第31話 覆面ヒーローな彼女

 家に帰るとちゅう、強盗まがいの連中に囲まれた。僕は連中に交渉をもちかけたが、話にならない感じだった。僕たちが戸惑うようすをみて、へらへらと卑しく笑い、連中は僕のすべてを奪うつもりでいる。


 そこに美少女の風体をした謎の人物が空からふってきて。


「平気?」


 彼女は僕の前に立つと、聞き覚えのある声で聞く。


 しなやかな肢体に張り付くような白い衣装姿で、手足にはファーがついていた。

 頭には白い猫耳、お尻には白い尻尾が生えていて、顔には白猫のマスク。


「一つ聞く、助かりたい?」


 彼女はかんけつに聞くと、僕はこくりと頷いた。


「なら前金で金貨10枚、もらうからね」


「えっと、わかった。そのぐらいなら払える、けどもしも失敗した場合は君の給料から天引きするからな?」


「な、なんのことかな? 私は今巷で噂のヒーロー、レベッカだよ?」


 僕は財布を取り出し、金貨10枚を彼女に渡す。

 金貨を手にした彼女は感触をたしかめるように、黙り。


 指を器用に動かし、ちゃりんと音を立て10枚の金貨をマジックのように消す。


 僕を襲った連中の一人が、彼女に矛先を向けていた。


「でやがったなレベッカ。俺たちの仲間をやった借りは返してもらうぞ」

「お前らのような末端じゃあ話にならない、僕を屠りたければ幹部を出せ」


 すごい自信だった。

 彼女はあけすけな性格をしているので、恐らく本当にそう思っているのだろう。


 決着は一瞬だった、彼女は強盗たちが襲うより先に動き。


「な!?」


 目先にいた強盗の一人を横蹴りで後方へ吹っ飛ばし、他を驚かせる。

 それはさながらアメリカのヒーロー映画を見ているような感覚だった。


 先手を取り、一人を倒すと次々に連中を倒していく姿はまさに活殺自在。


 圧倒的なパワー、驚異的なスピード、長久の歳月を感じさせる練磨された動き。


 これは並大抵の相手は勝てないだろう、という観察と共に。

 なんで彼女のような凄腕が僕の店の看板娘やっているのだろう?

 そう言った疑問も覚える。


 強盗たちが全員倒されると、彼女は何も言わず上空に跳躍して消えていった。


 僕は倒された強盗に近寄り、身辺調査し始める。

 連中の懐をあさる僕をファングが不思議がっていた。


「ウィル、何をやっている?」

「この人たちはどんな素性か確かめてる」

「まるで追いはぎみたいだな」

「ああ、もちろん倒された連中の持ち金は回収するよ。金貨10枚は痛いしね」

「くはは」

「ファングも手伝ってくれよ」


 という訳で、彼女が倒した強盗の持ち物を確かめてから、外壁門にいる警備兵に報告して、連中はあえなく御用となった。警備兵から「貴方が倒したのですか?」と聞かれたので、レベッカのことを伝える。


「レベッカか、それは幸運でしたね」

「彼女は有名なんですか?」

「一応その筋では有名ですね、あまり公にされておりませんが」

「……それじゃあ私はこの辺で失礼しますね、明日も仕事があるので」

「えぇ、どうぞこの先もお気を付けを、エッグオブタイクーン・ウィル」


 僕の名前を知っていたので、別れ際、警備兵には卵を差し入れしておいた。


 家に帰ると先に帰っていたエンジュが眉根をしかめて玄関先で待っていて。


「また逃げたのかと思った」


 ヤンデレ発言を口にする。


「逃げるにしたってどこに?」

「ウィルがたらし込んだ女の所?」

「人聞きが悪いし、僕は生来から異性とは無縁だし」


 その後は家のテラスに出て、牧場にいる従魔たちと一緒に食事をとった。

 従魔たちは美味しそうに出された肉や、近くの農家からもらった野菜を食べている。

 エンジュは従魔たちが落ち着いて食事している風景に微笑んでいた。


「……これは本人には内緒にしておいて欲しい話なんだけど」

「?」

「ビャッコは僕たちに隠れてヒーロー商売していたみたいなんだ」


 そこで僕は道中強盗に襲われ、彼女に助けられた話をした。

 だから今日は帰りが遅くなったと伝えると、エンジュは首をかしげる。


「なんで本人には内緒なの?」

「覆面ヒーローだからさ、世間に正体がばれちゃいけない系のあれ」

「?」


 まぁ、こう言うのはよほどな説得材料がない限り、通じないかもな。


「明日どういうことか聞いてみよう」

「それはやめてあげて、きっと聞かれても答えないよ」

「私だけのけ者にしないでくれない?」


 そんなことがあった翌日。

 大衆浴場に向かい、汗を流していると、レオがやって来た。


 昨日のビャッコの件を想起し、レオに近づき声をかけた。


「レオ、おはよう」

「お前か、お前のせいで昨日は妹から侮蔑されてしまったでないか」

「とりあえずビャッコが助かったのなら何よりじゃないですか」


 レオは桶に入れた温水で体を流すと、それもそうだなと言った。


「……貴方の妹さんは、中々稀有な体質みたいですね」

「ん? なんのこと、ってああ、あのことか」


 レオは目の前にあった石鹸を取り、両手で泡立たせる。


「お前も妹のあれに気づいたのか。だが妹の身を守るため、黙秘させてもらおう」


 と言うと彼はこわもてのライオン面に歯牙をむかせて、不敵な笑みをとる。


「いやまぁ、本人が隠そうとしてる以上当たり前ですよね」

「妹のことは本人にしかわからないからな、何かあれば直接聞くのだ」

「ご安心を、今の所業務に支障は出てないので、特に聞くこともありません」


 僕が兄であるレオに聞き込みしたのは、なんとも言えない予感からだった。


 今の所店に被害は出てないし、ビャッコも特に怪我する恐れがない。


 けど、なんだろう。


 なぜだか胸の奥に、吉兆とも凶兆とも言えないもどかしさをこの時は感じていた。


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