第24話 モフモフ増

 翌朝、僕は数匹の従魔を引き連れ、卵の専門店の前へと向かう。


「トレント! ビャッコ! ちょっといいかな?」


 トレントとビャッコを店の前に呼び出すと、二人は驚く。


「ウィル! その魔獣はどうしたんだ!?」

「ウィルがとうとう魔獣をあつかい始めたのか、王都が終わるかもしれない」


 ファング以外に連れて来た魔獣は三匹。

 一頭は僕の従魔として登録し、他二匹はトレントとビャッコの従魔として登録したい。


「二人は従魔士になることに異存はあるかな?」


 尋ねると、ビャッコはいつものように「ないです!」と言い切った。

 トレントも連れて来た馬の魔獣を見て「使えそうだね!」と肯定的でいた。


 なので、今日は店を一時だけミーシャの方で回してもらい。


 その間に二人の従魔登録を済ませてしまおう。


 ギルド組合本部ビルに向かうと、さすがに周囲の人たちが驚いていた。

 エレベーターに向かい、レオに二階をお願いして。


「魔獣をこんなに連れて来るとは、ウィルの頭のねじは何本か飛んでるな」

「そう言われてもしょうがないでしょうね、さ、みんなこっち」


 二階の窓口で、従魔登録を受付嬢にお願いした。


「こんにちはエッグオブタイクーン・ウィル。あれから魔獣にのめり込みでもしたのでしょうか?」


「魔獣を使った仕事効率の上昇は馬鹿にならないと思ってね、とりあえず僕はこのスレイプニルを新しく従魔登録するよ。他はギルドメンバーの二名がそれぞれ一匹ずつ従魔登録したい感じかな」


 と言うと、二階にいた冒険者たちが僕たちに視線を集中させる。


「エッグオブタイクーン・ウィルのやることは凄まじいな」

「私も従魔欲しいけど、お金の面で諦めるしかないのよね」

「……ちょっと俺、ウィルと話してくる」


 僕たちの話題を話していた一人が、僕の方に近寄って来た。


「ウィルさん、ご相談があるのですが、よろしいでしょうか」


 彼はハキハキとした物言いで、金色の短髪と重厚な鎧姿から中堅クラスの冒険者だと思う。年も僕と同じくらいなのに、中堅クラスになれているのはとても優秀だ。


「なんでしょうか?」

「俺、ザックって言います。ギルドでは副リーダーの役職でして」


 副リーダーの役職はギルドマスターの二番目に権限がある。

 彼はその権限を使って、僕に何かさせたいようだ。


「俺のギルドと、ウィルさんのギルドを統合して、ユニオンギルド作ってみませんか?」

「ごめん、今はユニオンギルドにするメリットがないから、断るよ」


 即答するとザックはがっくりと肩を落とし、帰っていった。

 従魔登録の書類を書き損じているビャッコがどうして断ったのか聞いてきた。


「何回かユニオンギルドのお手伝いしたことがあったけど、あれは商人側か、それとも冒険者側に派閥が分かれて、とてもギスギスするし、商人側としては冒険者たちに無償でお金を払っているわけだから、かなり辛いものがあるんだよ。冒険者たちが商人たちを守ってくれるというメリットはあっても」


 だから、ユニオンギルドが上手くいく例っていのはよっぽどだと思うよ。

 そう突っぱねると、従魔登録に対応していた受付嬢さんが補足する。


「ですがユニオンギルドを起ち上げれば、ユニオンギルドにしか来ない大口のご依頼を受けることが出来ます。さらにユニオンギルドの年間ランキングに載りますと国から支援金がでるので、そういうメリットは多少ございますね」


「それにしたって、ギルドメンバー同士に固い絆がない限りはやめた方がいいよ。どうあがいてもメンバー同士のいざこざと言ったトラブルがついて回るからね」


 ビャッコは僕たちの話に耳を傾けつつ、なんとか従魔登録の記入を終えた。

 僕は財布から金貨15枚を出し、これで二人も従魔士になれた。


 従魔三匹も連れている以上、長居は無用。

 他のみんなのお邪魔になるし、さっさとビルを出て、卵の専門店に帰ろう。


「ウィル! 誰が店に一番乗りで帰れるか競争しようよ!」

「その話乗った! 一番遅かった人が金貨1枚でどう?」


 従魔を手に入れた二人は意気揚々としていた。

 王都の住民の迷惑も考え、二人の提案は却下した。


 トレントはへこんだ様子で従魔のスレイプニルの背にまたがっている。


「せっかくこんな馬手に入れたんだから、活躍させたいんだよウィル!」

「トレントの運搬業務の時に活躍させてくれよ」

「おお、それもそうだね! 今日からよろしくね!」


 僕もスレイプニルの背にまたがって、乗り心地をたしかめよう。


「僕のスレイプニルと、トレントのスレイプニルは夫婦らしいよ」

「そうなんだ! じゃあ俺たちも夫婦漫才できるね!」

「意味が分からないよトレント、笑っちゃうからもう大人しくしよう」


 ビャッコは猫耳をピンと立てて、おそるおそる従魔の両足をつかんだ。


「ねぇ、私を連れて空飛んだりすることできる?」


 今回ビャッコの従魔になったのはヒノワという名前の白い大きな鳥だった。

 鶴のように優美で、彼女は『幻』というスキルを持っている。


「可能、飛んでみますか?」


 ヒノワはそう言い、両翼を羽ばたかせると、ビャッコは中空に浮かんだ。


「おおー! すごーい! このまま店まで帰ろー!」

「御意」


 ……う、羨ましい。





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