第2話 横取り

「ベリンダお姉様、私がフェリクス様の新しい婚約者になります。私と彼の両親も、既に了承済みです。なので、お姉様もつべこべ言わずに納得して下さいね」


 フェリクス様の横で、勝ち誇った顔をしているペトラ。そんな彼女を睨みつけて、私は歯を食い縛る。悔しくて、涙が出そうになった。確かに私は無能かもしれない。そんな話し合いが行われていたのに、何も気付けなかったのだから。


 両親も了承しているというのなら、もう取り消すことも出来ないのだろう。


「ペトラ……。また、私から奪うのですか?」

「いいえ、違いますわ。フェリクス様が、お姉様ではなく私のことを選んでくれたのです」


 だから、奪ったワケじゃないということらしい。選んだのはフェリクス様だから。選ばれなかった私にも責任があると言いたいようだ。ふざけないで欲しい。


「フェリクス様、何故ですか? 何故、ペトラを選んだのですか……? 貴方は、私の婚約者じゃなかったのですか……!?」


 こんな事を言ってしまうのは悔しい。だけど、言わずには居られなかった。すると彼は私を睨みつけて、怒ったような顔で答えた。何故、そんな顔で私を見るの?


「お前を信用して任せていたのに。お前は俺を裏切った。だから俺は、お前ではなくペトラを選んだ。ただ、それだけだ」

「……それは一体、何の話ですか?」

「しらばっくれるのか?」


 何を言っているか分からない。だって、私は彼を裏切ったような覚えなんてない。少し思い返してみたが、そんな事をした記憶など一切ない。誤解されるようなこともないはずだ。なのに、勝手に決めつけられている。私がフェリクス様を裏切ったと。


「私には身に覚えがないです。何かの間違いではありませんか?」

「嘘をつくなッ! ペトラが苦労して考え出したアイデアの数々を、お前が奪ったのだろう! それで、今まで主催したパーティーで披露して評判を掻っ攫っていった。その事を俺にも黙って勝手にッ!」

「……私が? ペトラのアイデアを盗んだと言うのですか?」


 思わず聞き返した。全く身に覚えのないことだ。誰かからアイデアを盗んだなんて事実はない。私がパーティーで披露したのは、自分で考え出した演出ばかり。時々、他の方々からアドバイスを聞いて参考にしたこともあったかもしれない。だが、妹のペトラからアイデアを盗み出したなんて、そんなことはあり得ない。


「自分の妹の才能を利用して、お前はパーティーを成功させて名声を手に入れていたのだろう。この卑怯者め! お前のような女とは、結婚などしない。本当に貢献してくれたペトラを選ぶのは、当然のことだろう?」


 怒りの感情が沸々と湧き上がる。


 私は今まで、フェリクス様に認められるように必死で努力してきた。主催の責任を丸投げされて、それなのに色々と考えながらパーティーの準備を指揮してきた。


 今までに何度もパーティーを成功させてきた。それなのに、こんなことを言われるなんて悔しい。


 しかも、ペトラのアイデアを私が盗んでいたなんて勘違までされている。どうしてそうなってしまったの?

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