第7話 商談後は教会へ
地元のギルド組合支部で師匠のルドルフとよき仲にあったマケインは、その後、本部への栄転が決まり、僕とは本部の立派なオフィスで偶然再会した。今はマケインのはからいによって僕は王都に持つ店の内装工事を前オーナーのヘドウィグを交えて話し合っている。
「卵の専門店か……存外、いけるんじゃないか? なにせこのプリンは旨い」
「プリンが気に入りましたかヘドウィグさん、私の分も差し上げますよ」
「いいのかい? なら遠慮なく」
マケインはヘドウィグに僕から貰ったプリンを渡すと、少し笑っていた。
「はは、私はその昔、ウィルのプリンの愛好家として食べ過ぎたくらいなので」
マケインが地元にいた頃は、僕のプリンをよく購入しに来てくれたものだ。
ここへの栄転が決まった時、マケインは挨拶しに来た際も大量に購入していった。
「ウィルが王都で店を持つと言ってくれた時は、また食べられるのかとちょっと感動しましたよ」
「ありがとう、そう言ってもらえると勇気が出るよ」
そんな訳で、僕はさっそくお得意様を一人確保できたみたいだ。
幸先がよくて助かる。
「工期はどれくらいかかりそうですか?」
と、内装工事の担当のエドに尋ねると、彼は腕組みしつつ答えた。
「明日から取り掛かったとしても、大体一か月半かな」
「わかりました、詳細なお見積もりは後ほど送ってくれると助かります」
一か月半か、おおよそ思った通りの工期だな、よし。
僕が想定していた思惑以上に事が順調に運んでいるので、内心喜んでいると。
マケインが口に手の甲をそえて、二人に余計なことを言っていた。
「お二人とも、予算は盛大に吹っかけてもいいですよ? ウィルは持ってますからね」
マケインが空いた片方の手でお金のジェスチャーを出すと、二人は「おぉ」と感嘆している。
「余計なこと言わなくていいです、それよりもこれお願いします」
「すみませんウィル、これは……アルバイト募集のちらしですか?」
「僕に与えられた期間は一か月半。その間に仕込みたいんです、ギルド組合を伝ってその募集を出してもよかったですか?」
「構いませんが、ウィルが求める人材が集まるかと言われれば未知数としかお答えできませんよ」
え? そうなの?
ここは王都だし、地元よりも優秀な人材が集まると思っていた。
マケインにそのことを伝えると、彼はこう評した。
「ウィルの地元の商業都市は、ルドルフの誘致あって商才に秀でたものや職人の楽園と化していますからね。ここがいくら王都だからと言えど、あそこと一緒と考えては駄目ですよ」
そうだったのか。
まさかこの時でも師匠の名前が出てくるなんて、名残惜しくなるな。
その後も店舗の工事の話は着々と進み、僕たちは遅まきながらの昼食を一緒にした。昼食後は一同解散という流れになり、ヘドウィグとエド、最後にマケインと別れた所で教会へと向かった。
教会の前には孤児と思われる子供たちが追いかけっこしたりして遊んでいる。
彼らを尻目に教会内へと入ると、礼拝している人がいく人かいた。
その内の一人に小声で話しかける。
「あの、この教会は何時から何時まで開いているんですか?」
「んー、朝は大体九時から、夜はけっこう遅くまで」
「ありがとう御座います、ちなみに聖女様たちに差し入れしたい場合はどうすれば」
「それでしたら礼拝が終わった後、聖女様のお声を聴く時間がありますので」
ふむふむ、とすると僕も商売繁盛の意味を込めて少しお祈りしていくか。
いささか思考が不信心かもしれない。
礼拝はその後十数分続き、しばらくしたら講壇にいた聖女が終わりを告げる。
僕は先ほどの人に背中を押されて、聖女の近くに向かうことが出来た。
「フレイヤ様、この方がお差し入れをしたいと申されまして」
「それは大変ありがたいですね、ちなみに何をお恵みくださるのでしょうか?」
聖女のフレイヤは、ご高齢の方だった。
高齢にも関わらず、聖女の立場であるがゆえなのか、人々にへだたりなく接しようと言う優しさが伝わって来る。大らかと言えばいいのか、寛大、いや、恐らくこれが慈悲深いというものなのだろう。
「ウィルと申します、王都には先日やって来たばかりなのですが、これは私の店で取り扱う予定の商品でして」
そう言い、フレイヤに紙パックに入れた卵を差し出す。
中身を改めたフレイヤは慈母像のような微笑みを向けてくれた。
「よろしいのですか? 卵は貴重で高価だとお聞きしていますよ」
「はい、ですが卵は足も早いので、売れ残ったものは処分するしかありません。こうやって聖女様たちのお役に立てるのなら今後とも無償で提供させて頂いてもよろしいでしょうか」
「それは、非常に助かります、ウィル」
ということ、これで日本で問題になっていた食品ロスも多少は解決できた。
提供先がここであれば大衆の不平不満も集めにくいと思ったんだ。
フレイヤに深くお辞儀したあと、教会前にいた子供にプリンを与えたら。
「うわ、うま!」
「知らない人からものもらっちゃいけないんだよー」
「へぇ、じゃあナッシュはいらないんだな」
「そんなこと言ってないだろ!」
僕のプリンは子供たちに大盛況で、王都でもやっていく自信がついた。
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