第4話 騎士様にあーんしてもらう

「おい。起きろ。地味聖女」


 アンナはアルフォンスに起こしてもらった。


「うーん……」 


 朝だ。鳥のさえずりが聞こえる。 


「地味でおちょこちょいで怖がりで根暗でさらに寝坊助か?我が国の大聖女様にはもっとしっかりしていただきたいものだ」


 アンナたちに村長の館で朝食をいただいた。

 黒パンに豆のサラダ、チキンスープが出された。


「とってもおいしいです」


「大聖女様に喜んでいただけて感無量てございます!ああ、もうこの世に思い残すことはございません!」


 村長の大げさな喜びようには少し戸惑うが、少しでも自分が人々に幸せをもたらしているのなら、嬉しいと思っていた。


「村長。手厚い歓迎に痛み入る。だが我々はもう出発しないといけない」


「もうですか?まだいらっしゃっても……」


 村長は残念そうな顔をした。


「今日の日暮れまでに次の村に着かないといけないからな」


「でしたら、最後に教会で聖歌隊の歌をお聞きください。この子も歌うんです」


 昨日の寝ぼけたアンナの部屋へきた村長の孫娘だ。


「マルタ。ご挨拶しなさい」


「大聖女様、騎士様、マルタです。ご機嫌よう」


「お嬢ちゃん、昨日は眠れたか?」


 アルフォンスがマルタの頭を撫でた。


「はい!騎士様のおかげでちゃんと自分のベッドで寝れました!」


「よかった。今日の歌は楽しみだ」


(わたしに対する態度と違いすぎない?)


「どうした?地味聖女。俺の顔に何かついているか?」


「別に……」


「さっさと食えよ。冷めちゃうぜ」


 アルフォンスはスープもスプーンですくい、アンナの顔に近づけた。


「は?」


「俺たちには時間がないんだ。自分で食えないなら俺が食わせてやる」


「大聖女様、ずるい!騎士様にあーんって食べさせてもらえるなんて!」


 マルタが怒り出した。


「こら!」


 村長に叱られるマルタ。


「ほら、早く口開けろよ。熱いの苦手なのか」


 スープを息でフーフーと冷ました。


「あーんってしろ!」


 アンナはチラッとマリーの顔を見た。助けを求めるために。


「お嬢様、せっかくですから食べさせていただいたらいかがですか?」


 マリーはニコニコしながら言った。


「わかったわよ。ほら、食べさせて」


 アンナは口を少し開けた。


「あーんって、言え」


「いやよ。恥ずかしいから」


「あーんって、やったほうが可愛いだろ。あんたの可愛い顔が見たい」


「何よそれ……」


(こんなに可愛い、可愛いって言われたことないからどうしよう)


「……あーん」


「素直でよろしい。大聖女様、召し上がれ」


 アルフォンスはゆっくりスプーンをアンナの口元へ近づけた。金色のチキンスープが口の中へ流れ込んできた。


「おいしい……」


「よく味わえよ。次の村まで食べる物ないからな」


「うん……」


「ふふ。大聖女様、とっても可愛く見えます」


 アルフォンスがからかう。


「ほら、次ですよ。あーん」


「あーん」


 アンナはチキンスープを全部、アルフォンスに飲ませてもらった。


「……大聖女様と騎士様は仲がとても良いんですな。2人ともお美しくて、まるで天使の食事を見ているようです」


 相変わらず大げさに褒める村長。


「ほほう。天使か。天使のわりに地味だな」


(やっぱり地味は地味なんだ……)


「ずっと見ていたかったぜ。明日も俺が食べさせてやる」


 毎朝は嫌だなとアンナは思った。

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