7.青の薔薇




「ではでは皆さまご拝謁!海の女領主、我らがローズ様の御成である!!」



そんな声が響き渡って、扉の向こうから海をモチーフとしたドレスに青いバラの髪留めをつけた女性が現れる。彼女の側近達は頭垂れ、テノールは私の横から軽く会釈した。

ジドさんも使者らしく敬礼し、皆さま大層ご満悦の様。しかし、私が頭を下げずにニコニコとわらっていたので無礼者!なんて罵声が飛ぶ。


特に彼女の一番の側近、アルト・ピアニッシモが私へ向ける嫌悪の視線は凄かった。またまた音楽音楽した名前だが、どうかそれは許して欲しい。

フォルテッシモは父方の姓。ピアニッシモは母方の姓。そうなのです、なんとテノールとアルト君は実の兄弟だったりするんだなぁこれが〜。



「おやめ、お前達。ワタクシのお気に入りにそんな言葉を投げかけるのは無粋というものだよ。」

「しかしローズ様!」

「控えよ。我らが主人が良いと言っているのが聞こえないか。」

「しかしアルト様!」

「あはは、しかししかしばっかだなぁ。そりゃこんな中にいたらローズも私で息抜きしたくなるよ〜!」



瞬間いくつか殺気が飛んで、ジドさんが顔を引き攣らせた。っとっとっと〜、失言失言。それでも変わらずにこにこと嗤っておく事は忘れない。

ローズ、それとアルト君も。お前達がそんなんだから何時も無理をしてしまうのだ。後者はまぁ、個人的な理由で嫌われてるのでそんな事言うとお前が消えてくれれば事は収まるとか言われそうだけども。


ヒラヒラと手を振れば親でも殺されたかの様な顔で睨まれるのはいつもの事。本日はテノールがいるので嫌味は飛んで来ない様だ。ふむ、これはラッキー。

すかさず鏡の森からのお土産と、要件を伝えては彼等の様子をじっと見守る。案の定またもや上がった周囲の怒声にだよねぇなんて思ったのは言うまでもない。


けれどそんな側近たちとは裏腹に、海の女領主はふふりと綺麗に笑うのだ。それから、私をじっと見つめる。だから私もにこりと丁寧に微笑んだ。



「ルネート。まずはワタクシの好きな物を有難う。しかし、お前はワタクシとあの男の関係を知っているね?」

「承知の上ですよ。」

「それでも兵を寄越せというのかい?」

「はい。」



負けじと見つめ返せば、彼女は色っぽい仕草でほぅと一つ、息をついた。

あの男、やはりいけ好かぬ。そう続けて放たれた言葉に緊張が走る。彼女と師匠は犬猿の仲。そんなものこの場の誰もが知る事だった。


ルネートと、もう一度偽名を呼ばれて返事をすれば一体どれだけの大金を積まれたんだい?というお茶目な問いを投げかけられて。

それにノーギャラですよ、ノーギャラ。やってられませーん。なんておちゃらけた調子を崩す事なく返答したら、ジドさんが隣でまたかなり狼狽えていたのでワザと首を傾げておいた。

おま、それ、いやまてとか言葉になってなくてテノールのため息が聞こてくる。え、大丈夫だよ。ギャラについては守秘義務ないし。ほら!ローズも素直でいい子って言ってくれただろー?ほらほらぁ〜。


うん。とは言っても、そんな私の非常識をアルト君は許さなかった様だが。

彼はこちらをまた一睨みしてから周りの取り巻き達を黙らせていたけれど、領主が上座から降りたと同時にパッと駆け寄ってきて実務に戻っている。

ローズ様!自ら動かずとも!なんて。ああ側役が板についていてなんとも言えん。あの臆病な子がなぁ、よくもまぁこんなに立派になったよなぁ。



「さて。お初にお目にかかる、使者殿。ワタクシは海領女主人のローズ。ふふ、青い薔薇はお好きかな?」



それはそれは美しく、にっこりと笑いながらドレスの裾を軽く引いた彼女へジドさんは圧倒されていた様だった。わかる。

とりあえず放心状態の彼を肘で突き、我へ返らせては案の定慌てて名乗る門番にケラケラと笑う。その林檎の様な顔はとっても年相応で、はは、よかった。お姉さんてばそろそろ君の年齢疑おうか悩んでたの。


しかし、そんな微笑ましい空気も周囲の波打つ動揺によってかき消されてしまいさぁ大変だ。

ジド・アルマ。ああこれは非常に不味い。どうやらバジリスクの話は遠いこの地まで届いていた様で、彼と目を細めて嗤った領主との間にすぐさま入らせて頂いた。

誤解しないでほしい。仕留めてはいないと。そう言ったら彼女は目を伏せて、知っておるよと静かな声で私に呟く。


とても小さな、ちいさな声だった。何かを諦めているかの様な声音に思わず顔を歪めてしまう。けれど、きっと彼女はそれを隠したがるだろうから。

だから私は敢えてヘラヘラした表情に戻しておいた。なのに。



「なんと其方がかのジド・アルマ!あのバジリスクに我らの武具無しで戦いを挑み、生きて帰った者だな!」

「勧誘されていたとは恐れ入った。山からの使者になっているとは!」



頭が痛い。主人の変化に気づかぬ周りの連中共は次々に彼への賞賛を述べてしまったのだ。

彼女を見れば無表情のままジッと様子を伺っている。此方をではない。おそらくあの貴族みたいな煌びやかな装いをし、仮面をつけた側近達を、だ。


なので取り敢えずはジドさんへ向く不穏な空気を収めてくれると解釈しても良いのだろう。まあ。矛先が違う方に向いたという点だけは不幸中の幸いである。

因みにテノールへ目配せすれば耳栓の準備をしていたので信じられなくて二度見した。おお、あれを見てみよ!とそんな声が響いて理由を悟る。

まいったな、この続きは出来れば私も聞きたくなかったぞ。二つは無いよねそうだよねー。



「素晴らしい!!あの度重なる負荷にも耐えられそうな皮膚素材!」

「毒の効きにくい体質なのかもしれん。血液を採取し道具へ浸してはどうか。」

「いやいや勿体ない!あの蛇と張り合えるだけの身体能力だぞ!肉片を各属性の検証に役立てるべきだろうよ!」

「体液、唾液でも良いな。絞り尽くしてしまえば良いのでは?」

「待て。精巣から遺伝子情報を採取し複製を作るのはどうか。確か淫夢のコピーモンスターがいた筈だ。戦わせるのは有りだぞ。」

「おいあれ、俺の話か、?」

「うは。思ったより具体的ぃ。」



流石にお前だけはズルイだろうと耳栓は回収させて頂きました。そうしたら我が部下はイライラしながらも嫌悪の感情をため息に混ぜ込み、奴らを睨み付ける事へと方向転換した様だ。

始まってしまった人権総無視で続けられる会話に初回なジドさんはドン引きしている。アルト君もこう言う時、テノールとそっくりな反応をするので止めたくても止められないのだろう。

海の身分制度について詳しくは知らないが、彼等の立場は完全に独立しているのだとか。ううん、今度詳しく調べてみようかな。


相変わらず口元だけが見える仮面達の思考は硬いどころか腐っていた。けれど勿論此方に暴走する奴等を黙らせる術はなく、ふふ、困ったな。わたしってばこの手詰まり状態を意図した訳では無いのだけれど。

腕を組み、とん、とんっと人差し指でリズムをとればぎょっとした様に門番が此方を振り向いたがいざ知らず。内心を隠して笑みを深めるも不気味な議論は白熱し、馬鹿な奴らは己が主へそのまま進言する始末。


ローズ様!彼を条件とし兵を貸し出しては如何か!でなければ寝返ってもらい海の使者としてしまおう!そうだそれが良い、そうして我らの武具を装着させればこの世の最高傑作ができあが



「黙りぃや」



痺れを切らしたのは、彼女だった。


青い髪留めを瞬時に三叉の槍に変え、その底で地面を打つ。ドンっ!っと衝撃波の様なものが彼女と私達の周りから発せられ、綺麗な絨毯ごと地面が抉れて周囲に破片が飛び散った。

途端に鎮まり返る場へ目もくれず、靡く髪すら気にしないでローズは隣国からの使者へと深く頭を下げていく。すまない、彼らに悪気はないのだ。どうか許してやってほしいと。


けれど、主人がそこまでしているのにも関わらず、やっぱり仮面達は駄目だった。何をしているのですか。領主が簡単に頭を下げるなど。そもそも奴は山の者。我らの邪魔ばかりする者に敬意など必要無いだろう等々。

いや完全に悪気ありますやんとか心で突っ込んだのはジドさんもだったらしい。あんた、苦労してんだなと寧ろ少し心配そうな苦笑でこの場を収めていた。


アルト君はそんな彼に複雑そうな表情を隠しもしないで軽く会釈しその場を去る。きっとあの今にもこちらに物でも投げてきそうな野次馬共を止めに行ったのだ。つまり、これこそが移動の合図である。

コツコツと領主が歩き始めたのを見て、今まで沈黙を貫いていた執事達は私達を隠れ部屋の様な場所へと誘導した。

ソファ上の古びた可愛らしい人形をそっと退け、人払いをしては全員が座った後。彼女はその優雅な仕草をやっと止めてくれた様で少し安心する。


ぐっと伸びをし、両足をパタパタさせては髪の毛を掻き上げる我らがローズ様。

その姿はまるで幼子の様、なんて思ってたらテノールが手慣れた動作で側に用意されていた紅茶を注いでくれる。あ、お菓子付きである。やったねチョコチップだわーい。



「ダァーーーもう信じらんなぁーい!ホントうちのがごめんねー!!」

「、は?」

「最っ悪。せっかく髪綺麗に纏められたのにグチャグチャじゃない!」

「まぁまぁ、それより今回のドレス似合ってたよ〜。作ったの?」

「わ、有難う!そうなの、こっそり余ってた魚介モンスターの素材をちょちょいとね。綺麗だしこの露出にしては防御力が高い!瞬時に出てくる薄い膜は鉄すら防ぐ一級品!どうよ!!」

「さっすが〜!そもデザインのセンスが良き良き〜!」

「でっしょー!?」

「、?はぁ!?」



そんな女子同士話をきゃっきゃと盛り上げてたら隣から瞬時にタンマがかかった。先程とは打って変わってキャピキャピしだしたローズ様にジドさんが顔を引き攣らせながら百年の恋も醒めた様な表情を作っている。

あ、こっちが素なの。御免ねってウインクしたローズの隣でやーい、ざまぁ〜!なんて言うと頭を叩かれた。テノールはそれすら慣れた様子で黙々とクッキーを食べている。お前、知ってやがったな!なんて言う門番にテへペロしてやったらガチ切れられたからホント困る。痛い痛い!ほっぺたのびる!!いいじゃんか~!!


ローズはそんな私達を見て、一人くすくすと綺麗に笑っていた。ジドちゃんたら馴染んでるね~!私も敬語無しで良いわよ、なんて零す彼女に今度こそ彼は絶句する。確かにチャン呼びはやばい。めっちゃおもろいわ。

流石に可哀想になってきたのでお優しい私はジドさんの口にお菓子を突っ込んであげる事にした。青い顔のままむぐむぐと食べたクッキーから少しは糖分を得たのだろう、正気を取り戻した山の使者はごほんと咳払いし、此処へ訪れた本題にやっと入ってくれるらしい。


どうか、力を貸してくれ。海の力が必要なんだと。当然そんな愚直な言葉に驚いたのは向こうの気さくな領主様である。

え、何この子。ほんとにあのヒルダの部下なの?騙してる??そう間一髪で問うてきた彼女にウンウンと頷いて分かる~、でも本当~。なんて緩く答えれば今度はローズがとても困惑した様だった。



「まてまて、あんた達の中で長は一体どういう人なんだ。」

「皮肉屋?」

「鬼畜!」

「冷淡。」

「非道!」

「嬢ちゃん元気よく手をあげるんじゃない。」

「はぁい。」

「あとは、うーん。女たらしかな。」

「?そうなの?」

「そうよ。だって私領主モードの時に口説かれたもの。鼻で嗤ってやったけど。」

「、初耳ですが?」

「誰にも言ってないからね。随分前の事だし。」



テノールが聞き捨てならぬと突っ込めば、ケロリと過去を語る彼女にジドさんは頭を抱えてしまった。なははん、大丈夫大丈夫。かく言う私もあの領主様モードを初めて見た時はほんっとドキドキしたのであれは皆の玄関マットなのさ。気を落とすでない。

というか口説いたって私も初耳。あの人マジで何やってんだよなんてボヤキつつ、私はそんな師匠と事前に話し合っていたアンズーについての詳細をローズへ伝えていった。


内容は気候云々にこれから行う討伐戦力。拠点までに出会うモンスターとの力量差。あと、速達の情報も提供は惜しむなと言われていたのでその容姿と被害状況、その他それに伴うアンズーの行動予測等。大凡二時間ほど話し込んだだろうか、彼女は真剣に此方へ耳を傾けてくれていた。

実に好感触。そう思ったのかジドさんは少しだけ肩の力を抜いて微笑んでいる。ローズも彼を気に入ってくれた様だし、広間での不穏な空気は出さない。うんうん、有難い事だ。



「なるほどアンズーね。私お手製の結界器具をぶっ壊してくれたからどんな奴かと思ってたけど、まさかねぇ。」

「完全孤立してる今がチャンスなのは間違いないよ。モンスター同士手を組むなんて知能はあまりないと思うけど、もしそれが実現されたとしたら皆殺しってね。」



サハドの現状を思い出しながら言えば、自然と声のトーンは落ちていった。

チョコレートが甘ったるくて気持ち悪くなる。私がこのお菓子を食べている事と同じように、モンスター達にとって人間はどこまでいっても食料でしかないのだ。


口直しに紅茶を頂けば、テノールが横で頷き同意を示す。我らがアクロスは運び屋であるが故にモンスターと出くわす事も多い。だからこそ奴らが徒党を組む脅威について、他の誰よりも把握していた。



「僕も巣を作る前に動くというのには賛同します。家を作れば生き物はそこを守ろうとするのが自然の摂理ですから。」

「、一理あるわね。」

「山は準備が出来次第、今動ける人員総動員させて仕掛ける予定だ。幹部達がその日までに集まれれば良いんだが、。」

「テノール、アンズーの位置は絞れてる?師匠は一気に叩く気でしょう。潜伏できる場所はありそう?」

「まだサハド周辺を徘徊しています。砂ばかりで厳しいですが、町跡のお陰で少しは。」

「あら、意外と深く手伝うのね。もしかしてアクロスも参戦するのかしら?」

「黙秘権行使します。ほら、想像して?何せ相手は単体化け物ちゃん。人類の勝算ガチ低だしなー。でもお手伝いしなきゃ人でなし確定だしなー。」

「筆頭、溢れてる。拭きなさい。」

「すいません」

「素直かよ。」

「うへぇ、」

「ふふ、なるほどね。さーて概要は分かったわ!ありがとう。」



幼い仕草のまま、妖美な笑みを浮かべる彼女はやはり領主であった。うむ、師匠といいローズといい、領主達はさくっと詮索してくるから怖いなぁなんて。いや私の危機管理不足か失態失態。

こうなるから筆頭だなんて向いてないんだよなぁと考えてたら、隣からジトッと睨まれたので洒落にならん。げ。ごめんよお母さん。頼むからお小遣い減らさないでね!


普通にミスったわぁなんて猛反省しているとローズがこくりと一つ頷き、じゃあ兵の話なんだけど、と軽く本題の解答に入ったらしい。瞬間に空気は冷え、ジドさんがごくりと唾を飲み込む音がした。

全員の視線を集めたローズといえば、空になったコップをくるくると掌で回し遊んでいる。虚ろな中に見える青。あ、この雰囲気ってばやっぱり?



「お断りするわ。」

「なっ」



ですよねー!なんて明後日の方向を眺めてしまったのはご愛敬である。まるでカラオケの誘いでも断るかの様に又もやケロリと言い放つ彼女へ、ジドさんは露骨に顔を引き攣らせていた。

そこをなんとか!なんて駄目元でお願いしてみたけれど、やはりローズは断固として首を縦に降らない。テノールは言わんこっちゃない、とでも言いたげな苦い顔をしていたから、話を援護してくれたにせよ彼も同じ事を考えていたんだと思う。



「どうして!」



ジドさんの声が、ただただ眩しかった。


目を伏せて少しだけドキドキする心臓を黙らせる。なんて事はない。想像できていた筈だろうと自分の中で誰かが囁いた気がした。

だって、そんな簡単に事が運ぶのなら師匠だってワザワザ保険を掛けたりはしない。私が此処にいる意味、ローズと側近達への会見。残念ながらジド・アルマという今回の主戦力である青年ですら全て一つの意図に集約されている。



『アンズーを殺すぞ。手伝え。』



思い出せ。勿論兵を貸してくれたら万々歳だけれど、無理であると見越したからこそ彼はジドさんを彼女に会わせてやれとこの私へ言ったのだ。

現に道中の領土横断云々は兎も角、バジリスクの事を事前に知って彼を敬遠していたローズ。そんな領主の元へジドさん一人で向かわせても門前払いを食らっただろう。

仮に無事会えたとしても、兵の話を出して公に断る様に仕向けねば彼女個人の僅かな協力とて側近達が黙っちゃいない。だから、全てはこの流れこそが山の領主の考えるシナリオという訳である。


パチリと目を開き、師匠は本当に罪な男だなって思った。

必要とあれば情を捨て、例えそれが悪と言われる所業に近かろうと確実性を求め実行できてしまう人間。食わせ者過ぎて恩人で無ければ関わりたくない人種である事に違いはない。

勿論、そんな彼の指導があってこそ、この世界について何も知らなかった私は生き残れているのだが。


しかしこれまたどうした事か、そんな男の意図に気づかぬ哀れな青年は、その手に踊らされたまま海の女主人へと血相を変えて問うていた。

内容はあの時の言葉をそのまんま。拡大範囲が広がればそちらにも被害が大きいはず。いくら防衛に徹したとてこのままでは埒がなく、更なる被害が重なるだけだと。とても必死な様子に絆されてローズも苦笑を溢している。

彼女も間違いなく、この後に続く此方の個人的な要望について粗方想像はついているのだ。そしてきっと、ここまで真剣に聞いてくれたのはそれを承諾したからに違いない。

だから態々丁寧に断った。なのにこの中で一人、ジドさんだけが分かっていないその理由は、おそらく。



「お綺麗過ぎて反吐が出るな。よくもまぁそこまで他人の命を守りたがるものだ。」

「っ」

「大概にしろよ貴様。ローズ様が困っている。」



ひやりと、音も無く背後からジドさんの首筋に短剣が添えられた。

気配の消し方は流石だとでも言っておこうか、私も少しだけ警戒心を思い出して我が部下の隣にすぐさま移動しておく。案の定彼も私を守ろうと一歩前に出たみたいだったから丁度良い。


アルト、とテノールが小さくその子の名を呼んだ。その声を拾ったのか、八つ当たりの様に苦々しい顔を隠そうともしないでローズの一番の側近は山の使者を睨み付け、言い放つ。



「我らはあの男と相容れぬ。結束などできるものか。」



続いたそんな言葉とその表情に、女主人が視界の端で目を伏せたのが、みえた。








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