第5話 見てはいけない深淵

清井神影きよいみかげと運命的な出会いをした翌日。俺は悲惨な光景を目にすることになった。学校中に大量のポスターが貼られていた。その内容は


「放課後の吸血鬼事件はこのオカルト部の新部長である乱場雫蓮らんばだれんが華麗に解決する」


というイタイものであった。俺の高校生活は早々に地獄に落ちた。有頂天になり細かな作戦を聞かなかった自分を殴り殺したいと後悔しながら、俺は職員室に呼ばれるのであった。

幸いにも今回の件は厳重注意だけで済んだが、放課後にも再度、呼び出されて説教を受けたために解放されたのは完全下校の時間ギリギリだった。正に放課後の吸血鬼事件を調査するのに丁度良い時間帯である。こうなることも、清井神影きよいみかげの作戦だったのだろうか。彼女の名前を出して自分の無実を主張すれば良かったと今更なが後悔する。とりあえず、部室に行って彼女がいたら説教しなければと思い、部室のある方の人気の無い廊下に足を進める。

その道中


クスクス、クスクス


と不気味な笑い声のような音が聞こえた。周りには自分以外の人の気配は無い。しかし、ソノ不気味な音は聞き間違いでなく、確かに聞こえてくる。今まで感じた事の無い恐怖が全身をかける。早くこの場から離れなければと思い、走り出すそうとしたその時

体に激痛が走り、足を止める。

背中に何かを突き刺されたような感じ確かにあるが視界には普段通りの廊下しか見えない。


ドクン、ドクン


鼓動の音がうるさい。いや、自分の鼓動の音だけでは無い。何か他のものが脈打つ音が聞こえる。自分の背中から赤い液体が透明な管を通って出ていくのが段々と見えてきた。血を吸われている。そう理解し、管の先を目で追うとそこには先程までは無色透明だったであろう化け物が俺の血によって染まり姿を現していた。ソイツは胴体に無数の触手が生えており、その先には口のような器官があった。巨大なイソギンチャクを連想させるその体にかぎ爪までついており、まさしく異形であった。


「お願い致します。助けてください。清井さん。」


恐怖により体が動かない。俺は目をつぶり情けなくも彼女の名前を必死に呼んた。最早、藁にもすがる思いだった。


テケリ テケリ・リ


不気味な鳴き声が聴こえてきた。眼前の化け物以上のおぞましい気配がする。


星の精スターヴァンパイアか。コレは僕も初めて見たな。ここまではっきりした姿を見る事ができるのは珍しいかもな。」


清井神影きよいみかげの声が聞こえ目を開ける。

視界に映った光景は少女が先程の化け物を自分から引き剥がしてくれている最中だった。その光景により更に恐怖が増す。何故なら化け物を掴んでいる少女の手は黒く大きく膨れ、とても人間の手とは思えないものだった。


「まだ許可してないのに開けちゃたね。まぁ、仕方ないか。」


彼女は自分の倍以上ある化け物を片手?で持ち上げ、笑顔で自分に語りかける。


「す‥すみません。つい目を開けてしまいました。」


貧血と恐怖で頭が回らない。とりあえず、反射的に謝罪する。


「ハハ、なんだ思ったより平気そうだね。もっとえげつなく引かれるのかと思っていたよ。正直、隠し通せるとも思っていなかったから特別に許すよ。寛太の弟だし。」


わけがわからないが許してもらえたようだ。急展開に頭がついていけない。


「ソレ、何なんですか。」


イソギンチャクな様な化け物を指差し、質問をする。


「あー、コレはね。星の精スターヴァンパイアって言ってだね。生き物の血を啜る地球外生命体ってところかな。普段は不可視なんだけど食事をするとその血の色に染まるから見えるようになるんだよ。」


「どうするんですかソレ。閉じ込めとくのも難しそうですし。」


「う~ん、このまま潰すと後の処理が大変だし、仕方ない、あんまりやりたくなかったけどこのまま飲みこむか。」


そう言うと彼女はソノ化け物を掴んでいる黒い腕を更に肥大化させて化け物の体を覆った。その後、ソレは段々と縮小していき、綺麗な少女の手に戻った。本当に何が起きているのだろうか。とりあえず、何となく彼女について深掘りするのは危険に思えた。


「地球外生命体って。何でそんなモノがこの学校にいるんですか?」


「十中八九、寛太の遺品を盗んでいった魔術師気取りの連中の仕業だろうね。何がしたいのか理解に苦しむけどね。せっかくだし、本人に聞いてみようか。」


そう言って、彼女は廊下の突き当りの階段の方に顔を向ける。


ガタッ


それと同時にその方向から物音がした。自分以外にも人がいたのだ。彼女は華奢な少女とは思えないスピードでその音の方に駆け出すと、今度は手を黒く長い鞭の様な触手に変化させ謎の人物に巻きつかせてた。


「離せ、化け物。助けてくれ。」


捕獲された人物は叫び、暴れる。よく見るとその顔に見覚えがある。確か、兄の葬式に来ていたオカルト部の部員の一人だ。


バサッ


一冊のノートが地面に落ちる。拾い上げ内容を見ようとした時


「見ない方が身のためだよ。」


と黒い触手に取り上げられてしまった。


「あー、コレは紛れもなく寛太のノートだね。解りやすく翻訳、解説されているせいで下手な魔導書よりヤバイね。常人には目の毒。」


ノートを見ながら彼女はそう呟く。兄のノートを見たい気持ちはあるが、彼女が言う通り常人が見てはいけないモノなのだろう。もう既に遅い気もするが。


「さて、君の目的は何だったのかな。このノートが出てきた以上はただの通りすがりってのはダメだよ。アレを使役して何を企んでいたのかな。正直に話さないと‥」


彼女のもう片方の手が変化し、人一人を丸呑みにできそうな不気味な口が出現する。


「解った。話す、俺達は‥」


恐怖に負け自白を使用としていた男子生徒が突然、気絶する。


「清井さん、力入りすぎてたんじゃあないですか!?」


「いや、違う。魔術によるセキュリティ見たいなヤツだね。恐らく、黒幕に関しての記憶も消された。このノートを回収できただけでも収穫か。」


つまらなそうに気絶した男子生徒を解放する。


「さてと、また噂話の収集からか。」


「えっ、兄の遺品ってこのノートじゃあ無いんですか?」


「それも間違い無く寛太の物だけどもっとヤバイのが沢山あったからね。多分、まだまだ変な事件が沢山起きるだろうね。」


本気マジですか?」


本気マジです。無論、協力してくれるよね?それとも死にたい?」


「‥‥是非とも協力させてください。」


「それではよろしく。弟くん。」


こうして俺の悲劇の幕は上がった。しかし、


「あの、一つだけお願いしてもよろしいでしょうか。」


「何だね。言ってごらんよ。」


「弟くんでなく、雫蓮だれんと呼んでください。」


このような要求をするぐらい。初恋の相手と瓜二つの彼女に惹かれていたの事実であった。多分、自分はとっくに狂気に呑まれているのだろう。


「解った。君も僕の事は神影みかげと読んでくれ。清井はやはり何かダメだ。」


いつの日か彼女と兄の秘密を解きあかせる時はくるのだろうか。





「ねぇ、知っている?この学校には怪異を食べる化け物がいるんだって。」

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追憶の狂気(ついおくのこい) しき @7TUYA

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