第9話 あけすけな彼女

 ジニーとの初デート(?)も無事に終わった翌日。


 僕は王都にあるギルド組合本部のビルに再び足を運んだ。

 先日マケインに依頼したアルバイト募集の件を確認しにね。


 一階にいた組合の男性に尋ねると、二階に向かうよう指示される。

 階段で向かってもよかったけど、せっかくだからエレベーターに乗る。


「お、この間のいきり坊主か」


 エレベーターにはライオン頭の獣人さんがいて、僕のことをそう呼んでいた。


「先日はどうも、二階をお願いします」


 行き先をお願いしたあとは、再び天井に向けて右手をかかげる。


「そのポーズ、何の意味があるんだ?」

「これは偉大な人になれますように、っていう意味が込められてます」

「ふーん」


 二階のボタンが押されると、獣人さんは僕にならって右手を上げる。

 ゴウンという仰々しい機械音があがり、僕たちは空へと帰っていくようだった。


 ビル二階に着くと、冒険者の風貌をした人たちが大勢いる。大剣を担いでいる人や、弓を背負っている人、中にはライフル銃を装備している人もいる。僕が雇用したい人物像とかけ離れているような気がするが、一応カウンターに向かおう。


「あ、エッグオブタイクーン・ウィル」


 カウンターに向かおうとすると、僕の異称を誰かが口にした。

 声がした方を見ると、綺麗な白い毛並みが目立つ猫耳の女性がいる。


 僕は人の顔を覚えるのが職業がら得意だったので、すぐに返事した。


「ああ、白猫亭さんですか。先日はどうも」


 彼女はギルド設立の時に、隣の席に居合わせた人だ。


「あはは、つい声に出しちゃった。久しぶり」

「何か用、というわけじゃないみたいですね」

「その、あの後貴方のことについて色々と聞いてね?」


 ここの職員に僕のことを詮索したのか。

 どんな感じの説明を受けたのだろうか、気になるな。


「超々超、大金持ちだよって教えられて、なんかこう、金の鶏を見つけた感じ」

「気持ちはわからないでもないですが、お金のことを突っ込まれると警戒しちゃいますね」

「ごめん」


 他人の財産について触れると、こいつ何か企んでないかと考えると思う。

 誰だってお金欲しいのはどこの世界でもあたりまえ。

 強盗や詐欺といった手合いもいるみたいだし……そう言えば思い出した。


 僕、そういう犯罪者の予防線として警備もそのうちつけようと思ってたんだ。


「ねぇエッグオブタイクーン・ウィル」

「僕のことはウィルでけっこうですよ、何か?」

「私、今月ピンチなんだ。何か仕事ない?」


 ものすごいあけすけな人だな。


「じゃあまず、名前教えてもらってもいいですか?」


 白猫亭と呼んだけど、これは彼女が設立したギルドの名前だったはずだ。


「私、ビャッコって言います」

「ビャッコさん、仕事の件ですが、貴方に頼めそうな仕事は今の所一つです」

「おお! なんだってやるよ!」


 と、仕事内容も聞かず彼女がその気になっていると、周囲の冒険者が注目した。


「エッグオブタイクーン・ウィル? どこかで聞いたな」

「そう? 知らないなぁ」

「たしか、王国の長者番付に載ってたような」

「嘘! じゃあかなりのやり手じゃん」

「……人を募集してる、って言ってたな。話だけでも聞いてみるか」


 と言った感じに、ビャッコの声が大きいのが原因でその場にいた冒険者が集いだした。異様な空気を察知したギルド組合の職員がカウンターから出てきて、事体の制止に動く。


「皆さん、静粛に。仕事の応募窓口はそちらではございません」

「わかったわかった、エッグオブタイクーン・ウィルの仕事はどれだ?」

「ウィルさんの募集でしたら、クエストボードの右下にあるこれですね」


 すると大勢の冒険者が僕が出したチラシを見る。

 チラシに書かれている仕事内容は店の販売店員、もしくはパティシエ職人だ。


「これは、俺らとは関係なさそうだな」

「私、やってみようかな」

「なんで?」

「エッグオブタイクーン・ウィルのお近づきになれるチャンスじゃない」


 反応はさまざまだったが、ここは窓口に一度向かい。


「ご迷惑お掛けします、先日マケインに頼んだ件を確認しに来たのですが、心配は要らなかったみたいなのでご挨拶だけ、何卒よろしくお願いします」


「ウィル様、なんでしたら他のご依頼も出されてはいかがでしょうか?」


「と言っても、後必要そうな人材は運搬業務と警備業務だけです」


「構いませんよ、どのようなご依頼だろうと案件があればあるほど当方として助かるので」


「じゃあ、今言った二つをあのチラシの募集要項に追加しておいてください」


「かしこまりました」


 若干乗せられた面はあるが、僕はこれで立ち去ろう。

 あとはチラシに書いてある通り、応募者は面接して決定する。


「待ってよウィル」


 立ち去ろうとする僕の手を、ビャッコが取っていた。

 ひんやりとしていて肌合いも滑らかだ。


「さっきの仕事については後日連絡するので、今は見なかったことにしてください」

「今月ピンチなんだってば! 仕事引き受ける代わりにちょっと融通を」

「きりがないんですよ、そういう話には。自分でなんとかしてください」


 彼女と押し問答していると、エレベーターがやって来た。

 中には相変わらずライオン頭の彼がいる。


「ん? 俺の妹と何してんだいきり坊主」


 彼はビャッコの兄貴だったらしい。

 ビャッコから無理やり掴まれた手を振り払おうとしたけど、彼女は離さなくて。


「兄さんからもお願いしてよ」

「何をだ?」


 彼からも圧迫をねだっていたので、僕はエレベーター内に逃げた。


「一階、お願いします。ビャッコもとりあえず乗って」

「おう、一階だな」


 ゴウン、という機械音が鳴り、下へと向かう。

 エレベーターが一階に着くと、僕はビャッコの兄に首根っこを掴まれていた。


「とりあえず近くの店で話そうぜ、いきり坊主。妹を傷物にでもしたんだろ?」


 なんでこうなるの。



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