風呂タイム


 練習が終わって、今日もお風呂タイム。午後はほとんどの時間でコーチの真似事をしていただけで全然疲れていないので、今日は元気が有り余っている。だから率先してまゆの背中を流すことにした、昨日のお礼も兼ねてな。


「わぁ、本当にいいの? じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」


 まゆは本当に嬉しそうに笑って、お互い裸で大浴場に入っていく。昨日は散々全裸姿のまゆの姿が目に入ってきたので、さすがに表面上は平静を装えるようになった。昨日みたいに慌てて顔を背けたりしてたら不自然だもんな、視線は微妙に逸らすけど。女になってから知り合った人ならともかくとして、さすがに男だった頃からの同級生の全裸は恥ずかしくて直視に耐えない。


 今日の入浴は昨日の順番が後半組だったメンバーから先に入れと、部長命令が下ったんだよね。あの人って試合中の圧はすごいけど普段は公平で、上に立つ人ってこういう人なんだなというカリスマイメージが服着て歩いているような人物だ。仮入部しに来たオレにいきなり対決を申し込んできたり、ちょっと常識から逸脱することもあるけど悪い人ではない。


 それはさておき。かけ湯代わりにシャワーを浴びて、せっかくだからとまゆの髪も洗わせてもらう。自分の髪だと適当にガシガシ洗ってしまったりもするが、姉貴の指導もあって人並みに丁寧に洗うテクニックを身につけている。ロングヘアだとまた話は違ってくるだろうが、まゆの髪の長さはオレと同じで肩に掛かるぐらいだからそんなに難しくない。


「あぁ~、天国はここにあったのね」


 濁音が混ざりそうな声で気持ちよさそうに言われると、こうして後輩として先輩に奉仕してる立場としては予想以上に嬉しい気持ちになるもんだな。『かゆいところはありませんか~』なんて言いながら、きっちりトリートメントまで済ませてやった。その後はお返しということでまゆに丁寧に髪を洗ってもらったが、これだとお礼にならないのではと洗ってもらった後で気付く。


 仕方がないので背中を流させてほしいと提案して、許可をもらったのでボディーシャンプーを泡立てて痛くならない程度に手で優しく擦る。たまに雑談で聞こえてくるイマドキ女子のタオルと手洗いの比率は、大体半々ぐらいに分かれている気がする。実際に大学のサークルの先輩達と一緒に、銭湯に行ったことがあるのだがそんな感じの割合だった。手洗い派の子達は最初から泡が出るボディーソープを持ち込むか、普通のボディソープを泡立てられるアイテムを持っているかのどっちかだな。


 男だった頃にも先輩の背中を流した記憶があるんだが、その時は擦るだけで痛そうなトゲトゲが付いたタオルでゴシゴシと全力をこめて洗うように指示された。滅茶苦茶肌が赤くなっていたが、その先輩はそれくらいじゃないと洗った気がしないと笑っていたからもうなんか色々と麻痺しちまってるんだろうな。


 女子の場合は普通のタオルか少し柔らかめの物を持ち込んでいるのだが、やはり男と女で肌の強さが違うからそれぞれに合った物を使っているのだろう。少なくとも女湯ではあんなトゲトゲタオルなんて誰も使っていないのは、周囲を観察するからに明らかだ。


 ちなみにまゆは消極的な手洗い派、タオルが備え付けてあればそちらを使うタイプらしい。昨日は初めて一緒に風呂に入るオレに手洗いさせるのは申し訳ないと、タオルで背中を流させてくれたらしい。昨日オレが洗った背中の一部が少しだけヒリヒリしたらしく、今日は最初から泡立てアイテムをそっと手渡してきた。


 リクエストに従って手洗いしたのだが、きめ細やかな肌が手に吸い付いてくるみたい柔らかくてかなりドキドキしてしまう。自分の体も他の人が触ればそんな感想をもらえるのかもしれないが、やっぱり自分と他人の体だと感触が違うんだよね。


 少しでも身体に直接触れる部分を減らすために、もう少し泡を作ろうとまゆの肩越しにボディソープのボトルを取ろうとしたら、オレの手がボトルに届いた瞬間まゆの背中にオレの胸がふにゅんと押し付けられてしまった。


「ふやぁ、やわらかっ……」


 何故か押し付けられた側のまゆが変な声をあげたので、オレは思わず小首を傾げてしまう。そんなオレの様子を鏡越しに見たのか、まゆは声も出さずに『なんでもない』というサインのように手のひらをヒラヒラと振った。大丈夫か、こいつ? というか、柔らかいと声を上げたいのはむしろオレの方なのだが。触れると体のどこもかしこも柔らかいんだもんな、女子って。


 泡を洗い流すと、今度は交代でオレの身体を洗ってくれるというのでお言葉に甘える。ただ今日は胸を揉まないように少し強めに言い含めておいた。案外女子の胸っていうものは敏感なので、触られるぐらいならまだしも揉まれると刺激過多でぐったりしてしまうからだ。


 本気で嫌がっているのがわかったのか、まゆはこくりと頷くと優しく洗ってくれた。約束通りに胸は揉まれなくて、ちょっとホッとする。女の子同士のじゃれ合い感覚なのはわかっているのだが、まだまだ女子初心者のオレにはお手柔らかにしてほしいと思う。


 ちなみになのだが、現在のオレの胸の先っぽは薄いピンク色だったりする。元々はミルク多めのカフェオレみたいな色合いだったのだが、病院にいたある日に教授の一人が『乳首の細胞が欲しい』と言い出したのだ。今思うと完全に変態の発言なのだが、当時のオレは疑う気力もなくただその言葉に頷いた。姉が『かぶれたりしないのか』『安全性は大丈夫なのか』と教授に食い下がっていたけど、最期にはちゃんと納得していたから大丈夫だったのだろう。


 なんか変な薬みたいなのを塗られて、しばらく待ってからピンセットでペリペリと教授が皮を剥ぐ。すると剥がした皮の下からサーモンピンクの新しい皮膚が見えて、『何これ手品?』と驚いたもんだ。その後すぐに姉が自分にもやってほしいと教授に詰め寄っていたのが、なんとなく面白かったのを覚えている。


 それからずっとオレの乳首はピンク色のままなのだが、新陳代謝ってどうなってんだ? 風呂入ると絶対最初に周囲の視線がそこに集まるから、できれば元のカフェオレ色に戻って欲しいんだが、切実に。

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