第3話 婚約者だけでなく

「ペトラのアイデアを盗んだなんて、そんなことは絶対にしていません!」


 私が反論しても、フェリクス様の怒りは収まらない。私の言葉など、全く聞こうとしなかった。


「ペトラは俺に、新しく思いついたオリジナルのアイデアを次々と披露してくれた。その後に、お前がペトラの考案したアイデアと全く同じ演出をパーティーで披露していた」

「せっかく良いアイデアを思いついたのに、お姉様が先に披露しちゃんうだもんっ。これじゃあ私が、お姉様からアイデアを盗んだって言われちゃう」

「……それだけでは、私が盗んだとは断定出来ていないんじゃありませんか?」


 ペトラの言葉に言い返すと、フェリクス様は呆れた顔をする。そして、大きなため息をついた。そんなフェリクス様の様子を見て、私は不安になった。


「ペトラは、思いついたアイデアを忘れないように書き記したノートを失くした、と言っている。お前が盗んだんじゃないのか?」


 そういうことかと、私はやっと理解した。


 ペトラは、私が書いたアイデアノートを勝手に盗み見たんだ。それを見た彼女は、フェリクス様に自分のアイデアだと披露した。その後に、彼が私に色々と確認しようとした。


 パーティーに興味を示してくれたと思っていたのに、私は疑われていたらしい。


 彼は真実を明らかにするため、色々と質問してきただけだった。それなのに私は、フェリクス様がパーティーに興味を持ってくれたなんて勘違いして喜んで。


 とても悲しくなった。


 アイデアを盗んだと疑われているが、事実は逆だ。彼女が私のアイデアを盗んで、自分が思いついたと先に主張した。


 やっぱりペトラが、いつものように私から大切なものを奪い取っただけだ。もっと警戒しておくべきだった。私の妹は勝手に部屋の中に入ってきて、無断で人の大切なノートを盗み見るような悪人だということを理解しておくべきだった。そうさせないために、しっかり対策しておくべきだった。


 だけど、今更後悔したところで遅い。もう手遅れだろう。何もかも、全て終わってしまった。


 フェリクス様は、私を冷たく睨みつける。そんな彼の横で満足そうに微笑んでいるペトラ。私の味方はいない。


「理解したか。お前の悪事は全て把握済みだということを」

「ようやく、真実が明らかになりましたわね。私の真似事をするばかりのお姉様は、見ていて滑稽でしたわ!」

「……」


 事実を説明する気も、反論する気も失せてしまった。私は呆然として、ただ黙り込むしか出来なかった。そして、彼らの楽しそうな様子を眺めるだけ。


「お姉様との婚約破棄は、まだ正式に発表してませんよね?」

「あぁ、まだだ。しかし、すぐに全国の貴族達が知ることになるだろう」

「楽しみですわ! そして早く、私との婚約を皆さんに知ってもらいたい!」

「そうだな。その時は、お前の才能を発揮して素晴らしいパーティーを開いてくれ」

「任せて下さい! 私が担当するパーティーは、成功間違いなしですわよ!」


 婚約者として数年間一緒に過ごしてきた私の言葉よりも、妹のペトラを信じているフェリクス様。彼女のほうが、私よりも優秀だと確信していた。


 彼はもう、私が何を言っても信用してくれないだろう。だから私は、口を閉じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る