第33話 アジトについて

 翌朝、目が覚めると体に違和感を覚えた。

 かなしばりのような感覚で、何かに体を拘束されている。


 視界には見慣れた壁紙が映っている所を見るに、僕の部屋らしい。


「……誰かいる?」


 首を下に動かすと、僕の身体は縄で縛られているみたいなんだけど。


「ファングー、いないのか、ファング―」


 僕の相棒をうたっていたファングを呼んでみる。

 するとタッタッタッという彼の足音が聞こえた。


「気がついたのかウィル、気分はどうだ?」

「わけがわからない、どうして僕は縛られてるんだ?」

「昨日のことは覚えているか?」


 多少は、たしか僕は黒ずくめの女に襲われて、その後ビャッコに……!?

 まずい、昨日の僕は何を思ったのか知らないけど、ビャッコにセクハラしてしまった。


「ウィルが倒れたあと、説明を受けた。それによるとお前は黒い女のスキルによって洗脳されている恐れがあるらしい。というか絶対にそうらしい。それでスキルが解けるまで、ウィルを縛ったままにしておけと言われた」


 やっぱりそうか、意識がなくなる前に残された理性で考えた推察は正しかったみたいだ。


 僕は黒ずくめの彼女のスキルを受けて、精神をやられたみたいだ。


「僕にかけられたものは解けるのか?」

「なんでも王都にはスキルを解除するスキル持ちがいるらしいのだ」

「そうなのか、それは助かった」


 それで。


「いつ、その人はやって来るの?」

「さぁ、エンジュは心配していたが事情を説明するためにも出勤してしまったし」

「ああ、それは彼女らしい配慮だね、それで?」

「なんでもかんでも聞くな、俺にだってわからないことはある」


 ファングは今は大人しくしていろと言うと、部屋を立ち去った。


 早く自由になりたいが、時にはイレギュラーもつきもの。

 こういう時こそ俺たちのバカンス、何もせず寝て過ごせと師匠は言ったものだ。


 僕は目を閉じ、ふたたび眠りについた。


 夢の中で、僕は久しぶりに師匠に会った。

 師匠は相変わらずうさん臭さ満載で、それを告げると彼は反論する。


 ウィルはいつまでガキの気分でいるつもりなんだよ、と。


 僕はもう子供じゃない、王都で独り立ちして、成功も収めた。

 聞いた師匠は僕の台詞を高らかに笑いとばした。


「成功も収めた? 王都は世界の極一部でしかないんだぜ? いばるな」

「でも王都は先進的じゃないですか、王都での成功はすなわち」

「あーあーあー、お前のごたくには付き合いたくない」


 ならばこっちとしても願い下げだ、師匠とこれ以上話すことなんてない。

 僕は師匠に背中を向けて、いつも通り卵を生み出す作業に入った。


 すると彼は再び笑って、僕のかんに障ると。


「ウィル、世界を目指せ、世界を。この世界には俺たちのような商人を必要としている人間がたくさんいるんだ。例えこの世界に人知を超えた脅威的な魔物がいるとしても、世界を救うのは武力じゃない――商売だ」


 彼の最期は世界進出をかけた船旅であった海難によるもので。

 師匠の船が目的地に寄港しなかったので、亡くなったものとされてしまった。


 今までずいぶんと手塩にかけられてきたけど、泣こうにも泣けなかった。


「お、おはようウィル、気分はどう?」


 目が覚めると、目前にビャッコの顔があった。


「思いのほかいいよ、それで、僕にかけられたスキルを解除してくれる人にはこれから会いに行くの?」

「ああ、その件ならもう終わったから」


 え? 僕が寝ている間に? と聞くと、彼女はうなずく。


「あの人は、あまり自分のスキルについて知られたくないみたいだから、ウィルが寝ている間に終わらせてもらった感じ」


「ふーん、じゃあ縄解いてくれよ」


「あーはいはい、お任せあれ! って結び目がかた、固いな」


「……昨日はごめん、彼女のスキルの影響下だったとはいえ、変なこと言って」


「変なことって?」


「その、君を誘惑するようなセリフを」


 ビャッコは昨日のことを回想すると、数秒後に気づいたみたいだ。


「まぁまぁ、よしとしておきましょう。ウィルの気持ちもわかったことだし」

「僕の気持ち?」

「ほら、ウィルって超がつくほどがめついじゃん?」

「言うほどじゃないだろ?」

「そのウィルから、お金ならいくらでも払うって言わせた私の魅力よ」


 う、うーん、この。

 これ以上この話題を続けるのは僕にとって不利だった。ので、話題を変えよう。


「昨日のあの人とは知り合い? どんな関係なの?」


「……ミカエラは、私の幼馴染。十才の時からいじめみたいな感じでさ、周りから色々言われて、それでその後いろいろあって、元々王都を根城にしていた悪の組織に入っちゃったの」


「ふーん、彼女のスキルはどんなものなの? 魅了とか?」


「ミカエラのスキルは【悪】、人間の悪徳を助長させることが出来るの。でも彼女のすごい所はそこじゃなくて、ミカエラは悪の組織で研究者やっててね? ある日、自分の研究を成功させたんだ」


「どんな研究?」


「スキルを後天的に植えつける研究、かく言う私のスキルも彼女の研究によるもので――ってウィル、またやったね?」


 は? ビャッコの口から出た不穏な台詞に首をかしげると、彼女はお金のジェスチャーをとった。


「何タダで情報得ようとしてるんだ、これ以上はお金貰うよ」

「あー、なら、引き換えに僕からも情報を提供するよ」

「どんな?」


 これは僕の憶測だけど、おそらく当たってると思うんだよな。


「件の悪の組織のアジトについて、知りたいか?」

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