第39話 黒幕の正体? ~エリでも、ましては世界樹でもなく

 重い。

 僕に課された責任とか希望とかが。

 しかしだからと言って逃げる事は出来ない。


 それに考えてみれば、やるべき事はこれまでと変わりない。

 エリやマキとともに此処で生き抜く事、それだけだ。

 採取をしたり道を作ったりしながら、此処で生活していく事。


「わかりました。ありがとう。エリもマキも、これからも宜しくお願いします」


「こちらこそ宜しくお願いします」


 お互い頭を下げる。

 浴槽内で全裸で。


 絵面的には色々間違っているような気がする。

 きっと『裸の付き合い』をエリが文字通りに解釈してしまった結果だ。

 訂正するのも今更なのだけれども。


「正直なところ、この実験についてハルトに明らかにしていない事はまだあります。しかしこの段階では私やマキからは、これ以上の事は言えない状態です」


「それは仕方ないです。世界樹ユグドラシルとしてもそれなりの事情があるでしょうから」


 世界樹ユグドラシルがしている実験は残酷な行為だとは思う。

 しかしそれは世界樹ユグドラシルのせいでは無い。

 そう設定した命令者が悪いのだ。


 そうだ、その事について聞いてみよう。


「ところで世界樹ユグドラシルを管理している、または世界樹ユグドラシルに命令している人間というのはいるのですか? いるとすれば何処にいるのでしょうか?」


 苦情を出すとしたらそっちなのだろう。

 出せるかどうか、出す方法があるのかはわからないけれども。


「現時点では管理している人間はいません。

 世界樹ユグドラシルという機構システムは遙か昔、地球上に人間が住めなくなった頃に作られたものです」


「その際、地球上に人類が生存可能な環境が再び戻った事をトリガーにして機構システムが自律的に起動するよう設定されました。現在の世界樹ユグドラシルはそうして起動されたものです」


「宇宙空間に出た人間は今も太陽と地球のラグランジュ点3にある構造群コロニーにて生存しているものと思われます。ですがそちらからは世界樹ユグドラシルへの関与も通信も、その他一切の干渉も存在しない状態です。


 既にそちらの人間社会は閉塞し孤立した状態で安定化した、そう世界樹ユグドラシルは推測しています。ですので世界樹ユグドラシルが行っている地上移住に関わる事はない、そう判断しています」


 つまり苦情の宛先は存在しないという事か。

 そして人に作られた機構システムである世界樹ユグドラシルは、今日も命令通り65535個の実験場で実験を続けている。

 巫女や巫といった犠牲者を出しながら。


 僕に出来る事は現時点ではひとつしかない。

 僕がいるこの実験を成功させ、地上における新たな生活の雛形テンプレート作製の為の例を増やす事だけ。

 

「それで、私とマキからハルトに御願いがあります」


「何でしょうか?」


 こんな状況なのだ。

 何でも聞いてやりたい気持ちになっている。 


「私達をもし好きなのなら、今後も一緒にやっていっていいと思って貰えるのなら、少しでも私達を安心させて欲しいのです。安心の積み重ねが欲しいのです」


 何かとんでもない事の予感がする。

 しかしエリの言っている事は理解出来る。

 だから僕は頷くしかない。


「わかりました。それでどうすればいいですか?」


「私達を愛して下さい。心という見えない部分だけでなく、肉体的にもわかる方法で」


 うん、え、ええっ!

 つまりはエッチしろという事なのか! それも2人両方と!

 初体験は3Pだった……そういう事になるのか。


「勿論私やマキの一方的で勝手な御願いです。でも少しだけでもいいから安心出来る事実を積み重ねたいんです。駄目でしょうか」


 望むところだ、というのも事実だ。

 でも何と言うか、心の準備が……

 しかも全裸で言われると、こう何と言うか破壊力が……


 しかしここでエリやマキを不安にさせる訳にはいかない。

 つまり僕がとれる答は1つだけだ。


「わかりました。僕もエリとマキが大好きですから」


 でも此処からどうすればいいのだろう。

 いきなり風呂場で3P開始だろうか。

 そんなシチュエーション、残念ながら僕の知識には存在しない。

 確かに全裸なので可能だし簡単なのだろうけれど。


「ハルトの部屋に行きましょう。此処よりハルトのベッドの方が適切な場所だと思料されます」


 マキがある意味正しい事を言ってくる。

 確かに初体験は風呂よりベッドの方が適切だろう。

 しかし問題がひとつある。


「確かに此処よりベッドの方がいいとは思います。でも僕のベッドのサイズでは3人は狭い気がするのですけれど」


 ベッドは普通のシングルサイズにしてある。

 せめてセミダブルにしておけば……


「問題ありません。風呂に入った時点で世界樹ユグドラシルに頼んで、ハルトの部屋とベッドサイズの拡張を行いました。既に準備が出来ています」


 おいマキちょっと待て。

 それはつまり、僕がうんという事前提で話を進めていたという事か。


 見るとマキの表情、例のドヤ顔になっている。

 そう言えば風呂を拡張したのもマキだった。

 ひょっとしてこういったエロ的な事の黒幕は全てお前なのか!

 そう言いたいが今の状況では言う事が出来ない。


「布で拭かなくてもExtエクステンディッドUQユビキタスで水滴その他を払えばいいでしょう。

 それとも前戯としてお互い身体の拭き合いをした方がいいでしょうか?」


 マキ、お前な……


ExtエクステンディッドUQユビキタスでいいでしょう」


 僕は2人とともに風呂場を出て、部屋へ向かう。

 これは勝利への行進なのかドナドナなのか。

 そう考えている俺の脳とは裏腹に、下半身が完全に準備OK状態になっているのが何とも……


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る