雨がなんだ!

紫陽花の花びら

第1話

 改札を出ると雨音が煩いぐらいに泣き喚いている。電車のなかで見たときより、酷い降りじゃないの。……いやぁおあつらえ向きの雨足だ! このモヤモヤした気持ちを流してしまえ。そうだこんな時は、ずぶ濡れになるのが一番なんだって私は知っている。

お気に入りの蒼いビニール袋を鞄から出して値段の高い鞄を入れる。高いんだから濡らすなと母さん煩いからさ。どいつもこいつもまったく……うるさい! うっっさっき学校であった事が蘇る。

 然し、腹立つゎあいつ! みんなで笑うなんて最低だよ。

ただ、あいつが教科書忘れたって言うから、隣だし見せようかって言っただけなのに。アッコが馬鹿にしたように笑い始めたら、みんなで笑い出した。選りに選ってあいつまでが。私は結構あいつとは仲の良い方だと思っていたし。

だから……笑われるなんて思ってなかった。

だいたい可笑しいこと言ってない。親切心と、それから……それから……あいつの事が少し好きなだけだ。だから余計悲しかったのに。あいつは人の気も知らないで、ヘラヘラしながら適当な屁理屈を捏ねて、結局当たり前のように見せろと言ってきた。バ~カ。  

 そりゃあいつはクラスの人気者だし、悔しいけどなんでも出来る。顔も良いよ! それに比べて、私なんぞは普通だよ何もかもね。うっ分類はブスかも。それが悪いか! ふざけんなって。金輪際何かあっても助けないと決めたんだ。けど、はあ……もう良いー。もう誰とも話さないから。

だって私は私だし。それに! それに! 絵を描く事なら誰にも負けないぞ。あいつにも、ばかアッコにもな。フンだっ! よし! 行くぞ! あれ? 誰だよ! 引っ張らないで! 危ないでしょう。

「おい! ばか! 傘は?」

誰? 後を振り返るとあいつがいた。何故いるのか? 訳判らんよ。

「離せ! 触るな!」

「嫌だね! 馬鹿をほっとけない!」

馬鹿だと? 怒りがぶり返してきた。

「離せよ! また笑うんだ! 明日クラスで大笑いするんでしょ。

こいつ雨の中走ってやがったとかなんとか言ってさ」

「そんな事を言わない。言うわけない。それからさ、本当さっきはごめん」

私は、あいつの声を投げ飛ばし、

掴まれた腕を思いっ切り振りと解くと一目散に走り出した。

「おい! 待て!」

ザァーザァーと降りしきる雨の中

走り出したのは良かったんだけど。方向が拙かった。より良って家とは真逆へと走ってしまった私。馬鹿か? だんだん制服が重くなる。靴が……脱げそうだ! 痛っ! あろうことか転んだ。

「ハアハアハアハア、速いよお前」

私は痛いし、悔しいし、悲しいしで怒りが爆発した。

「煩い! しつこい! 阿呆! 変態!」

その瞬間、体が浮いた。

あいつが私を抱いている。

「暴れるなよ! この辺りに公園があったな」

「あるよ。……そこ右に曲がって。坂道少しおりると、ある。 ち、ちょっと降ろして! 重いから!」

「煩いよ! だからこそ暴れるな。こうさせてよ……好きなんだ」

「はあ? いやいや何言ってるの?」 

「嘘じゃない。今日は本当ごめんなんか恥ずかしくてさ。アッコは知ってるんだよ俺の気持ち。だらか煙幕張ってくれて」 

「煙幕って……そんなもの張るような事だった? それにあんな馬鹿にする?」

「あいつも謝ってた」

「篠原に言われても本人じゃないし」

「明日ちゃんと謝るって言ってたよ」

「なあ、許してくれる?」

そりゃ許したいけど、あんなに怒りまくった後だから、そう簡単には良いよとは言えない。

それより早く公園行きたい。この濡れ鼠状態をなんとかしないと。

でも、首に巻き付けている腕に少しだけ力を入れてみた。

「そう、ちゃんと掴まってて。 もっと強くても良いよ」

あいつは屋根のあるベンチに私を降ろすと、

「なっ、告白させてくれ。頼む」

そんな……今?……ふたりしてこの状態なのに、篠原の真剣な眼差しにやられた私はコクリと頷いた。

あいつは私の真っ正面に直立不動で立つと、

「佐々木瑞希さん。俺篠原颯は

あなたが大好きです。付き合って下さい」

応えられない。怖いの。本当なの? その気持ち。

「怖いよ。揶揄ってないよね」

「なあ、いくら何でも好きじゃなきゃ、ここまでしないよ」

泣くか! 泣かない! でも……ずっと好きだったから。

もう~嫌だ~全部ぐちゃぐちゃだよ……。

「ねぇ……なんで今日あんなに笑ったの? それにブスだとか、きもいとか言ってさ。酷すぎる」

「それは……枡がさ、颯はいつも教科書忘れるけど……佐々木の事好きなんじゃない? とか言いやがって。確かにわざとだけどね、そんなことあの時公表それたら、まじ瑞希に嫌われると思って……そしたら、アッコもそれが聞こえていて、助け船出したって後から言われた。それと、瑞希を追いかけろって言ってくれたんだ。良い奴だよ」

知らなかった。アッコごめんなさい。それに篠原もごめんね。 

「ところで瑞希、さっきの返事聞ける?」

「……篠原……好き」

ボソッと呟いた私の肩を黙って抱いてくれた篠原。

「俺は大好きだから。俺の勝ち」

泣き止めない。

涙が止まらない。

鼻水がでるよ。

「瑞希! 鼻拭くなよ……なんてな。何拭いても良いよ」

幸せな時間だった。だか然し、 翌日から私と颯は熱を出し学校を一週間休むことになってしまった。まあでもね、その間ビデオ通話をしながら結構楽しんだ私たちだった。


 フフフ。あんな事こんな事そんな事を思い出していた私。

ああ~懐かしい。私の隣には今も颯がいる。

ねぇ……颯……。

「瑞希~もう寝ろ~明日は早いぞ。八時入りなんだから」

「うん判ってる。颯……好きだよ」 

「俺は大好きだ! 俺の勝ちだな」

「もう颯は~」

「おいで……瑞希」

颯は肩を抱いてくれた。

あの日と同じように。

ううん。もっともっと強く抱いてくれている。いつだって。

 愛してるよ! 颯。死んでも愛してる。だから私の勝ち。

ううん……そんな事をどうでも良いくらい愛し合っている私たちは明日結婚するんだね。






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